2020.0212

教学マネジメント指針公表―「学修者目線」への転換を促す

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3行でわかるこの記事のポイント

●「自律的な学修者」を育成するための教学改善のPDCA確立がねらい
●教学マネジメントにおける学長の責任を強調
●大学分科会では「今後は教員の質保証の議論が必要」との指摘

文部科学省はこのほど「教学マネジメント指針」を公表した。ディプロマ・ポリシーに定めた学修目標を達成するための教学改善のPDCAサイクル確立を促すことがねらいで、学修成果の可視化と情報公表が柱になっている。作成に関わった委員らが「教学改革のバイブル」と評するこの指針によって、各大学が学長のリーダーシップの下で学修者目線の教育への転換を実現できるか、注目される。
*「教学マネジメント指針」はこちら
*関連の全資料はこちら
*参考記事はこちら


●予測困難な時代、卒業後も学び続けるために必要な資質・能力を

 指針の検討を担った中央教育審議会大学分科会の教学マネジメント特別委員会(座長・日比谷潤子国際基督教大学学長)は2018年12月にスタート、1年間にわたる議論が展開された。
 指針のコンセプトは「『供給者目線』から『学修者目線』への転換」。中央教育審議会の「グランドデザイン答申」(2018年11月)で打ち出された「学修者本位の教育の実現」という理念がベースになっている。指針の前文では、予測困難な時代において学生が卒業後も学び続ける必要性を指摘。自ら目標を明確にして主体的に学修に取り組む「自律的な学修者」を育成するため、大学は、自学の教育が学生に必要な資質・能力を身に付けさせる観点で最適化されているか、学修者目線で捉えなおす必要があるとしている。
 こうした考えの下、指針は「『三つの方針』を通じた学修目標の具体化」 「授業科目・教育課程の編成・実施」「学修成果・教育成果の把握・可視化」「教学マネジメントを支える基盤(FD・SDの高度化、教学IR体制の確立)」「情報公表」の5つの章で、大学に期待される取り組みや知っておくべき情報を示している。
*柱となる「学修成果・教育成果の把握・可視化」「情報公表」に関する解説はこちら

●「大学全体」「学位プログラム」「授業科目」の3つのレベルで解説

 指針は、「あくまでも参考情報の提供であり、マニュアルではない」という位置付けの下、取り組みの優先度の高いものから順に、文末は「~が必要である」「~が期待される」「~が考えられる」など、段階的に書き分けられた。例えば、「(個々の授業科目の到達目標は)『何を学び、身に付けることができるのか』を意識して設定される必要がある」「各大学においては、(中略)学長補佐体制の強化を図っていくことが期待される」「(シラバスは)教員間で相互チェックをする機会を設けること等も考えられる」といった具合だ。
 指針を参照することが最も強く望まれるのは「学長・副学長や、学部長など個々の学位プログラムの構築・運営に責任を負う者」とし、教学マネジメントの責任者を明確にした。特に学長の責任を強調、全学的な方向性に基づき、組織の縦割りを超えて横断的な共通基盤を作ることなどを求めている。
 指針の利用者としては、現場で実際に教育やその支援に携わる教職員も想定されている。学長、学部長クラス、そして現場の教職員という多様な層による利用を前提に、各章は「大学全体レベル」「学位プログラムレベル」「授業科目レベル」という重層的な説明になっている。これら3つのレベルそれぞれでPDCAを回し、互いの回転がかみ合うことによって教学マネジメントが円滑に推進されるという考え方だ。

●「教学マネジメントに関わる教職員の評価も検討すべき」

 教学マネジメント指針の案を審議した1月下旬の大学分科会では、次のような意見が挙がった。

◎情報公表の中で「各大学の判断の下で収集することが想定される情報」として例示されたものは、社会の側からするとぜひ知りたいものばかりだ。「大学の判断の下」とあるが、全ての大学でぜひ収集・公表を推進してほしい。
◎教学マネジメントという言葉が登場する前から、教学をどうすべきかという答えを求めて各大学が試行錯誤してきた。今回の指針で一定の整理が示されると、現場が思考停止に陥らないか懸念する。その意味でも、マニュアルとして使われないような発信の仕方が重要だ。
◎企業のブランドマネジメントには、製品そのものの価値を高めることだけでなく、そこに関わる従業員に行動指針を示して人事評価するところまで含まれる。教学マネジメントでも教職員の評価という観点が必要ではないか。
→文科省の担当者のコメント「特別委員会では経営面での評価は議論しなかったが、教職員への行動指針の浸透という考え方は指針のFD・SDの部分に盛り込まれている。それをふまえて各大学が経営の観点からも議論してほしい」。
◎教育の質保証と共に教員の質保証も重要な課題であり、教員のマインドと学生の意欲が噛み合わなければ教学マネジメントは無理。高校時代の学び方を続けて効率的に単位を取ればいいという学生の意識を変える授業ができるよう、教員研修を充実させなければいけない。
◎教学マネジメントを進化させる上で、今後は学生からのフィードバックが必要になる。満足度調査というレベルではなく、一緒に教育を作り上げるメンバーとして学生にカリキュラム編成に関わってもらう仕組みをつくっていくべきだ。
◎本学のような小規模大学では教学改善の負担は非常に大きいが、実践を積み上げていくと確実に学修成果が向上し、大学に対する評価も上がると感じる。文科省はこうした地道な取り組みをフォローアップし、各大学の特色強化につながるような発信をしてほしい。
◎本学でも真面目に取り組んでいるが、その分、教員の負担が増大している。今後は負担軽減策も示してほしい。

 文科省は次年度、特別委員会で報告されたものを含む大学の取り組み事例集を作成し、指針と合わせて大学での活用を促していく考えだ。