2020.1109

学長の指揮と教職協働で改革総合支援事業の成果を最大化―芝浦工業大学

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3行でわかるこの記事のポイント

●7年間の選定タイプ数27、上乗せした補助金は7億円以上
●「ルーブリックが明示され、挑戦しやすい仕組みが画期的」
●グローバルスタンダードをめざす自学の改革推進力として事業を活用

2020年度の私立大学等改革総合支援事業の申請締め切りが迫っている。独自の集計データを基に「過去7年間の選定タイプ数が最多」を誇る芝浦工業大学は、今年度も私学助成の増額を最大化すべく申請書類の最終確認をしている。教職協働の体制で競争的資金獲得を推進する同大学の取り組みについて、村上雅人学長に聞いた。
*図表は大学提供の資料を一部、加工して掲載


●増額分の補助金で2つのグローバルラーニングコモンズを整備

 2013年度の私立大学等改革総合支援事業(以下、「改革総合支援事業」)のスタート以来、芝浦工業大学はこの事業での私学助成増額に全学で取り組んでいる。毎年の申請データと文部科学省が公表する資料を独自に集計・分析し、自学の相対的な位置や課題を把握してPDCAを回す。
 同大学の集計によると、過去7年間で自学の選定タイプ数は27で最も多い。2016年度までは毎年全タイプで選定された。2017、2018年度は大学群で申請する「タイプ5 プラットフォーム形成」以外の全タイプで選定。2019年度は「プラットフォーム型」が「タイプ3 地域社会への貢献」に組み込まれ、もう一方の「地域連携型」での選定により再び全タイプでの選定となった。

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 各タイプの総合得点も高い。2019年度は「タイプ2 特色ある高度な研究の展開」でトップ、「タイプ1 特色ある教育の展開」は2位だった。「タイプ3 地域社会への貢献(地域連携型)」「タイプ4 社会実装の推進」も選定ラインを大きくクリアしている。

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 この事業で選定されると、使途の制約がない経常費補助金が上乗せされる。同大学ではここ数年、毎年1億円以上の上乗せを獲得し、7年間の合計は7億円に上る。これを活用して大宮と豊洲の両キャンパスに留学生と日本人学生が交流するグローバルラーニングコモンズをつくった。

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●学長就任以来、さまざまな事業で立て続けに選定

 改革総合支援事業におけるこのような成果はどのようにして達成されてきたのか。外部資金獲得の指揮を執る村上雅人学長の話は以下の通り。
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 文部科学省はこの10数年来、護送船団方式から競争的資金強化への転換によってめりはりある大学支援を進めている。もはや何もしなくても補助金が入ってくる時代ではなく、大学を運営し、改革を続けるには積極的に「取りに行く」ための戦略と努力が欠かせない。
 本学では2012年に私が学長に就任して以来、2013年度に「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」「女性研究者研究活動支援事業」に選定され、2014年度には「大学教育再生加速プログラム (AP事業)」「スーパーグローバル大学等創成支援事業(SGU)」に選定されるなど、さまざまな競争的資金を獲得してきた。
 改革総合支援事業もその一つだが、他の事業と大きく異なる点がある。COCやSGUは選考委員が申請書類や学長ヒアリングに基づいて支援対象を決める。改革のエビデンスを求められるが客観的な選定基準は明示されず、委員の評価観点によって結果が左右されることもあり得る。
 一方、改革総合支援事業ではルーブリックとも言うべき選定基準があり、前年度の選定ラインと合わせあらかじめ示されるので、自学が何点取れるか、選定されるかどうか、ある程度予想がつく。何をどの程度頑張ればいいか明確なので的を絞って取り組むことができる。こうした点において従来にはない画期的な事業であり、実施が決まった時、私は「この事業には全学で取り組む」と宣言した。スタート当初は手探りだったが、2、3年目からはルーブリックの傾向がつかめ、対策ができるようになった。

●自学の行動計画と改革総合支援事業とをリンクさせて取り組む

 本学では創⽴100 周年となる2027年にアジア⼯科系トップ10 の⼤学になるという目標の下、改⾰のための⾏動計画「Centennial SIT Action」を進めている。「理⼯学教育⽇本⼀」「知と地の創造拠点(研究⼒強化・地域連携)」「グローバル理⼯学教育モデル校」「ダイバーシティ推進先進校」「教職学協働トップランナー」という5本柱それぞれについて数字目標を設定し、達成のための取り組みが改革総合支援事業の各タイプ、各項目につながる形で連動させている。
 COCやSGUと改革総合支援事業の目標は重なる部分も多いので、いずれかの事業の取り組みが他の事業の目標達成にもつながるという点で、本学は有利と言える。例えば、AP事業でシラバスの整備や学修時間把握など、学修成果の可視化の課題にはすべて対応済みなので、改革総合支援事業で可視化を重点課題とする「タイプ1 教育」で高得点を維持できている。

