改革総合支援事業ー「タイプ1」申請校の2割でデータサイエンス必修
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2020.0407
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3行でわかるこの記事のポイント
●4タイプいずれかでの選定率は52%、6大学が全タイプで選定
●アクティブラーニング、入学前教育などの取り組みが進展
●2020年度はデータサイエンス教育をさらに重視
2019年度の私立大学等改革総合支援事業の選定結果がこのほど発表された。特に重視されたIR強化やデータサイエンス教育への取り組み状況を確認し、2020年度の選定に向けた対応について解説する。
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*記事内の図表はいずれも文科省の公表資料から。
私立大学等改革総合支援事業は大学、短大、高専が対象で、今回が7年目となる。
2018年度は「教育の質的転換」「産業界との連携」「他大学等との広域・分野連携」「グローバル化」「プラットフォーム形成」の5つのタイプで構成されていた。2019年度はこれを「タイプ1 特色ある教育の展開」「タイプ2 特色ある高度な研究の展開」「タイプ3 地域社会への貢献」「タイプ4 社会実装の推進」の4つに再編。
大学は複数のタイプに申請でき、タイプごとに設定された改革の進展度の評価項目について自己評価する。総合得点の高い順に選定され、配分額に得点が反映される。
四年制大学について見ると今回、プラットフォーム参加校として申請する「タイプ3 プラットフォーム型」を含めいずれかのタイプに申請したのは延べ877校(実数447校)で、延べ370校(実数242校)が選定された。実数での選定率は54%で、申請した大学の半数強が私学助成の増額を獲得している。
例年同様、最も多くの大学が申請したのが教育の質向上に取り組む「タイプ1」で、選定率は33%。前年度から従来の「タイプ1」の一部項目が一般補助の「教育の質の指標」に移行し、「タイプ1」の選定数は絞り込まれるようになった。
「タイプ2」への申請は最も少ない67校にとどまり、選定率58%のやや「広き門」となった。文系の小規模校が多い私立大学の中で、研究を強みとして「教員等の国際公募」「外国語による論文作成支援体制の整備」等の評価項目でポイントを稼ぐのはハードルが高いためだろう。選定された39校の多くが大規模総合大学や工学、医学などの理系大学だ。
4タイプ全てで選定されたのは芝浦工業大学、東京電機大学、金沢工業大学、藤田医科大学、大阪医科大学、関西大学の6校だった。
選定結果と共に公表される各質問項目の達成状況のうち、「タイプ1」について見ていく(大学・短大・高専全体)。
取り組みの進展ぶりがうかがえるのは卒業時アンケートで、今回から結果の公表も問われるようになったが、申請校の55%、選定校の84%が「回収率80%で結果も公表」を満たしている。一方で「卒業後アンケート」については、過年度の学部卒業生に対する調査と卒業生の就職先等に対する調査の両方を実施し、その結果を教育改善に反映しているのは申請校の24%、選定校の56%にとどまる。卒業生やその就職先と継続的にコミュニケーションする仕組みをつくり、協力を得られる関係を築く必要があるため、より難易度が高いようだ。
この10年近く、高等教育におけるキーワードとなっているアクティブラーニングについては、PBLや反転授業を「開講科目の50%以上で実施」が申請校の64%、選定校の85%に達している。
年内の入学手続き者全員に対し課題提示と提出義務付けをしているのは申請校の69%、選定校の80%。入学前教育の実施が当たり前になりつつある中、今後は改革総合支援事業での評価とは別に、質の向上による他大学との差別化を考えたい。単なる「高校の学習内容の復習」にとどまらず、入学後の学びに対する期待と意欲を高めてスムーズな移行を促したり、不本意入学者の中退防止につなげたりといった「中身」を磨くことが重要だ。
2019年度の改革総合支援事業の「タイプ1」はIR強化の重視、データサイエンス教育への取り組み評価の導入が特徴だ。
公表されたデータを見る限り、IRへの取り組みはかなり進展してきたと言えそう。全学的な教学マネジメント体制の下でのIR情報を利用した教育課程の検証は、申請校の63%、選定校の93%が「している」と回答。IR担当教職員を外部の研修会に講師として派遣したのは申請校の15%、選定校の37%、高度な分析で意思決定に資する提案を行う専門職の配置は申請校の35%、選定校の60%に上るなど、他大学等にも貢献できる専門性の高い人材が育ちつつあるようだ。
一方、データサイエンス教育への取り組みはどうか。統計学・数学・コンピュータサイエンスの科目を全学部等で必修化しているのは申請校の19%で選定校の30%、全学部等で選択科目として開講しているのは申請校の50%で選定校の51%だった。必修・選択にかかわらず、企業等の実データを分析する実践的なデータサイエンス教育を正課で開講しているのは申請校の25%で選定校の54%。選択科目としての導入がある程度進み、一部で実践的な内容へと深化する一方、全学部での必修化が課題になっていることがうかがえる。
2020年度はタイプ1の名称が「『Society5.0』」の実現等に向けた特色ある教育の展開」に変わる。「2025年までに全ての大学卒業者が初級レベルの数理・データサイエンス ・AIを修得」という政府目標の下、改革総合支援事業でも関連項目が増えるのは確実で、要求レベルが引き上げられる可能性もある。全学的なデータサイエンス教育に取り組まなければ私学助成の増額が難しくなりそうだ。特に文系の学生に対するデータサイエンス教育が課題となる中、学部間連携や外部リソースの活用によって実現の可能性を探ることが大事だろう。
今後の改革総合支援事業では、教学マネジメント指針への対応も問われる可能性が高い。指針に盛り込まれた項目の中には、すでに「タイプ1」や一般補助の「教育の質の指標」に反映されているものも多いが、それらの取り組みを着実に進めると同時に、他の項目についても優先度の高いものを見極め、対応を進めておくことが重要だ。
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