2026.0224

スポーツ推薦で入学前教育を必修化、競技と学業の両立を促す―法政大学

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3行でわかるこの記事のポイント

●長い人生を見据え、卒業・就職に対する意識を高める
●課題提出を促すフォローを重視してプログラムを変更
●教員や部活の責任者が受講データを共有し、指導に生かす

法政大学は、スポーツ推薦入試による入学者約200人を対象に、入学前教育を実施している。学び続ける大切さを理解させ、入学後の学習への意欲を高めることがねらいだ。「法政スポーツ」のブランド力を支える戦力として活躍に期待する一方、学業との両立に対する意識を高め、卒業・就職まで一貫した支援で「教育の責任」を果たそうとしている。


保健体育センター・学部・顧問が連携して大学生活を支援

法政大学の🔗体育会は野球部やサッカー部など名だたる運動部を数多く擁し、2026年冬季オリンピックにもOB・OGが出場した。
運動部強化のためのスポーツ推薦入試は、40ある運動部のうち32部で実施。15学部中グローバル教養学部を除く14学部37学科の全てで枠を設けている。
各競技に秀でた人材を受け入れ、運動部を統括する保健体育センター、所属学部、部活の顧問(教員部長)や監督が連携して、学業と部活を中心に大学生活全般を支援する。

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2025年度のスポーツ推薦による入学者は221人。4学年で約900人となり、全学生2万8千人の約3%を占める。
必修で課す入学前教育では大学で学ぶための基礎力をつける教材を使い、オンラインで課題を提出させる。保健体育センター事務部長、学生支援統括本部長として入学前教育を担当する細田泰博氏は「入学後、部活に打ち込むあまり勉強がおろそかになって中退に至る学生もいるため、入学前からの指導が大切だ」と説明する。

細田部長によると、スポーツ推薦入学者のGPA平均は部ごとに差があり、部によってはスポーツ推薦入学者のGPA平均がそれ以外の者を大きく下回るという。「モデルとなる先輩がいない部ほどそうなりがちだ。部活以外はどうでもいいという姿勢ではなく、学業と両立できるよう意識と意欲を高めたい」。

「正解することより学ぶ姿勢が身に付くことが重要」

保健体育センターはこうした問題意識の下、2020年度入学者から民間事業者が提供するプログラムで入学前教育をスタート。実施2年目の2021年度にセンターに着任した細田部長は、当時のプログラムの効果に疑問を感じた。「課題提出が滞ってもフォローがなく、職員が電話で提出を促していた。課題の量も十分ではなく、最終の提出期限直前にまとめて片付けたり、他の人の課題を写したりすることもできた。それでは、こつこつ勉強する習慣をつけさせるのは難しいと考えた」。

2008年まで12年間、入学センターに所属し、入学前教育にも詳しい細田部長は、「正解できることよりも学ぶ姿勢が身に付くことが重要」という観点で、それまでのプログラムを再検討。別の業者が提供する現在のプログラムに変えることにした。
「手厚いフォローに魅力を感じた。課題提出が遅れがちな受講者には提供元から連絡が行き、励ましながらやる気を出させる」

使っている教材は「学ぶ力の基礎」。その課題は、大学での学びの基礎となる力が社会と結びついていることを理解させる内容になっている。課題への取り組みを通じて学ぶことへの意識を高め、その先の進路や職業観の形成につなげるねらいがある。

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この教材で2年目となる2026年度入学者に対しては、1月上旬から3月下旬にかけてプログラムを実施。全課題を提出する受講完了率は旧プログラムと新プログラムいずれも98%前後と差はないが、「完了」の内実はかなり異なると細田部長は見ている。

学習意欲が低い学生は入学前に面談し、時間の使い方を助言

以前のプログラムでは、受講データが入学後の6月にまとめて提供された。それに対し、現在は受講中から毎日データが提供され、途中経過を随時確認できる。各学生のアンケートや受講の結果をまとめた面談用の個人票も3月中に納品される。

初年度はこれらのデータをもとに、学習力と学習意欲が低い12人を対象に3月、正副センター長(教員)が面談を実施した。「入学前に個別にアプローチできる意義は大きい。自身もアスリートだったセンター長は叱るのではなく、課題に取り組めない理由に耳を傾け、時間の使い方をアドバイスした。運動部の学生はそういうコミュニケーションでテンションが上がり、それが就活まで持続する」(細田部長)。

個人票は学部の教員と部活の指導者にも共有する。
「本学では選抜方式にかかわらず、GPAが極端に低い学生のドロップアウトを防ぐためのケアに力を入れている。通常は面談をしないと成績不振の原因が分からないが、スポーツ推薦の学生は入学時点で留意すべき問題を把握できるので指導がスムーズだ。運動部の顧問や監督も、要注意学生については勉強時間を確保できるよう活動量を調整するといった配慮が可能になる」

