2018.1112

大学設置基準を抜本改正し、"学修者本位"への発想転換を促す

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3行でわかるこの記事のポイント

●経営的観点に基づく学生定員設定からの脱却に向け、年明けから議論
●定員管理による質保証という現状に問題意識
●既存の大学・学部等も認証評価第4サイクルから新基準に沿ってチェック

早ければ4年後をめどに、大学設置基準が大きく変わりそうだ。実態として、経営的観点に基づく学生定員の設定からスタートしている現在の学部等新設の構想プロセスを、学修者本位の発想へと転換すべく、大改訂を加える。学生定員については、大学の主体的で説得力ある説明を前提に、柔軟に設定・管理できるよう段階的に制度を見直し、将来的には定員の撤廃も視野に入れるという。一方で質保証のための学修成果の可視化や情報公表も徹底していく。背景には「定員管理で質保証している現状への問題意識」(文部科学省の担当者)がある。1956(昭和31)年の制定以来となる設置基準大改訂の考え方、大学が今から準備できることについて文科省に聞いた。

*将来構想部会の答申案はこちら


●大学のマインドセットを変え、構想プロセスをあるべき姿に

 中央教育審議会大学分科会の将来構想部会が11月にまとめる予定の答申には、「現在の設置基準を時代に即したものとして、例えば、定員管理、教育手法、施設設備等について、時代の変化や情報技術の進歩、大学教育の進展を踏まえ、学生/教員比率の設定や、編入学や転入学などの学生の流動性への対応、教育課程を踏まえた教員組織の在り方、情報通信技術を活用した授業を行う際の施設設備の在り方など、抜本的に見直す必要がある」との一文が盛り込まれる方向だ。さらに、「この見直しについては、新たに設置される大学のみならず、既存の大学も含んだ全ての大学を対象として」という補足も加わる。
 Between編集部の取材に対する文科省の石橋晶高等教育局高等教育政策室長(中央教育審議会の事務局を担当)の説明は以下の通り。

 将来構想部会の答申を受ける形で、2019年早々にも大学設置基準の見直しについて検討する場を設ける。検討、そして実際の制度改正に要する時間を考えると、早くても2022年度からの新設が適用になる見通しだ。
 現状、学部等の新設は多くの場合、「こういう教員がいるからこういう分野の学部が作れる」「収容定員をこれくらいにしないと経営が成り立たない」というように、経営的観点に基づく学生定員の設定からスタートしている。大学設置基準の構成も第二章以降、「教育研究上の基本組織」「教員組織」「教員の資格」という具合に組織の話から始まり、続いて「収容定員」、それからようやく「教育課程」が出てくる。こうしたプロセスでは「何をどのように教え、どう成長させるか」という教育の本質部分をきちんと考えるのは難しい。
 新しい設置基準では、自らの大学の強みや特色をふまえ、コアに据えたい教員や学問分野が存在する場合、その資産を活用してどのような人材育成をするのかを基礎にして、そこからカリキュラムと教育手法を考え、どういう教員組織が必要か、教育体制と社会の人材ニーズをふまえると学生定員はこれくらいになる...というプロセスで構想してもらう方向だ。教員資格など必要な項目は残しつつ、こうした構想が立てやすいように設置基準を改定し、大学のマインドセットを変えていければと考えている。

●合理的な説明があれば多少の入学定員超過等には柔軟に対応

 アクティブラーニングやオンライン授業など、教育手法が多様化する中、1956年当時の教育手法等を前提とし、学問分野ごとに収容定員とそれに応じた専任教員数、定員に基づく施設面積など、外形的基準を一律に規定するのが実態に合わなくなっている。従来型の施設が不要だったり、これまでにない施設や機器が必要だったりということもあるだろう。大学である以上、図書館は必須となっても、ラーニングコモンズなど、図書館のスタイルも多様化して一律の基準を示すのには無理が出てきている。施設のことをどこまで設置基準で規定するのがいいのか、そもそも必要なのかということも含めて検討する。
 定員管理についても、例えば「教育環境としては●人まで受け入れ可能だが、実際の定員は少な目に設定する」という説明がなされている場合、入試で歩留まりを読み誤って多少、入学定員を超過しても、本来のキャパシティの範囲内であれば基盤的経費の減額などのペナルティは課さない方向も考えられるのではないか。
 世界から多様で優秀な留学生を集める際、国際標準の入試方式に変えていけば、入学者の数が想定より少なくなることも考えられる。従って、入学定員超過だけでなく、未充足についても柔軟に対応すべきではないか。学部横断型の教育が進む中、教員組織や学生定員を学部単位ではなく大学全体で設定することもあり得る。その場合、ある学部で入学定員が超過しても他学部で定員に余裕があるとか、他学部の教員が指導をカバーできるというように教育に支障がないことが示されれば、不問にするような柔軟な仕組みを検討したい。
 こういうことを考える背景には、社会の変化と大学の実態の変化とがある。本気で学生のことを考え、社会の変化に合わせた新しい教育にチャレンジしようとする大学が、硬直的な基準に阻まれて断念せざるを得ないということがないよう、大学の主体的で柔軟な発想を生かせる設置基準にすべきだ。

