2021.1116

大学のデータサイエンス認定プログラムの多くが全学必修を掲げる

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3行でわかるこの記事のポイント

●4年制大学の公表されている申請書55件をベネッセが分析
●23校はすでに全学必修化し、14校は今後の必修化を予定
●半数近くはオンデマンド授業を活用

ベネッセコーポレーションは、文部科学省による2021年度の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」に認定された4年制大学のプログラムを独自に分析した。実績と今後の予定を合わせ、「全学必修化」を掲げる大学が多いことがわかった。

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●「一部の学部・学科で必修化」「一部科目を必修化」は13校

 2021年度の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」に認定されたのは大学、短大、高専を合わせて78校。そのうち、4年制大学は66校ある。インターネット主体の教育を行う1校を除外した65校のうち、大学のウェブサイトで申請書類を公表している55大学について、同書類に基づいてプログラムの傾向や特徴をベネッセコーポレーションが分析した。
 リテラシーレベルの要件では「学部・学科にかかわらず履修可能な形で開講」とされているが、全学必修までは求めていない。それでも、今回の分析対象55大学の42%にあたる23校は2020年度、全学必修で開講していることがわかった。一方、「一部選択」(学部・学科によって、または科目によって必修と選択が混じっているケース)は24%(13校)、「選択科目」として開講しているのは34%(19校)だった。
 「一部選択」と「選択」の計32校のうち14校は申請時に、今後の全学必修化の予定を明記していた。2021年度と2022年度にそれぞれ4校が必修化を予定し、2023年度以降に予定している大学も6校あった。

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 分析対象55校のうち、3分の2がすでに全学必修化しているか、今後の全学必修化を予定していることになる。政府の「AI戦略2019」における「大学は、2025年度までに全学生を対象にリテラシー教育を実施」という方針をふまえ、全学必修を想定して認定に臨む大学が多かったことがうかがえる。

●7割は1科目または2科目で認定要件をカバー

 申請したプログラム中、リテラシーレベルの要件を満たす科目の数は、「1科目」が27%(15校)、「2科目」が40%(22校)で、合わせて7割近くを占める。一方、「4科目以上」も17%(9校)あった。
 1科目の場合、その科目単独でモデルカリキュラムの「導入(社会におけるデータ・AIの利活用)」「基礎(データリテラシー)」「心得(データ・AI利活用における留意事項)」のすべてをカバーする内容が組み込まれていることになる。
 要件を満たすのが1~3科目だと全学共通科目としての開講が多いのに対し、「4科目以上」は工学系や医療系の大学を中心に学部・学科単位の教養科目や専門科目として開講されるケースが目立つという。
 
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 授業形態については、対面、オンラインを問わず同時双方向型の「ライブのみ」での開講が53%(29校)で半数を超える。「ライブとオンデマンドの融合」が43%(24校)、「オンデマンドのみ」が4%(2校)となっている。専任教員が多い大学ほどライブ形式を中心に開講する傾向が見られる。一方、大人数の授業ではオンデマンドの活用によって教員の負担軽減がなされているようだ。

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 初年度となる今回の認定では、学内リソースが豊富な大学や数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアムに参加して他大学の協力が得やすい大学を中心にいち早く申請がなされたこともあり、ライブ形式の授業が多いと推測される。ベネッセの担当者は「これから準備を進める大学では学内リソースの制約上、オンデマンドを選択するケースが増えてくるのではないか。コロナ禍でオンライン授業のノウハウが蓄積されたことも、その後押しになりそうだ」と話す。

●千葉大学は全学必修に加え、副専攻でより深い学びにも対応

 ベネッセは、申請書の分析を通して特徴的なプログラムも抽出した。
 千葉大学の「数理・データサイエンス教育プログラム」は、座学による「基礎」と演習による「展開」の2科目を全学必修としたうえで、より深く学びたいという意欲に応えるため、20科目(履修証明書)、または30科目(修了証書)からなる副専攻も設ける手厚い構成が特徴だ。
 筑波大学の「データサイエンス・リテラシープログラム」は、専門分野に応じた学びの動機付けに工夫が見られる。法学系であれば「人口知能における倫理的、法的、社会的問題」、体育系は「サッカーの上達にデータを生かす」など、それぞれの学生の興味・関心を喚起するテーマの動画でデータサイエンスへの導入を図っている。
 香川大学の「数理・データサイエンス・AIリテラシープログラム」は、座学と演習を組み合わせる「情報リテラシーA」は対面で開講し、座学中心の「情報リテラシーB」は学外リソースを活用したオンデマンド方式と、授業内容に応じた手法の組み合わせが特徴だ。
 ベネッセは2021年5月と9月に、データサイエンス教育に関するセミナーを開催し、それぞれの回に参加を申し込んだ大学教職員に「自学でのリテラシーレベル認定への申請予定」を聞いたところ、5月回から9月回にかけて「検討中・未定」の割合が減り、2022年度または2023年度に「申請予定」と答えた割合が増えた。「全学でのデータサイエンス教育の実施予定」についても同様の傾向が見られた。このアンケートは教職員個人が対象であり、2つの回で回答者が異なるため厳密な比較はできないが、データサイエンス教育は、教職員の意識において「検討中」から「具体的な予定」へと、状況が急速に進展しつつあることがうかがえる。
 
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  ベネッセの担当者は「政府を挙げて、大学における数理・データサイエンス・AI教育を推進する中、大学ごとの認定の有無やプログラム内容に対する高校生や産業界の関心は高まっていくだろう。大学には潜在的なものを含めさまざまなリソースがある。まずはそれらを洗い出し、足りない部分をどう補うかという現実的な検討をしたうえでのスピーディーなプログラム導入が期待されている」と話す。

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