●学長直結の大学企画課がコントロールタワー

 改革総合支援事業での選定をめざすうえで重視しているのは教職協働だ。教員は教育・研究に集中すべきというのが私の考え。大学改革について長期的視点で考えられる職員が外部資金獲得の中心的役割を担い、職員が描く戦略を教職協働で実行する体制を基本にしている。
 そのコントロールタワーとなるのが学長直結の大学企画課だ。大学全体の運営に関わる資金獲得、IRなどを担当するこの課に職員が文科省や他大学から得た外部資金の情報が集まり、共有される。新事業の概要が判明したらそこで資金を取りに行くべきかどうか議論し、具体的な戦略を練るためのチームを学長補佐、学事部長、大学企画課メンバー、関係部署の職員らで編成し、学部や各部署を動かす。
 毎年、改革総合支援事業の項目が出たら大学企画課が満点を取れているものと未達のもの、新規項目に整理し、項目ごとのおおよその目標を設定。期限までに達成可能か学長名の通知で全学部に聞く。目標が確定したら学部長・研究科長会議で進捗を確認。達成が厳しい学部には「無理する必要はないが、次年度の課題として引き続き取り組んでほしい」という具合に柔軟な対応をしている。「自分の学部だけが未達」というプレッシャーが奮起につながればそれでいい。
 毎年、高得点のタイプ1、2に対してタイプ3、4はまだ伸びしろがある。地域貢献や産学連携はむしろ本学の得意分野だが、現状では教員の個人的な連携もあり、改革総合支援事業が求める全学的な取り組みになっていない。教員には大学としての連携、契約に切り替えてほしいと要請している。

●文科省が示す改革の方向性を学長が自学の文脈に翻訳して学内で説明

 競争的資金を通して政府が意図する方向に大学を誘導することに懐疑的な意見もある。しかし、改革総合支援事業をはじめさまざまな事業を通して求められている改革は高等教育の国際通用性を高めるものであり、「アジア⼯科系トップ10」をめざしグローバルスタンダードを掲げる本学の方向性と重なっている。自らの意思で進める改革を後押ししてくれるものとして、この事業を活用しない手はないと思っている。
 ただし、文科省の要求をそのまま学内に下ろしても教職員の共感は得られず、自分ごとにしてもらえない。各項目を自学の文脈に翻訳して取り組みの必要性を説明することが学長の役割だ。例えば、シラバスの改訂については「文科省が言うから」という指示ではなく、「学生との約束なので職員はじめ第三者が理解できるものが望ましい」と説明することによって、当初は否定的であった教員からも理解が得られた。
 こうしたアプローチによって、今では改革総合支援事業はチャレンジするのが当たり前という意識が教職員の間に定着し、項目の発表時期が近づくと「今年はまだですか?」と聞かれるようになった。

●高等教育の国際的動向から次に出てくる項目を予測し、対策

 近年の競争的資金獲得において、他大学や文科省とのネットワークを通じた情報収集、審議会のウオッチに加え、高等教育の国際的動向の把握も欠かせない。これらをカバーすれば改革総合支援事業で次にどんな項目が出てくるか予測でき、対応しやすくなる。例えば、今は海外留学促進のための学位証明のデジタル化が国際的な課題となっており、近く改革総合支援事業の項目として追加されると予想し、これに関連した国際会議に教職員を派遣している。他国の大学の授業をオンラインで受講した場合に単位認定する仕組みも対応を急ぐ。
 これまで本学は改革総合支援事業で着実な成果を上げてきたが、あくまでも相対的評価による競争なので、他大学が頑張りだしたら選定から漏れることも当然あり得る。そうならないためにも本学の強みである教職協働をさらに強化し、改革を推進する。
 私は常々、「頑張れば職員も大学の経営層になれると」と言って職員を鼓舞し、積極的に外に出てネットワークを広げるよう促している。あらゆる会議体に教職員両方を参加させ、重要な意思決定の場には必ず職員も入ってもらう。教員と職員がリスペクトし合い、対等にディスカッションする。そんな風土を維持することによって、情報の収集と共有、戦略のブラッシュアップが不可欠な補助金獲得の成果をさらに上げていけるはずだ。

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