2019.1219

教学マネジメント特別委員会が終了、年明けに指針公表へ

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3行でわかるこの記事のポイント

●議論を振り返り、「学修者本位」への転換を打ち出した意義を確認
●「長期的な取り組みの重要性を示した点が成果」
●高校や経済界への発信の必要性も指摘された

教学マネジメントの指針策定に向けて議論してきた文部科学省の有識者会議が12月中旬、最後の会合を開いた。指針案は年明け、大学分科会の了承を経て公表される。最終回では「今後、自分の大学で当事者として教学マネジメントに取り組む」「短期的な成果を求めず、継続的、長期的な取り組みを」など、自らの決意表明やリソースが十分でない大学に寄り添う発言も聞かれた。各大学の主体的な取り組みによって、学修者本位の教育を実現することを確認し合った。

*教学マネジメント指針(案)はこちら
*指針案を含む第12回教学マネジメン特別委員会の資料はこちら
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●教学関連の用語集も作成

 中央教育審議会大学分科会の教学マネジメント特別委員会(座長・日比谷潤子国際基督教大学学長)の議論は2018年12月にスタート、1年間で12回の会合を重ねた。
 最終回では、「おわりに」のパートが追加された指針案が文科省から示された。そこでは、既存のシステムを前提とした「供給者目線」から脱却し、「学修者目線」の教育を実現する必要性をあらためて提起。
 指針では、教育成果の可視化と情報公表を教学マネジメントの柱として位置付けている。一層の情報公表を求められることに不安を抱えている大学を念頭に、「おわりに」では、改善に努力する大学のプロセスを見守るという社会の理解を要請。「課題が明らかになったとしても、各大学が真摯に教学マネジメントの確立に取り組み続けること自体を肯定的に捉え、長期的な視点でその取組を評価することが、各大学における教学マネジメントの確立を安定的・継続的に図る上で大きな後押しとなる」としている。
 教学マネジメントとセットで公表する教学関連の用語集の案も初めて示された。従来、「アセスメントポリシー」と呼ばれてきたものを「アセスメントプラン」としてあらためて定義したり、学修成果の「把握」と「可視化」の使い分けを示したりという内容だ。教学マネジメントに取り組むうえでの学内の前提知識共有に活用できそうだ。
*用語集(案)はこちら

 会合のしめくくりとして、出席した委員全員がこれまでの議論を振り返り、感想を述べた。この間、意見がぶつかったりすれ違ったりする場面もあったが、多くの委員が「自分自身が多くのことを学んだ」とコメント、「従来の考え方の修正につながる知見が得られた」との発言もあった。学生を中心に据えて多様な視点から意見を出し合い、「良い教育を構築するための手法」を磨き上げる意義が浮かび上がった。今後は、こうした議論が各大学の中で展開されることを期待したい。
*委員名簿はこちら

委員のコメントの要旨は以下の通り。

●これまでの議論と指針のポイント・意義

 事務局によると他の有識者会議と比べても活発な議論が展開されたといい、高等教育研究者、学習研究者、現場の教学責任者、産業界など、さまざまな視点からの考えが指針に反映された。
・経営効率重視の教育から学修者本位の教育への転換を打ち出し、教学マネジメントのバイブルになる。
・学生をどう育てたいかという目標を確認することが教学マネジメントの本質だという点を明確にした。この指針が文科省の特色GPの時のように大学教育を元気にし、変えていけるか注目している。
・教育の質向上には「大学全体」「学位プログラム」「授業科目」という3つのレベルでシステムとして取り組むという考え方を示した点が大きな成果。
・これまで各論としてバラバラに下りてきたものが、教学マネジメントという言葉でつながるプロセスとして捉えられるようになった。
・短期的な成果を求めるのではなく、継続的、長期的に取り組むべきだと強調したことが重要だ。
・大学が共通で取り組むべき目標(均一化)と各大学の個性を発揮する部分(個性化)のバランスという考え方が根底にある。特に私立大学にとっては、自学の特色を教育にどう反映するかが重要になってくる。
・「学修成果の全てが可視化できるわけではない」「『測定のための測定』に陥ってはならない」など、良い意味で行政文書らしくないところがいい。データで示されるものが全てだと言ってしまうと、教員は抵抗、忌避して受け入れられない。
・委員会では内部質保証について議論しなかったが、教学マネジメントによって教育がうまく機能していることを示すのが内部質保証の一部。従来、認証評価は評価委員会のような組織が担当し、教学と切り離されることが多かった。教学マネジメントと内部質保証が密接につながっていることを打ち出し、教学委員会が質保証に責任を持つという認識を持ってもらうことは大きな意義がある。

