乗り切ろう!コロナ危機➈遠隔ライブ授業のノウハウをセミナーで提供
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2020.0608
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3行でわかるこの記事のポイント
●リアル授業の再現をめざさず、学習目標到達という目的を重視
●受講者の心理に寄り添うフォローで集中力維持をサポート
●遠隔授業の蓄積をコロナ後にどう応用するかという観点で総括を
ベネッセコーポレーションは5月中旬、ウェブ によるインタラクティブな授業のノウハウを伝えるウェブセミナーを開催した。オンライン学習プラットフォーム「Udemy」の人気講師が、受講者の集中力を持続させる授業づくりのポイントを伝授。ベネッセからは、コロナ対応として取り組んできた遠隔授業を新たな展開につなげるための参考事例が紹介された。
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*乗り切ろう!コロナ危機⑧ 遠隔授業におけるセキュリティの注意点
*乗り切ろう!コロナ危機③ 遠隔授業の実践例などを集めたお助けサイト
ベネッセによる遠隔授業のセミナーは5月上旬に続き2回目。前回の録画型の授業動画に続き、今回はライブ授業を中心にノウハウを解説した。
コミュニケーションスキルを提供する人材育成事業を手がけ、2017年からオンライン教育を実践している栄美幸氏が講師を務めた。同氏はオンライン講座「Udemy」で「プレゼンテーション講座」「ウェビナー講師( Zoom を活用した初心者向け)育成講座」などを担当している。
栄氏が使用した簡潔明瞭なプレゼンテーション資料を大学の動画コンテンツ作成の参考にしていただくべく、このレポートでは資料を多く流用しながら講演の概要を紹介する。
リアルタイムで配信するライブ授業のポイントとして今回お伝えするのは①種類と特長、②陥りやすい落とし穴、③成功させる3つの条件、④目的に合わせたツールの活用、⑤長期の安定した配信のために―の5点。
1. ライブ授業の種類と特長
ライブ授業には双方向の対話型と一方向の講義型の2種類があり、それぞれについて講師と受講者の立場で比較すると下のような特徴がある。
これらの特徴を理解したうえで効果的な授業を作ることが重要になる。
2. ライブ授業の陥りやすい落とし穴
私自身は2017年からライブ授業に挑戦し始め、当初は会場を借りたり事務所を使ったりしてテスト収録した。ノイズや照明、Wi-Fi環境など毎回セッティングが大変で7カ月間のテストは全て失敗。その原因は、プロによるテレビ映像をイメージしながら、リアルの授業を動画で再現しようとしていたことだった。
学習目標に到達するためのライブ授業をつくるという本来の目的に立ち返り、その後は自宅メインで再チャレンジすることに。ウェブカメラと外付けマイク、配信ツールはZoom、照明は室内蛍光灯で、撮影用のグリーンバックや背景画像を使うという簡素な配信環境だ。
3.ライブ授業を成功させる3つの条件
私自身の経験をふまえた成功の条件は、(1)講師の配信環境を整える、(2)受講者の受講環境を整える、(3)飽きさせない授業作り-の3つ。以下、順番に説明する。
(1)講師の配信環境を整える
①オペレーション(操作)、②音声(マイク)、③映像(カメラ)の各ポイントは以下の通り。
講師が教えることに集中できるよう、最低でも事前のセッティングまで支援してくれる人がいるといい。
ライブ本番での音声確認だとノイズを聞き逃すことがあるので、テスト録音・録画で確認しておくことをおすすめする。
映像チェックの時には講師だけに目が行きがちだが、画面全体をチェックすることが大事。
(2)受講者の受講環境を整える
①スムーズなコミュニケーション、②メンタル面のフォロー、③授業の学び方の具体的な指示-の各ポイントは以下の通り。
受講者と配信側、それぞれにチェックすべきことがあるので覚えておきたい。
ITリテラシーが低いことに引け目を感じ、講師だけが頼りという受講者の不安に寄り添いフォローすることが大事だ。
挙手の仕方とタイミングなど、学び方について具体的な説明を十分に行い、2、3回目まではお試し期間と考えるといい。
(3)飽きさせない授業作り
オンライン授業では講師が受講者をコントロールできないため、集中力を持続できるような授業づくりが必要になる。①飽きるポイントの排除、②分かりやすい(飽きない)構成、③集中力アップの「魅せる」工夫-の各ポイントは以下の通り。
資料はフォントやサイズにも気を配り「一目でわかるスライド」にすることが大事だ。
「②分かりやすい構成」については以下に示す通り、双方向の対話型と一方向の講義型それぞれにポイントがある。