●学修者本位の教育への転換ができれば定員撤廃もあり得る

 設置基準見直しの中でも学生定員の扱いは最も難しいテーマになる。一気に定員を廃止するのは現実的ではないが、将来的にはそれも視野に入れたい。先に述べたように、経営的観点ではなく教育的観点から定員を考えるというマインドが大学の中に定着していけば、さほど難しいことではないと思う。要は、「大学は学修者本位で教育のことを考える」ということにどの程度の信頼を置けるかという話だ。
 定員を守っていれば良しとするのは文科省にとっても大学にとってもある意味、楽なことだが、真の質保証とは何かという難しい課題を避けてきたのではないかという反省もある。
 将来構想部会の答申には、保証すべき高等教育の質として「何を学び、身に付けることができるのかが明確になっているか、学んでいる学生は成長しているのか、学修の成果が出ているのか、大学の個性を発揮できる多様で魅力的な教員組織・教育課程があるかといったことは重要な要素となる」という文言が入る方向だ。
 すべての大学がこの質を保証し、社会への説明責任を果たして理解を得るためには、項目の定義を明確にした上で、大学教育の質に関する情報(入学者選抜の状況、留年率、中途退学率、教員一人当たりの学生数、学修時間、学生の成長実感・満足度等)を公開し、学修者本位の教育に転換していくことが必須となる。

●既存の大学については経過措置を設ける方向

 柔軟な設置基準を悪用したディプロマミル(大学としての実態がなく学位を販売する機関・組織)のようなものは認証評価であぶり出し、社会からきちんと排除できる仕組みが必要だ。
 既存の大学・学部等については、認証評価によって新しい設置基準との適合性をチェックしていくことになる。2025年度からの第4サイクルの評価基準には、設置基準改訂の議論が何らかの形で反映されるだろう。各評価機関は従来、評価基準改訂の2年ほど前から準備に入るので、その頃から大学にも受審に備えるための情報が発信されると思う。既存の大学が一気に新しい設置基準に対応するのは難しいと思うので、一定の経過措置は必要だろう。
 経過措置の期間が過ぎても設置基準に適合しない大学があれば認証評価の結果、法令違反として文部科学大臣に報告される。文科省は法律が定める手続きに沿って大学に報告を求め、段階的な措置を踏まえても違反事項が改善されなければ、組織の廃止命令もあり得る。基盤的経費の減額や不交付といったペナルティも考えられる。ただし、学修者本位の教育を考えている大学が困るような設置基準ではなく、そのような大学が教育研究活動をさらに充実できる方向で検討すべきだと考えている。

●学生の声に耳を傾け、新しい設置基準への備えを

 新しい設置基準への対応の準備として大学にやってほしいのは、何と言っても学生の声に耳を傾けることだ。大学が何を身につけさせたいのか学生も十分に理解し、そのような力をきちんと修得して卒業していく仕組みがあると認識されているのか。足りないものがあるとしたら何か。学生調査をやっている大学も多いと思うが、それだけでなく生の声をしっかり聞いてほしい。
 そのヒアリングを基にカリキュラムや教育手法、教員組織を組み直そうとした時、現行制度が障壁になるのであれば改正について前向きに検討するので、ぜひ教えてほしい。われわれがこれから取り組もうとしていることは、学修者本位の教育を考える大学が、それをよりスムーズに実現できるようにするための仕組みづくりなのだから。


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