●指針の普及・取り組みの推進

 「指針を作ることがゴールではなく、実際の取り組みを促すことが大事」という発言が相次ぎ、文科省の広報活動に対する要望も示された。
・私の大学でも明日、早速、全教職員に対する指針案の説明を予定しており、今後はより積極的に取り組んでいく。
・「学生のため」「大学の役割」という観点で可視化の重要性を繰り返し確認したこの委員会の雰囲気を自分の大学にも伝え、当事者として教学マネジメントに関わっていきたい。
・文科省が事例集を作るとのことだが、いい取り組みは徐々に増えていくはずなので1回作って終わりではなく継続的に発信してほしい。
・中学・高校の生徒と教員、保護者、経済界、マスコミなどにも教学マネジメントの考え方を積極的に発信し、大学教育が変わることへの期待を高めることが大事だ。

●拘束力・補助金との関係

 指針の内容が大学に義務づけられることはないが、大学の間では今後、何らかの形で補助金に反映されるのではという見方が強い。
・指針にはどの程度の拘束力があるのかとよく聞かれる。教学マネジメントは何らかの縛りを受けてやるものではなく、各大学が主体的、戦略的に取り組むことが重要。とは言っても現実として教学マネジメントの推進が難しい大学はあるので、高等教育関係の学会や協会、大学団体がFD・SDを主導するよう期待したい。
・大学の現場は忙しくなる一方だ。「やることがまた増えた」「これも補助金と連動するのか」という疲弊感がある中で、指針を補助金と絡めるようなことはやめてほしい。
・文科省には減点主義ではなく、頑張っている大学を元気づけるようなインセンティブを考えてほしい。

●教学マネジメントに消極的な大学について

 指針には法的拘束力がないため、特段の対応をしない、できない大学も出てくるだろうとの声があった。
・ちゃんと取り組む大学とそうでない大学とに二極化するだろう。地方大学や小規模大学だとやりたくてもリソースが足りない、情報が届かないという事情があったりするので、そこを支える仕組みも必要ではないか。
・教員は恒常的に忙しく、全学のセンターから学部に、あるいは学部から個々の教員に、やるべきことが下りてくると、アリバイ的に形だけ整えて済ませられないかと考えてしまいがち。しかし、われわれは学生が4年間で大きく成長することを経験上よく知っていて、それをきちんと把握することの重要性も認識している。学生のためならやらないわけにはいかないという気持ちも教員共通のものだと思う。
・大学にとって教学マネジメントが時間のかかるものであるなら、今、目の前にいる学生にも「今後、大学教育はこう変わっていく」と伝えてほしい。10年後、自分たち以上の力をつけた後輩が職場に入ってくることを認識し、自分がなすべきことを自覚するはずだ。

●大学に対する評価のあり方、パラダイム転換への期待

 教学マネジメントが大学を評価する基準を変えるとの期待、社会が変わらなければ教育マネジメントの進展は難しいとの考え方が示された。
・教学マネジメントの推進によって、教育成果が上がっていないことが可視化される可能性もある。社会は大学が改善のプロセスを回していることを評価し、ある程度長い目で見てほしい。
・公表したくない問題点をきちんと公表する姿勢を評価する文化を作っていくべきだ。
・教学マネジメントの取り組みによって、入学時の偏差値という大学評価の尺度が卒業時に身に付いた力という尺度に変わるパラダイム転換につながるはずだ。
・認証評価機関の評価基準は今回の指針をベースに作ってほしい。さまざまな場面で指針を共有・参照することによって、大学改革が効率的に進むようにすべきだ。

●今後、議論すべきこと

 委員会では、委員がそれぞれの関心事に基づいてさまざまな問題提起をしたが、時間の制約上、踏み込めないテーマも多かった。次のステップで深めるべきテーマも挙げられた。
・教員の教育能力は教学マネジメントの一丁目一番地。そこを担保できるよう、指針でFD・SDからさらに踏み込んだ提言ができるとよかった。高等教育の国際通用性の観点からも、教員の資格化、教員対象研修プログラムの認証等について議論すべき時期に来ている。
・欧米の大学ではカリキュラム委員会にも学生が入っている。日本の高等教育はそこが弱いので、学生本位という方向性を進めるため、学生の声を聞くことも考えていくべき。
・教学の出発点になるべき「どういう人材を育てるべきか」をここで議論できなかったが、社会にとってはそれが重要。指針案の「おわりに」に「教学マネジメントの確立のためには産業界や社会との連携が重要」というメッセージがあるが、次のステップではこの部分を具体的に展開する必要がある。