辞退者への入学金返還など、負担軽減に関する文科省の通知と大学の対応
学生募集・高大接続
2025.1222
学生募集・高大接続
3行でわかるこの記事のポイント
●併願可能な年内入試の拡大を受け、最高裁判決を超えた対応を期待
●納入期限の複数回設定や後ろ倒しの検討も依頼
●他大学の動きを注視しつつ、対応をシミュレーションする私大も
文部科学省は、2026年度入試における入学辞退者への入学金の返還等、入学金の負担軽減に関する対応状況について、11月、私立大学に対する調査を行った。結果がまとまり次第、公表する。併願可能な総合型選抜等の実施拡大によって、複数の大学に入学金を納める受験生が増えていることをふまえ、2025年6月と10月に出した通知・解説に基づく調査だ。12月中旬現在、2026年度入試での対応を公表したのは一部の大学にとどまっている。
文科省は2025年🔗6月、私立大学宛に通知を出し、2026年度入試における入学金の負担軽減を求めた。10月には大学の質問に答える形で🔗「通知の考え方」を発信。これらの文書では、入学を辞退する受験生の負担軽減策として、①入学金の返還、②納入期限の複数回設定、③納入期限の後ろ倒し―などを提示している。
文科省は「通知の考え方」の中で、2026年度入試での対応状況、対応方針について各大学に確認することを予告。11月に調査を実施しており、近くその結果とあわせ、対応のモデルケースを紹介する予定だ。
辞退者の入学金の扱いについては、2006年の最高裁判決によって、大学は返還義務を負わないとの判断が示された。入学金は「学生が当該大学に入学し得る地位を取得するための対価」という考え方に基づいている。
文科省の通知ではこの判決に触れつつ、入試をめぐる環境が当時から変化したことを指摘。併願可能な総合型選抜の拡大等によって複数の大学に入学金を納める受験生が増えていること、高等教育における教育費負担軽減が重要課題となっていることを挙げ、「複数大学への入学金の納付が進路選択の幅を狭めることのないよう」、各大学に負担軽減への対応を「お願い」している。
入学金の負担軽減への対応として、次のような考え方が示されている。
✓すべての入試方式が対象だが、一部の方式から始めてもよい。
✓入学辞退の意思表示の時期によって、入学金の全部または一部を返還するなど、返還額に差をつけてもよい。
✓公表済みの募集要項の変更となる場合、ホームページ等で変更を知らせてよい。
文科省の通知を受け、いくつかの私立大学が2026年度入試における入学辞退者の入学金の負担軽減策を発表している。
🔗桃山学院大学(大阪府和泉市)は、公募制推薦をはじめとする併願制入試で、入学金の分納と返金の制度を導入。併願制の学校推薦型選抜の入学金を一次(5万円)、二次(18万円)の分納にする。さらに、併願制の学校推薦型選抜・総合型選抜の入学辞退の手続きを3月12日以前にした場合、入学金のうち18万円を返金する。
🔗美作大学(岡山県津山市)は、総合型選抜(併願区分)、学校推薦型選抜(一般公募)、一般選抜、大学入学共通テスト利用選抜を対象に、国公立大学に合格し、その大学に進学する場合は入学金(27万円)を全額返還する。
🔗文化学園大学(東京都渋谷区)はすべての入試を対象に、入学を辞退する場合、「入学時納入金のうちの入学金の一部(10万円)以外」を返還する。
🔗追手門学院大学(大阪府茨木市)は、公募制推薦入試前期日程の入学手続き締め切り日を、12月11日から1月8日に後ろ倒しした。
産業能率大学(東京都世田谷区)は2006年の最高裁判決より早い2001年度入試から、独自の入学金返還制度を導入・運用している。後期日程など、合格発表が遅く手続きの日程を2段階にできない一部の選抜を除くすべての入試が対象で、毎年100~150人に返還している。
🔗大学のホームページでは、文科省の通知に触れつつ、この制度をアピールしている。
制度導入の背景について、入試企画部の林巧樹部長は次のように説明する。「当時の学納金返還訴訟でも入学金は返還不要という判決がほとんどだったが、いずれは、返すべきだという方向に行くのではないかと予想した」。
辞退者に入学金を返還しないことは、同大学の創設者で日本初の経営コンサルタントとされる上野陽一が掲げた「3ム主義」(ムリ・ムダ・ムラの排除)に反するとも考えたという。「入学しない大学にお金を払うことは受験生にとって無駄なことだし、毎年確実に得られるわけではない辞退者の入学金をあてにする経営は大学にとって無理がある」。
大学の規模が小さく(現在の募集人員は810人)、入学金収入がさほど大きくないことも決断しやすい要因になった。
返還制度の導入は当時、高校や塾・予備校、保護者の間で話題になり、歓迎された。「志願者が増えるのではと期待したが、残念ながらほとんど変化はなかった」。一方、合格後の一次手続き者は予想通り大幅に増加。その分、辞退者も増えたが、手続き者のうち実際に入学した者の割合は例年より少し上がった。「辞退すれば返金されるというポジティブな気持ちであらためて大学のサイトを見て、『思っていた以上にいい大学かも』と思ってくれる受験生が多かったのではないか」。
最初の年こそ歩留まりが読めず不安だったというが、その後は徐々に数が安定して予測可能になった。「この制度で『良心的な大学』というイメージが定着し、高校長や進路指導担当教員が大学の面倒見の良さを評価するアンケートでは上位の常連になっている。入学金返還制度はトータルで見て、本学にとってプラスと言える」。
首都圏のある私立大学は「入学金の負担軽減策が義務化された場合」を想定し、入学金の引き下げや納付期限の後ろ倒しなど、パターン別にシミュレーションしている。入試責任者は「実際の導入は、大規模大学の動きを見ながら考える」と話す。
この責任者は、辞退者への入学金返還が難しい理由として、①入試システムの改修が必要、②歩留まりの予測が困難になる―などを挙げる。
「本学の入試システムには、出願から合格後の納付金の振り込みまで組み込んでいる。新たに返金の仕組みを追加する改修には、かなりの費用と時間がかかる。今回の通知は6月下旬の唐突なもので、2026年度入試での対応は到底、不可能だ」
この大学では、辞退者が納める入学金は年に約2億5000万円。「私大の中では割と多いと思うが、大規模大学はそれ以上で、返還するとなると経営への影響が大きいだろう」と話す。
自学は経営努力によって返還自体は可能だが、より大きな問題が歩留まりの予測だという。「入学手続き者数は、歩留まりを読むための数字として機能している。仮に返還が義務化されると、3月に大量の辞退者が出て追加入試も実施できず、結果的に定員未充足、私学助成も受けられないという事態になりかねない」。
「国公立大学との併願がほとんどの大学、歩留まりの読み違いが充足率を大きく左右する大規模大学など、大学によって事情はさまざまだが、入学金の返還はすべての私大の経営を揺るがすだろう」と指摘。「国立大学が3月末日まで追加合格を出すようになったり、私学助成を受けるためのハードルが上がり続けたりといった状況がある中、今回の通知は私大をさらに苦境に追い込むと思う」。