現在の入学前教育プログラムの受講1期生が間もなく1年次を修了し、成績やGPAが確定する。細田部長は、それらをプログラムの個人データと照合する予定だ。入学前教育の取り組み姿勢や成績と入学後の成績との関係を分析し、プログラムの有用性を学内で共有することができれば、実施の継続に理解が得られると期待する。

全運動部を学内組織と位置づけ、入り口から出口まで支援

大学の中には、運動部を大学から独立した組織として位置づけているところもまだ多い。活動費や施設の提供、不祥事が起きた時の対処といった限定的な関与が一般的で、OBが部を管理したり、部員自ら指導者を見つけて依頼したりするケースもあるという。

これに対し、法政大学では2018年に制定した規程の下、40の運動部すべてを学内組織として位置づけ、保健体育センターが管理。活動費を補助する一方で、決算報告や入部・退部の届け出などを義務付けている。部によっては指導者を決める際も、大学による審査や決裁が必要だ。

保健体育センターは、補助金の支給をはじめとする活動支援のほか、スポーツ推薦入試による学生の受け入れから入学前教育、入学後の学修のモニタリングと支援、就職支援など、入り口から出口まで学生生活全般に関与する。
「教育は教員の専権事項。われわれ職員はその手助けとして、『剽窃とは何か、なぜいけないのか』といった学習の基本姿勢を指導する」

入学前教育も教員の責任の下、各学部が実施すべきとの意見も学内にあったという。それに対し、保健体育センターが「スポーツ推薦の入学者はバックグラウンドが特殊なこともあり一般的なノウハウでは対応が難しいので、われわれがまとめてやる方がいい」と説明し、引き取った。

保健体育センターが運動部と学部の間に立ちスポーツ推薦に関与

法政大学のスポーツ推薦入試の仕組みは次の通り。
他の選抜と同様、実施主体は入学センターだ。保健体育センターは入学センターが定めるルールの下、運動部と学部の間に立って選抜に関与する。
保健体育センターは前年実績を基に学部・学科と受け入れ枠を調整したうえで、各部への割り振り案を出し、入学センターが決定。
「全国大会で〇位以内」「全国高校ランキング〇位以内」など、競技ごとの出願要件の設定も、保健体育センターが関わって全学の合意を得る。

各運動部は割り振られた枠に基づいてスカウトをしたり、その競技の部活がある高校に推薦を打診したりして出願候補者を絞り、保健体育センターに提示。センターは競技実績と出願基準の照合のほか、学部とのミスマッチが生じないよう、必要に応じて高校での履修状況も確認したうえで、出願の可否を判断する。
高校側が主体的に生徒の推薦を希望する場合もセンターが窓口となり、部の指導者と連携して対応する。

小論文の採点や面接など、実施要項に基づく評価は学部が担い、そこで不合格になることもあり得る。学部の評価に基づき、入学センターが合否を判定する。大学の審査で認められた入学者には学費相当額の奨学金を給付する。

教育責任を果たし、「法政スポーツ」のブランドを守る

法政大学では、スポーツ推薦による入学者をはじめ運動部の学生が他の学生に刺激を与えている。「彼ら彼女らの集中力には驚嘆する。オリンピックをめざしてハードな練習をこなしながら勉強も頑張る姿は、周囲に『自分たちも負けられない』と思わせてくれる」。

教員の間では、運動部員について「大学の名を広く知らしめてくれる」と称賛する声がある一方、「部活に意欲と体力を吸い取られ、練習後は疲れ果てて他のことは何もできない学生もいる」と問題視する声も。

こうした中で、スポーツ推薦の学生が部活と学業を両立することは、「法政スポーツ」のブランドを守るためにも重要だと細田部長は考える。「成績不振者や中退が増えると高校はいい生徒を推薦してくれなくなるし、学部側も受け入れてくれなくなる」。

細田部長は何よりも、卒業後も続く学生の長い人生を見据えた大学の教育責任について、考えている。大学で競技に打ち込んでもプロになれるのはほんの一握りで、多くは他の学生と同様に就活を経て企業などで働くことになる。「かつてのように、法政の運動部出身なら卒業できなくても有名企業に就職できるという時代ではない」。

スポーツ推薦入学者にそうした現実を早いうちから認識させ、卒業後を視野に入れて学び続ける意識を持たせるためにも、入学前教育が欠かせないと強調する。「1日30分でもいいから机に向かう習慣をつけ、学んでわかるようになることは楽しく、必ず役に立つという気持ちを持ってほしい。これからも、そこに貢献してくれるプログラムを使っていきたい」。