入試・初年次教育担当教員が入学前の学習支援をテーマに情報交換会
入学前教育・初年次教育
2025.0929
入学前教育・初年次教育
3行でわかるこの記事のポイント
●入学前のスクーリングや面談で入学予定者と関係構築
●入学前面談の学習指導で、学習習慣や自己調整能力を身につけられるよう支援
●入学前教育の情報を学内関係者に共有し入学後に早期支援
多くの大学で入学者に占める年内入試合格者の比率が高まる中、入学後に必要となる基礎学力や学習習慣の担保が課題となっている。特に、資格取得のための必修科目が多い学問系統では、基礎学力や学習習慣をつけるための支援が欠かせない。入学前教育を活用した支援に熱心に取り組む薬学部の入試・初年次教育担当教員らが情報交換を行った。そこで話題に上った参考になる取り組みを紹介する。
▼情報交換会の参加者は以下の通り
高崎健康福祉大学薬学部・田中祐司准教授
徳島文理大学香川薬学部薬学科・竹内一准教授
北陸大学薬学部・高橋達雄教授
高崎健康福祉大学の田中准教授は「高校と比べると大学入学後は必修科目が多く学ぶ範囲も広い。『学習スケジュールや課題提出を管理すること』や『毎日コツコツ学習を継続すること』などの学ぶ姿勢は、入学までに身につけておきたい。入学を決めた直後は学生も受け入れやすいので、この時期の意識づけも大事」と語る。
同大学の入学前教育では、薬学系の教材に取り組ませ、入学後の学びをイメージしてもらう。入学までに実施する2回のスクーリングでは、過去のアンケート結果から先輩の声を紹介しつつ課題に取り組む重要性を伝え、学習意欲向上を図る。
「入学前に教員が学生の特性を把握することや、教員・学生・保護者間の相互の関係性づくりが早期支援のカギ」と話すのは、徳島文理大学の竹内准教授。
ドロップアウト防止のためには孤立を防ぐことが重要と考え、🔗入学前スクーリングでグループワークを通して仲間づくりを促す 。また、個別面談で教員と学生との関係構築を行う。事前アンケートをもとに進学理由や将来の目標等を聞き、不安軽減と学習意欲を高めるための助言をする。課題提出状況をふまえ学習習慣の把握にも努める。
この時期は傾聴の姿勢を重視するという。「入学後に欠席数や成績の問題が数値として顕在化した時にはすでに状況が深刻で、支援が難しい場合も多い。先回りして問題を察知できるよう、入学前の関係構築が大切」。
スクーリングには保護者も参加してもらい、学生を支援するための教員との連携を働きかける。
北陸大学では、年内入試の合格者全員を対象に、入学まで月1回程度の個別面談を実施する。課題取り組みの計画や進捗に問題がある場合は、改善のためのアドバイスも行う。このような丁寧な指導により、面談導入前と比べて、課題における理解度確認問題の得点率の全体平均が向上したという。
課題取り組み前後に回答する理解度確認問題の得点率が伸びた学生は、入学後の学力テストでも、初回の4月から2回目の8月にかけて得点率が伸びる傾向が確認され、進級率も高かった。高橋教授はこれを、学習方法に関する指導の成果と捉え、「入学後の中長期的な成長のためには、入学前に学習習慣や自己調整能力など、『学修の土台となる力』を身につけることが重要」と語る。今後、より多くの学生が「学修の土台となる力」を伸ばせるよう指導を工夫する方針だ。
徳島文理大学の竹内准教授は「学修の土台となる力」の育成に関連して、学習動機と学習方略に着目する。入学後に伸びる学生と伸びない学生について、入学前課題の取り組み状況とアンケートを比較した結果から、「伸びない学生は学習動機が不明確で丸暗記以外の方略を知らず、学習について強い不安感を持っている」と指摘。こうした傾向は、個別最適化した支援を検討する際の参考になるという。
入学前の取り組みを通して得られる入学生の情報は、入学後の学生支援にどうつなげられるだろうか。田中准教授によると高崎健康福祉大学では、課題の取り組み状況、2回のスクーリングの参加態度やそこで実施する学力テストなどの情報を初年次教育の担当者に連携。これらを学習支援が必要と考えられる学生の早期抽出と支援に役立てている。早期支援を要する学生の見極めのためには、複数時点の情報で学生の状況や特性を把握することが重要だと強調する。
初年次教育委員会に所属する竹内准教授は、学内連携について「多様な学生の多様な課題に継続的に対応していくためには、サポート側の役割を明確化し、やること・やらないことを決めておく必要がある」と話す。同委員会は教職員、保護者、先輩学生サポーターの連携による「同心円状のサポート体制づくり *」を推進している。そこでは、担任が相談窓口を担う場合は傾聴をベースに状況の把握と学生との信頼関係の構築に努め、アドバイスは別の教員が行うといった役割分担をしている。ピア・サポート等、学生同士の学び合いも、取り残さないための支援として参考になりそうだ。
各大学とも、自学の課題に合わせて入学前の支援を工夫し、それが入学後の学生生活へのスムーズな適応にもつながっている。年内入試が拡大する中で、多くの大学にとって示唆が得られる情報交換会となった。
進研アドは、今後もさまざまなテーマで入学前教育に関する情報交換の機会を設けていく予定です。
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