2026.0213

共愛学園前橋国際大学の新学部〈後編〉 地域のネットワークで教員確保のハードルをクリア

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3行でわかるこの記事のポイント

●地元の自治体や企業と共に人材像やカリキュラムを検討
●論文重視の教員審査の下、基幹教員としての新規採用を断念
●多彩な教員を確保でき、特例制度の活用が不要に

共愛学園前橋国際大学による🔗デジタル共創学部の新設は、"お家芸"とも言える地域連携によって実現した。地元の自治体や企業の当事者意識に基づく協力は、なぜ、どのようにして得られたのか。教員確保の過程で経験した苦悩が国の制度や他大学に投げかける課題は何か。地方小規模大学である同大学にとって初めての理系学部設置を通して考える。

🔗共愛学園前橋国際大学の新学部〈前編〉 デジタルの活用で社会や生活を豊かにできる人材を育成


産官学共同の実績を背景に、自治体の構想に呼応

共愛学園前橋国際大学の地元・前橋市は国のデジタル田園都市国家構想の下、共助型未来都市「デジタルグリーンシティ」をめざしている。群馬県は、経済成長をけん引するデジタルクリエイティブ人材の育成を政策に掲げる。そして、デジタル人材の確保は地元産業界の悲願でもある。

同大学は、これら自治体や産業界と強固な関係を築いてきた。大森昭生学長は、地域人材の育成・定着を目的に前橋市の産官学が連携する「めぶく。プラットフォーム前橋」のキーパーソンだ。前橋市、前橋商工会議所と市内5大学の連携事業であるMBS(めぶくビジネススクール)に講師を派遣する一方、自学の教育でも自治体や企業と積極的に連携してきた。

こうした背景の下、共愛学園前橋国際大学が産官と協働でデジタル人材の育成に取り組むという決断は、必然だった。

グローバル人材に続きデジタル人材の育成で地元企業に貢献

現・国際社会学部長で、新学部の学部長に就任予定の村山賢哉教授は「県内の中小企業では、グローバル人材とデジタル人材が圧倒的に不足している」と指摘する。

群馬県では製造業が盛んで、大手自動車メーカーや食品メーカーの本社もある。自動車メーカーでは海外工場の部品調達や販売活動などのため、メールや電話による英語でのコミュニケーションに長けた人材を求める。こうしたグローバル人材のニーズに、共愛学園前橋国際大学は国際社会学部の教育で応えてきた。

一方のデジタル人材育成は、大学にとっても長年の課題だった。

「中小企業では、システム開発ができるレベルの専門知識というよりも、デジタルを活用して業務を効率化したり、新たなビジネスを生み出したりといったイノベーションを発想できる人材を求める傾向が強い。そんな人材が不足しているため、いまだに手作業で伝票を処理するケースも多い」。

MBSの講師を務める村山教授は、企業から派遣される受講者を通して現場のこうした悩みに触れてきた。群馬経済同友会の会員である大森学長も同様だ。「だから、デジタル共創学部の構想には自治体や産業界の思いもしっかり反映させた」(村山教授)。

地元に拠点を構えたグローバル企業も学部新設の後ろ盾に

育成する人材像やカリキュラムについて構想する過程で、大学側は県と市、企業へのヒアリングを重ねた。

地元には中小の情報系企業も多く、既存学部のプロジェクト活動やキャリア支援で積極的に連携してきた。

加えて、デロイトトーマツ、アクセンチュアといったIT戦略を強みとする世界有数のコンサルティング企業が、2022年から2023年にかけて前橋市に拠点を設置。それぞれがシステム開発専門のチームを抱えている。

「どういう人材なら群馬を舞台にして世界を相手に活躍できるのか、大手・中小幅広く情報系企業とディスカッションしてきた。こういう力を育てるにはこんな科目が必要だ、教員はわが社から出しましょうといった申し出も受けた。群馬の若者は県内での就職を希望する傾向が強いが、卒業後の多様な受け皿もそろっている」と、村山教授は連携の強みを強調する。

崩せなかった教員審査の壁

地方小規模大学である前橋国際大学は初めての理系学部設置にあたり、2022年に改正された大学設置基準の新しい仕組みを積極的に活用してリソースを補う考えだった。しかし、具体的な調整を進めた結果、「基幹教員制度の活用はかなわず、特例制度は生かすことができなかった」(村山教授)。

企業とのクロスアポイントメントによる基幹教員就任に前向きな人材は複数いたが、いずれも文部科学省による設置認可の教員審査を通す見通しが立たず、断念せざるを得なかった。

村山教授は「デジタルという新しい分野の教員は、企業など現場での経験や実績が重要だとわれわれは考えたが、教員審査は従来通り論文による業績評価が中心となる。候補だった方は、修士号は持っていてもたくさんの論文はない。論文を十分に代替し得る実績を設置審に対し説明することは難しかった」と振り返る。

非常勤で起業家精神の育成に関わる実務家教員も

基幹教員として採用できなかった複数の人材は、非常勤講師などの形で新学部に関わる。その一人が外資系コンサルタント会社の人事担当者で、キャリア科目全15回の授業を担当。自身のキャリアパスもふまえ、学生のアントレプレナーシップを育てる指導が期待されている。

前編で紹介した通り、基幹教員として新たに加わる10人の教員の多くは、企業での勤務経験を経て大学教員などアカデミックポストに就いていた人たちだ。DXに関わる幅広い分野から基幹教員を迎え、多彩な科目を開講できることになったため、他大学の授業を自学の授業として共有するために設けられた大学設置基準の特例制度は、活用する必要がなくなった。

 教員募集の情報が広く拡散し、人材の紹介につながる

デジタル分野の学部新設における最大のハードルは何だったかという質問に、村山教授は「教員確保」と即答した。「地方に行けば行くほど、成長分野として人材ニーズの高いデジタルを教えられる人がいないという深刻な状況だ」。

教員審査に加え、人件費も悩ましい問題だという。一般的に企業ではこの分野の給料は高額で、クロスアポイントメントによって所得が下がらないような報酬を大学が出す難しさも吐露した。

共愛学園前橋国際大学の場合、これまでに築いてきた学外とのネットワークがあったからこそ、教員確保のハードルを越えられたという。デジタル分野の教員を探しているという話が広く拡散され、さまざまな情報が持ち込まれた。

自社から教員を出そうという申し出のほか、「共同研究のパートナーが大学を移りたがっている」という情報がもたらされたことも。公募へのエントリーも相当数が、新学部の理念やねらいを共有できている"優良案件"だったようだ。

地方大学にとっての地域とのつながりの重要性を再認識

「デジタル分野の教員をアカデミックな世界だけで確保しようとすると、これから先もかなり厳しいのではないか」と村山教授。実務経験豊富な人材を評価する方向での教員審査制度の見直しを期待する一方、大学側には、そのような人材を発掘するための地道な活動が必要だと指摘する。

「地方大学にとって、学部新設や教員確保に限らず、あらゆる活動に自学だけで取り組むのは難しくなっている。だからこそ、設置基準の特例制度ができた。いかにいろんな方面とつながるかが、すごく大事になってくる」
「既存の国際社会学部は異分野ではあるが、本学がそこでやってきたことが生かされて今回の学部新設を実現できた。地方大学にとって、地域とのつながりがいかに大切か、あらためて実感している」 

デジタル人材を切望する自治体や企業。地元の課題解決に貢献したいと願う学生。一人ひとりの個性と強みを生かした進路選択を応援したい高校。ステークホルダーそれぞれの期待を載せ、20264月、「Well-Beingなデジタル共創学部」が船出する。