2022.0530

設置基準改正へ①「専任教員」は複数大学・学部で兼務可の「基幹教員」に

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3行でわかるこの記事のポイント

●新しい設置基準は早ければ2022年内にも施行の見通し
●「基幹教員」に代えるねらいは、教学改革推進のための柔軟な教育組織編成
●一定の条件の下、他大学の教員や企業人等、常勤以外も「基幹教員」になれる

大学設置基準が大きく変わろうとしている。2022年3月に中央教育審議会大学分科会質保証システム部会がまとめた改革案に基づき、文部科学省が設置基準改正に向けた作業を進めている。学位プログラムの中核的教員の要件や教員数に関する見直し、設置基準の規制を例外的に緩和する制度の新設など、従来にない大きな変更となる。その中でも、質保証システム部会が「目玉」として打ち出した見直しについて、2回にわたって解説する。初回は「専任教員」から代わる「基幹教員」について取り上げる。「一人の教員が複数大学・学部の基幹教員になれる」という基準見直しに対し、柔軟な教育組織編成という点で期待が高まる一方、教育の質をいかに担保するかが課題となりそうだ。
*記事中の図は文科省の資料から引用。
*文科省の改正案(6月22日の大学分科会で更新)はこちら
*基幹教員についての資料はこちら
*6月22日の大学分科会の全資料はこちら
*参考記事
設置基準改正へ②オンライン授業単位数上限等を緩和する特例制度の創設(Between情報サイト)
設置基準改正へ③教職協働の実質化、学修を深める教育課程編成を(Between情報サイト)

大学設置基準を抜本改正し、"学修者本位"への発想転換を促す(Between情報サイト)


●働き方の多様化や文理融合・分野横断型教育のニーズの高まりに対応

 大学設置基準は2022年内に速やかに改正され、経過措置も置きつつ、即、施行される見通しだ。
 現行の大学設置基準では、専任教員は一つの大学、学部のみで務められることになっている。これを、複数の大学、あるいは学内の複数学部で兼務したり、産業界の人材などを含む常勤以外の教員が務めたりできるよう要件を改め、「基幹教員」という名称に変える。
 クロスアポイントメント等、大学教員の働き方が多様化しつつある現状をふまえた見直しだ。文理融合や分野横断型の教育の必要性が高まる中、例えばAIやデータサイエンス等の新分野を教えられる教員に、複数の大学、学部等の中核として教学改革を担ってもらうことが期待されている。

●教育課程に責任を持ち8単位以上担当の常勤者以外を4分の1まで算定可

 文科省が検討している改正案は以下の通り。
 「専任教員」に代えて設ける「基幹教員」について、「教育課程の編成その他の学部運営について責任を担う」等の定義・要件を明確化する。
 常勤の教員が一つの大学・学部のみの基幹教員になる場合は、当該教育課程の編成等に責任を担うとともに、主要授業科目を担当していることを要件とし、単位数の規定は設けない。常勤以外の教員が基幹教員になる場合は、同様に当該教育課程の編成等に責任を担うとともに、「当該学部等の授業科目を8単位以上担当していること」を要件とし、設置基準上、最低限必要な基幹教員数の4分の1までカウントできる。
*文科省は6月22日の大学分科会で、「常勤の教員」を「専ら当該大学の教育研究に従事する教員{一つの大学でフルタイム雇用されている者等(月額報酬20万円以上)を想定}」と説明。「教育課程の編成その他の学部の運営について責任を担う」については、「例えば、教授会や教務委員会など当該学部の教育課程の編成等について意思決定に係る会議に参画する者等を想定」と説明した。
 一方、大学内で常勤の教員が複数学部等の基幹教員を兼ねる場合は、質保証の観点から、一つの学部等に所属する場合の「単位数の規定なし」とは異なり、常勤以外の教員と同様、それぞれの学部等で教育課程の編成等の責任を担い、かつ授業科目を8単位以上担当することを要件とする。そのうえで、最低限必要な基幹教員数の4分の1までカウントできる。残り4分の3は「常勤以外の教員」や「他の学部等との兼務者」ではなく、その学部等の教育課程等に専属的に従事する常勤の教員とすることによって、学部等の教育の安定性・継続性を確保する。

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●「非常勤教員の過重負担等の問題を防止できる策を」と文科省に注文

 文科省が5月中旬の大学分科会で設置基準の改正案を示したところ、委員から「経営」「労務管理」「教育の質保証」等、いくつかの側面から留意すべき問題が指摘された。
 質保証システム部会も含め、これまでに挙がった懸念は「教学改革のための柔軟な教育組織編成を促す制度変更が、人件費節約等、本来の趣旨から逸脱した目的で活用される可能性も否定できない」「非常勤教員の待遇を改善しないまま、基幹教員として過重な負担を強いる恐れがある」「大学設置・学校法人審議会は申請内容が規定に反していない限り、一人の教員がいくつもの学部の基幹教員を兼ねることを認めざるを得ない。しかし、それで本当に学生に不利益が生じないのかと不安を感じるだろう」といったことだ。
 永田恭介分科会長(筑波大学学長)は文科省に対し、「こうした問題が起きないよう、しっかりした仕組みを講じてほしい」と注文した。
 学外者が質保証の観点から教員組織について確認できるよう、各大学に基幹教員に関する情報公表を課すべきだとの意見に対し、文科省は「現行制度にある教育情報の公表の中に位置づける方向で検討したい」と答えた。
 大学設置基準改正後も、専任教員のままでの教育組織編成も認める経過措置が取られる方向だが、大学によっては2023年度から基幹教員に代わることになりそうだ。