2020.0225

共愛学園前橋国際大学の教学マネジメント① 学生主体の学修成果可視化

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3行でわかるこの記事のポイント

●バラバラに整備してきた教学改善のためのパーツを、DPを起点にして再整理
●DPとカリキュラムのつながりを再確認し、マップ、ツリーを作り直す
●学生の自己評価能力の向上を支援し、自律的な学修者を育成

文部科学省が教学マネジメントの指針を公表した。大学は今後この指針を参考にしながら、ディプロマ・ポリシーで定めた教育目標を達成するためのPDCAサイクルの仕組みづくりに取り組むことになる。指針の策定を担った有識者会議委員の一人、大森昭生氏が学長を務める共愛学園前橋国際大学は、指針の議論と並行する形でいち早く教学マネジメントの仕組みの点検・手直しを始めた。AP事業やCOC+など、多くの文科省事業に採択されるなど、教学改革をリードする同大学の現在進行形の取り組みについて、大森学長に聞いた。これから教学マネジメントに取り組む大学へのメッセージと合わせ、2回に分けて掲載する。

*「教学マネジメント指針」と関連資料はこちら
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●AP事業やグローバル人材育成事業への対応で教学システムを整備

 共愛学園前橋国際大学の大森昭生学長は中央教育審議会大学分科会の教学マネジメント特別委員会(座長・日比谷潤子国際基督教大学学長)の委員として、全12回の会議に参加。カリキュラムや教授法、IRなど、高等教育各分野の専門家との議論で、教学改革を率いる立場から積極的に意見や悩みを述べ、指針にも反映された。
 共愛学園前橋国際大学は国際社会学部国際社会学科に英語、国際、情報・経営、心理・人間文化、児童教育の5つのコースを設置。教学マネジメントの起点となるディプロマ・ポリシー(DP)は学位プログラム単位で設けることになっているため、同大学の場合、どのコースも全学のDPで定めた目標をコースの目標の一層目に位置付けている。
 同大学は2014年度、文科省の大学教育再生加速プログラム(AP)の「テーマⅠ アクティブラーニング」「テーマⅡ 学修成果の可視化」の複合型に採択され、DPの見直し、学修成果指標の策定、CPの見直し、ポートフォリオによる学修成果の可視化などに取り組んできた。また、「グローバル人材育成推進事業(GGJ)」への対応としてGPA制度を含む成績評価の厳格化、CAP制、ナンバリングなどにも取り組んだ。
 同大学は教学マネジメント特別委員会の議論もふまえ、これら異なる目的の下で整えてきた教学改善のさまざまな仕組みを教学マネジメントの枠の中に位置づけ、再整理。どの部分が対応済みでどの部分が今後あらためて対応が必要なのか、確認した。その全体像は下図の通り。

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●抽象度の高いDPを補完するための成果指標を策定

 この図に沿って同大学の教学マネジメントの仕組みを簡単に説明すると次のようになる。
 DPを起点に、そこで定めた学修目標を達成するためのカリキュラムを構築し、シラバスやCAP制などのツールを運用しながら教育を展開。厳格な成績評価を行ったうえで学修成果を可視化し、その結果を公表する一方、学修目標の達成度向上のためカリキュラムを改訂する。以上が、同大学の教学のPDCAサイクルになる。
 以下、さらに詳しく見ていく。
 同大学のDPは「地域社会の諸課題への対応能力」といった抽象度が高い表現で、教学マネジメント指針が求める「学修成果や教育成果を、定量的または定性的な根拠に基づき評価することができるもの」にはなっていない。そこで、達成度の客観評価ができるよう、地元産業界の意見もふまえてDPの目標を4つの軸と12の力(「共愛12の力」)という指標にブレークダウンした。

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 シラバスには、各科目がこれら12の力のどれと紐づいているかを明記。学修成果の検証結果に基づいて毎年、シラバスを改訂している。

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 学修成果を点検・評価する際の基本方針であるアセスメントプラン(従来、「アセスメントポリシー」と呼ばれていたものを教学マネジメント指針で改称)は、「大学レベル」「カリキュラムレベル」「科目レベル」の3層で設定し、その拠り所となる3つのポリシーとあわせて公表している。
 カリキュラムレベルのアセスメントプランには「単位取得状況、GPA、外部客観テストなど、多角的な指標を用いて学修成果を評価」「各年度に学生が自己評価によって学修成果の振り返り(リフレクション)を行い、自己評価の精緻化のために教員との面談を行う」と書かれている。

