これからの入学前教育① 「空白期間」対策から 教学IRの起点へ!
入学前教育・初年次教育
2019.0325
入学前教育・初年次教育
3行でわかるこの記事のポイント
●「教材の提供」から「データの収集」の機会と捉え直す
●入学前に予測可能な中退・休学の可能性
●入学後の調査では遅い最優先で支援すべき学生の特定化
従来、年内入試合格者向けに「学習空白期間」を埋める教材の提供が主目的だった入学前教育。昨今の入学前教育は入学前に学生の学力や意欲等のデータを収集し、教学マネジメントの起点としての活用へとシフトしつつある。多くの大学の入学前教育の企画に携わってきた進研アドの担当者が、このような新しい動きについて3回にわたりレポートする。
*この記事のPDFはこちら
(株)進研アド 石田あすみこ
いしだあすみこ●(株)進研アド入社以来、一貫して入学前教育の企画立案とその普及など、高等教育機関の高大接続支援に携わる。
〈執筆・講演活動〉
▶Between2018年3-4月号「『主体性等』を育む入学前教育とは」
▶大学時報2019年1月号「入学前教育の力点はシフトしている」
▶日本私立短期大学協会平成30年度私立短期大学教務担当者研修会講演 など
多くの大学にとってこれまでの入学前教育は、年内入試合格者に対する入学までの「学習空白期間」を埋める施策でした。そのため、教科学習を補填するためにどんな「教材」を与えるか? ということに議論の力点が置かれていました。しかし、これからは、教学IRに活用する「データ」を収集する機会でもあると捉えてはいかがでしょうか。
「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」では、「全学的な教学マネジメントの確立」や「学修成果の可視化」が求められています。その実現のためには、データに基づいて教学の課題を明らかにし、改善していくといった教学IRの構築が必須となります。入学前教育は、そうしたデータ収集に最適であり、実際、それを目的に実施する大学も増えています。18歳人口減少期に突入した今、多くの大学にとって、学生の中退率の高さは経営問題です。中退は「学力不足」のみならず、「学ぶ意欲の低下」もその要因となります。多くの学生にとって入学前教育は初めて触れる大学の教育となります。この段階で学生の状態を早期に把握することにより、入学後の学生指導や教育プログラムのあり方の最適化が可能になります。教学IRの広まりの中、今、「入学前教育でのデータ収集と活用」に注目が集まりつつあります。
では入学前教育によってどのようなデータが収集できるでしょうか? ここでは「通信教育型入学前教育」のケースで考えてみます。収集可能な主なデータは、①課題の提出状況データ②課題の採点データ③受講前後のアンケートデータ、の3種類です。
①は、課題の提出状況から「継続して学習しているか」がわかります。もし、期日内提出状況まで収集できれば、学生のスケジュールへの意識も把握可能です。これらは入学後の授業への出席態度やGPAと相関関係があることがわかっています。②では、基礎学力や学習方法の理解度がわかります。③は、設問次第で、自学進学に対する満足度や興味関心のある分野から、高校での状況なども確認できます。自由記述欄の回答が空白だったり、消極的な回答の場合は、入学後の満足度が低い傾向があります。中退や休学につながる可能性をいち早く予測することができるでしょう。
さて、集めたデータはどう活用できるでしょうか? 下図は、①課題の提出状況データと②課題の採点データをかけ合わせ、指導の必要な学生の特徴を4象限にまとめたものです。上下は「学力」左右は「提出期限への意識」を表しています。最優先で対応すべきはどのタイプでしょうか? 答えはDの学生です。学習習慣や基礎学力が不足している彼らには、入学後すぐに面談等を行い、学ぶ意欲を高め、まずは机に向かわせるような指導を実施したほうがよいでしょう。一方高校までの学習の貯金で学力を維持しがちなCの学生は、得点が高いため見過ごされがちです。リーダーを任せるなど意欲醸成を図ることが肝要です。
このように入学前教育は、入学者の学習習慣や姿勢、学力、汎用的スキルなどを知る絶好のチャンスです。中退予防は夏休み前までの対応が勝負のため、個々の入学者の傾向を入学前に読み取っておけば、入学後直ちに適切な教育や支援を開始できます。入学前教育を、教学マネジメントの起点としての活用にシフトすることで、大学経営にとって重要な取り組みになり得るでしょう。