2020.1223

【12/23再更新】補正で前倒し21年度は公募なし‐DX×学修者本位の教育

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3行でわかるこの記事のポイント

●第3次補正予算の「ポストコロナ」枠で60億円を計上
●2021年度予算案には盛られず、募集は年明けのみ
●VRを活用した遠隔型実験・実習は3億円×10件の選定を予定

この記事は「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」事業に関する11月16日、12月17日の記事の再更新版です

文部科学省が2021年度予算案に計上していた「高等教育版DX」の新規事業「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」は、2020年度の第3次補正予算案に移され(60億円)、前倒しで実施されることになった。このほど閣議決定された2021年度予算案には同事業(当初の要求額は90億円)は含まれず、2021年度は「募集なし」が確定。年明けの公募のみとなり、申請を予定している大学は準備を急ぐ必要がありそうだ。
*文科省が12月23日に開いた説明会の動画と資料はこちら


 第3次補正予算案は「15カ月予算」として組まれている。文科省の「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」は「ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現」の枠で60億円が計上されている。支援対象とする取り組み内容は2021年度予算案で示されたものと同様で新たなシステムの導入が前提となるが、選定のカテゴリが2つに分かれ1件当たりの配分額も異なるなど、中身が一部、変更されている。
 文科省の資料によると、「取り組み例1」のテーマは「学修者本位の教育の実現」で、1件あたり1億円で30件程度の選定を予定。「学修管理システム(LMS)を導入して全科目で学生の習熟度を把握」「蓄積された学修ログをAIで解析し、教育を個人最適化」などが例示されている。
 「取り組み例2」のテーマは「学びの質の向上」で、1件あたり3億円で10件程度の選定を予定。「VR(Virtual Reality)を用いた(対面ではない)実験・実習の導入」など、「デジタルの活用によって従来、困難とされていた内容の遠隔授業の実現」を例示、さらに「開発した教育システムやデジタルコンテンツの他大学との共有」も示されている。「取り組み例1」以上に大がかりなシステムの導入の支援が想定されている。
 文科省は12月23日に大学等に対する説明会を実施。年明けに公募を開始する方向で検討を急いでいる。応募を締め切った後、1カ月程度で選考結果を発表したい考えだ。
 
<以上、12月23日更新。以下は11月16日の記事>

「DX×学修者本位の教育」を支援―文科省の2021年度概算要求

文部科学省は2021年度から、デジタル技術を活用して学修成果の可視化やバーチャル留学プログラムの開発、リカレント教育などに取り組む大学等を支援すべく、概算要求に事業費を盛り込んだ。官民を挙げて展開されている「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」の高等教育版として、「学修者本位の教育への転換」をめざす計画を募集・選考し、1件あたり1億5000万円を補助する予定だ。


●反転授業や地方大学の柔軟な学びも支援対象として想定

 文科省が予算を要求している「高等教育版DX」の新規事業は「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン(Plus-DX)」。2018年11月の「グランドデザイン答申」で中央教育審議会が打ち出した「学修者本位の教育への転換」に、DXを通して取り組む大学を支援する。
*文科省の概算要求資料はこちら(「Plus-DX」については P30に掲載)
 この事業では、オンライン授業システムやLMS(学習管理システム)、学修ポートフォリオ、AI、VR(Virtual Reality)などのデジタル技術を駆使することによって、学修成果を可視化して学生がどんな力を修得したか自ら説明できるようにしたり、社会人学生や留学生が集い多様性が確保された学修環境を整備したりする大学を支援。各大学の成果を広く普及させることをめざす。
 対象として次のような取り組みが例示されている。
・AIやチャットボットを活用して学生の質問にリアルタイムで答える仕組みを構築し、学修意欲の向上を図る。
・LMSに蓄積された学習ログをAIで解析し、学生一人ひとりに最適化された教育を行う。
・オンラインによる知識修得型授業と対面によるディスカッション型の授業を組み合わせ、反転授業を推進する。
・地方大学が都市の大学や海外の大学と連携した教育プログラムを導入し、多様で柔軟な学びを提供する。
・社会人に時間や空間の制約を超える効率的な学修機会を提供する。
・多言語オンラインコンテンツや同時通訳技術を活用して「バーチャル留学」(受け入れ・送り出し)を実現する。
・VRを活用して非対面型の理工系の実験・実習や保健医療系の臨床教育・実習を導入する。

●単なるシステム導入ではなく「目標達成に向けた計画」が求められる

 例えば、新たにLMSを導入する大学がこの事業に申請する場合、LMSを使ってどんな仕組みを作り、いかにして学修成果の可視化や一人ひとりの習熟度に合った教育を行い、学修意欲の向上につなげるかという計画を提出する必要がある。すでにLMSが整備されている大学であれば、これと組み合わせる形で新たにAIを導入し、同様の目標の実現に向けた計画で申請することなどが考えられる。
 対象は国公私立の大学・短大・高専で初年度は60件(うち5件程度は高専)を選定する。ソフト、ハードにかかる費用と人件費で1件あたり1億5000万円、最大3年間の支援が予定されている。
 新型コロナウィルスの感染拡大によって大学がオンライン授業への対応を迫られる中、オンラインと対面とを組み合わせた「ポストコロナ時代」の効果的な教育手法の確立を促すねらいもある。デジタル庁の設置など、政府全体でデジタル化への取り組みが推進される中、大学改革の方向性と連動した施策として「学修者本位の教育」というキーワードを打ち出している。

●産業界から知恵やカネを呼び込み学生を育てる「エコシステム」の構築

 文科省は「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン(Plus-DX)」事業に加え、もう一つの「高等教育版DX」推進事業として「大学教育のデジタライゼーション・イニシアティブ(Scheem-D)」も計画している。こちらもデジタル技術の活用によって学修者本位の大学教育への転換を促すねらいがある。
*「Scheem-D」の資料はこちら
*「Scheem-D」のプロモーションイベントの動画はこちら
 「Scheem-D」では、デジタル技術を用いて大学等の授業価値を最大化するアイデアを募り、実際の授業でのフィージビリティ・スタディ(実行可能性調査)で有効性を検証するプロセスも支援する。
 教員や企業からアイデアを公募し、公開の「Pitchイベント」でプレゼンテーションしてもらう。アイデアに賛同し、フィージビリティ・スタディに協力する教員や開発資金を出資する企業等に手を挙げてもらい、マッチングを行う。文科省が効果検証の結果の情報も発信し、知見を蓄積する。要求中の予算5000万円は、Pitchイベントを柱とする一連の仕組みの運営者への委託費にあてられる。
 文科省が公式な事業として大学と企業をマッチングするのは異例とも言える。教育のイノベーションを文科省と教育機関だけで考えるのではなく、産業界からも知恵やカネを呼び込んで「社会全体で学生を育てるエコシステムの構築」(担当者)の起点にしたいとの考えがある。
 Pitchイベントは年4回を予定、2021年2月中旬の初回開催に向け、アイデアの公募が始まっている。情報はScheem-D公式ウェブサイトで随時発信される


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