●ポートフォリオとルーブリックに基づく学生の自己評価

 アセスメントプランにもあるように、学修成果の可視化の主役を担うのは学生自身だ。同大学は「生涯学び続ける自律的な学修者を育てる」という方針の下、学生の自己評価能力向上を支援している。
 学生は授業に加え、授業外学修や課外活動、ボランティア等の学外活動、各種資格取得等の活動記録をポートフォリオ(Kyoai Career Gate=KCG)に蓄積。ポートフォリオには各履修科目が12の力のどれに対応するか表示されるのに加え、課外活動等についても学生自身が12の力と紐づけて記録する。年度末にはそれぞれの力に関連する授業や活動を横断検索し、蓄積された記録をエビデンスとしてルーブリックに基づき力の修得度を5段階で自己評価する。教員は面談でそれらの評価の妥当性を確認し、次学期の目標について助言する。
 一方、大学側は外部アセスメントテストや学生調査を実施し、学生による自己評価と合わせて教育成果を把握・可視化する。
 大森学長は、自学が整備してきたこれら教学改善の仕組みをパズルのピースにたとえ、「ほとんどのピースは、教学マネジメントという新しい絵にうまく収めることができた」と説明。その一方で、カリキュラムマップとカリキュラムツリー、そしてカリキュラムは、現状のままでは「DPで定めた学修目標の達成に向けた様々な取り組みの体系化」という「教学マネジメントの絵」にうまく収まらないという。
 現在のカリキュラムマップはコース専門科目や共愛コアなど、科目群ごとの整理にとどまり、カリキュラムツリーは資格取得などへの道筋を示したもので、いずれもDPの達成を目標にして作られてはいないからだ。カリキュラムも、全科目について12の力との対応関係は整理されているものの、科目数が多すぎて目標に到達するための履修の道筋を検証できる状態ではないという。

●カリキュラム改訂によってDP達成をめざす

 2019年度からマップ、ツリーとあわせ、カリキュラムの大改訂に着手している。現在は、5つのコースそれぞれの目標がDPとどう結びついているか、点検中だ。まず、現行カリキュラムを12の力を起点にした新たなマップに落とし込み、正課外活動も含め12の力のマップ上での分布状況を確認。さらに、ポートフォリオによる学生の自己評価もふまえ、現行カリキュラムが実際に12の力の修得につながっているか検証する。その結果を基に新しいカリキュラムを構築し、マップとツリーを作り直すという進め方が予定されている。「学修成果指標が明確だからこそ、これらの作業で各コースが自走できている」と大森学長。
 カリキュラム改訂に合わせて科目を精選し、現在の480科目から250科目へとほぼ半減させる原案をまとめた。コース専門科目の履修単位を減らし、その分を学部共通科目にあてる。コースごとの専門性を担保したうえで学部全体のDPの達成を重視する考えが反映されている。科目選択の自由度を高める「個性的選択」を廃止し、大学として身につけてほしい力の修得を優先させることも検討している。
 12の力の中でも、大学の最大の特色である「地域社会と国際社会の関わりを捉え、両者をつなぐことで、地域社会の発展に貢献する姿勢」につながる「GLOCAL」科目をブラッシュアップ。「現代社会において必要な基本的スキルと自らの強みとなる実践的スキル」の修得を強化するため、学部必修の数理ICT科目群も新設する予定だ。
 新カリキュラムは2021年度からの実施をめざしているが、目下「最大のウリであるGLOCAL科目が8単位でいいのか」「コースの専門性はこの単位数で修得可能か」といった議論が活発になされている。議論を丁寧に積み上げた結果、新カリキュラムのスタートが1年延びる可能性もあるという。
 大森学長は「カリキュラムは全教職員で議論することが重要であり、それによって一人ひとりがカリキュラム全体を自分事として捉える意識が生まれる。DP達成のためのカリキュラムという柱さえぶれなければ、最終的な着地点が原案と変わっても問題ではない」と話す。

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