2019.0417

これからの入学前教育② 学ぶ意欲を高め教育の「高大接続」を

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3行でわかるこの記事のポイント

●高校教育は改革が進み、7割の高校で「探究学習」を実施
●一方的な教科学習だと「意欲喚起」「高校教育との接続」に課題
●基礎学力+「学ぶ意欲の向上」施策で中退率の改善を

高校では今「探求学習」をはじめとした教育改革が進んでいる。新しい学びを経験してきた学生の意欲を喚起し、学びの継続を促す入学前教育はどうあるべきか、多くの大学の入学前教育の企画に携わってきた進研アドの担当者が、考察する。

*この記事のPDFはこちら
*「これからの入学前教育① 『空白期間』対策から 教学IRの起点へ!」はこちら

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(株)進研アド 石田あすみこ
いしだあすみこ●(株)進研アド入社以来、一貫して入学前教育の企画立案とその普及など、高等教育機関の高大接続支援に携わる。
〈執筆・講演活動〉
▶Between2018年3-4月号「『主体性等』を育む入学前教育とは」
▶大学時報2019年1月号「入学前教育の力点はシフトしている」
▶日本私立短期大学協会平成30年度私立短期大学教務担当者研修会講演 など


●高校教育は改革が進み7割の高校で「探究学習」を実施

 高大接続改革期における入学前教育を考えるためには、高校で進む教育改革の進捗について正確に捉えておく必要があります。高校においては今、学力の3要素を多面的に評価する大学入試改革や次期学習指導要領の2022年度からの実施に向けて、教育改革が進行中です。例えば問題解決型学習を発展的に繰り返す「探究学習」や、ポートフォリオの活用など「知識の蓄積」のみならず、得られた知識を活用する力の育成に向けた取り組みも進んでいます。これらの動きは一部の先進校だけの話ではありません。「探究学習」については約7割の高校が取り組んでおり、その成果を大学入試に活用したいと考えているという調査結果もあります【図表1】。
 このような学びを経験した生徒をどう受け止めるかという視点で高大の狭間にある入学前教育の内容や方法を見直す必要があるでしょう。

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●一方的な教科学習だと「意欲喚起」「高校教育との接続」に課題

 現在行われている入学前教育は、「通信教育型」と「スクーリング型」の2形態に分類できますが、今回は「通信教育型」に焦点をあて、高校教育改革をふまえた内容、方法を考えていきます。通信型教育の場合、その主流は、高校レベルの教科学習の補填や課題図書レポートでした。なぜなら、入学までの「空白期間」を埋める施策の一環だったためです。しかし、当社の調査によると、入学前に教科の課題に取り組む意図が高校生に伝わっていないケースが多く、かえって意欲が削がれる場合もあるようです。
 また、前述のとおり今の高校生は、高校段階でアクティブ・ラーニングや探究学習を経験したり、中にはポートフォリオに学習成果を入力し、日常的に自らの成長を振り返ったりもしています。そんな中、探究学習的な要素がない課題だと、高校生の興味がわかず、学びへの意欲が減退することもあるでしょう。文部科学省の調査でも、実際半数の大学が、「意欲喚起」が入学前教育の課題だと感じているようです【図表2】。

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●基礎学力+「学ぶ意欲の向上」施策で中退率の改善を

 ところで、この「意欲」とは何でしょうか。大きくは2つ、学習そのものに対する意欲と、入学後に大学で学ぶ学問に対する意欲があると考えられます。この意欲を高めるための施策としては、教科学習の課題を一方的に課すのではなく、この課題が大学入学後にどう生きるのかといった動機付けを行ったり、提出された課題やレポートに対するフィードバックを行い、振り返りの機会を提供したりといった取り組みが考えられます。
 中退の要因には、基礎学力の不足に加えて、学ぶ意欲の低下があります。これからの入学前教育は、「学習の継続」だけでなく、中退率の改善のためにも、高校での新しい学びと連続性があり、入学後に学ぶ学問への興味を醸成させ、入学後も意欲的に学習する準備となる内容が求められていると言えます。