時間配分は、受講者が手を動かす対話型では戸惑わないようリアル授業より長めにし、受講者が聞くだけになる講義型では短めにしてめりはりをつけるのがポイント。講義型では授業の構成の全体像を見せ、今はその中のどこをやっているか都度、確認しながら進めると受講生は集中力を維持しやすい。
講師の表情や話し方によっても受講生の集中力が大きく変わることを覚えておきたい。
4. 目的に合わせたツールの活用
私が使っているZOOMを例に説明すると、双方向の対話型に使えるミーティング機能と一方向の講義型に使えるウェビナー機能がある。それぞれに以下のような具体的な機能がある。
ミーティング機能の場合、受講者の意見を引きだすファシリテーションスキル、さまざまな機能を使いこなすオペレーションスキルなど、講師に一定のスキルが求められる。
授業の目的に合わせてミーティング機能とウェビナー機能を組み合わせて活用するとよい。録画したものを授業のフォローアップや事前課題に活用すれば受講者の理解が深まるだろう。
5.長期に安定したライブ授業を配信するために
第一に、役割を分担してチームで授業をつくることが大事だ。スピーカーとオペレーターを分担し、担当教員が授業に専念できる体制にしたい。
第二に、受講者を学習目標に到達させる効果的な授業にするため、成功ポイントをチームで共有すること。
最後に受講者からのフィードバックを取り入れ、授業を最適化すること。これは受講者との信頼関係を深めるためにも大切で、私も授業のたびに受講者の感想や意見を聞き日々、改善している。
以上、5つの観点から話してきた。各大学のライブ授業をブラッシュアッするためのヒントになれば幸いだ。
●大学の課題は学生のモチベーション維持と教員の負荷削減
栄氏の講演に続き、ベネッセコーポレーションが「実践事例からコロナ終息後の遠隔授業を考える」と題し、以下のような情報提供を行った。
5月11日から大学に実施したアンケートでは、遠隔授業の課題は「学習者の集中力・参画意識の維持が困難」という回答が最も多く、「教員側が不慣れなため授業品質が低下」「授業準備負荷の増加」と続く。
これらをまとめると、大学が解決したい課題は「学習者のモチベーション維持」と「授業提供者の負荷削減」だと言える。当初はセキュリティやアクセス集中が懸念されていたが、ある程度、遠隔授業に取り組んでみて課題が変わってきたということだろう。
遠隔授業にはリアルタイム配信と既成コンテンツ配信の2タイプがあり、下図の通りそれぞれがさらに2つのタイプに分かれる。学生のモチベーションと教員の負荷という課題を解決するうえで、授業の目的に応じてこれらの手法をうまく組み合わせることが大事だ。
大学はこの数カ月間続けてきた遠隔授業で、どの目的にはどの手法が有効だったかという観点で振り返り、次の展開につなげるといいのではないか。
同じアンケートで、積み上げた遠隔授業のノウハウをコロナ収束後、どう活用したいか聞いたところ、正課の授業という回答が圧倒的に多く、他大学や企業との連携、入学前教育、リカレント教育などもそれぞれ20%割前後あった。
大学は今、従来の授業の手法の見直しを迫られている。これまで、さまざまな制約のためやりたいことを断念するケースもあったと思うが、学生が遠隔授業に慣れた今、その特性を生かした新たな可能性が広がっている。距離の制約を超えるリアルタイム配信、容量の制約も超える既成コンテンツ配信といった特性をうまく生かすことを考えたい。
ある国立大学では、遠隔授業のノウハウを今後、録画配信による自学自習と授業とを組み合わせるブレンディッド学習の拡充、および他大学との授業連携に応用したい考えだ。元々データサイエンスの授業でブレンディッド学習を取り入れており、学生からは苦手な分野は繰り返し視聴し、得意分野は2倍速で見るなど柔軟な学び方ができると好評だ。事前に知識を習得しておけば、対面の授業では発展的な内容を扱う時間を多く確保できる。今後はブレンディッド学習を一般教養にも広げる予定だという。一方、地域のコンソーシアムでの授業連携にウェブ授業を活用し、他大学の学生にキャンパス移動の負担なく自学の授業を受講してもらうことも考えている。
また、ある私立大学は遠隔授業を地域連携に応用する予定だ。メディア表現の授業では従来、教員や先輩の指導で修得していたスキルを、コロナ対応としてUdemyなどのコンテンツを活用して各自で学ぶ方式に変えた。Zoomに移行したゼミはリアルな場に戻す予定だが、そのノウハウは学生による小学生対象のプログラミング教室に応用したい考えだ。従来以上に広いエリアの小学生に受講してもらえると期待している。
各大学でも同様に、コロナ対応として取り組んだ遠隔授業のノウハウをコロナ後にどう生かしていくか、ぜひ考えていただきたい。
*「Udemy」の紹介サイトはこちら