2025.0901

大学サイトのナビゲーション設計で高校生、高校教員の併願校検討を支援―成蹊大学

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3行でわかるこの記事のポイント

• 発信しづらい併願情報を第三者視点で提示するページを制作
• 複数大学の出願・受験スケジュールをカレンダーで管理
• 閲覧者の約4割を入試情報ページに遷移させた行動喚起力

大学にとって、公式サイトで自学を併願校として検討してもらうための情報は発信しづらいものです。しかし、第三者視点で編集したり、併願パターンや出願スケジュールを整理して提示したりといった工夫を加えることで、併願校探しに積極的に活用され、高校教員からも評価されるコンテンツになります。成蹊大学は、改組した理工学部の受験を促すためにどのような工夫で情報設計をしたのか、進研アドDX事業本部事業開発部の新垣百音が解説します。


獲得できていたはずの併願者を取り逃すリスク

成蹊大学は、2022年度に1学科5専攻に改組した理工学部の初年度入試の募集活動において、大きな課題を抱えていました。「理系の大学」というイメージが受験生や高校現場に十分浸透しておらず、受験校として選ばれにくい状況にあったのです。

受験生にとって重要な「併願校の選び方」や「受験日程の組み合わせ」に関する情報は、大学側からは直接的に発信しづらく、併願校として意識してもらうのも難しいと考えました。大学サイトの性質上、あくまで自学の情報発信に限定されるため、高校による"複数大学を組み合わせた併願校決定"の実態に合った情報提供にはつながりにくいのです。

一方で高校現場も、複数大学の出願や試験の日程を体系的に整理することは難しく、教員から生徒に具体的な併願について提案しづらいという課題を抱えています。

こうした事情が重なることで生徒の併願校選びはスムーズに進まず、情報を入手した時にはすでに出願期限が迫っていて「もっと早く知っていれば」というケースも少なくありません。

結果として、大学は本来獲得できていたはずの併願者を取り逃してしまうリスクを負います。課題の本質は、「必要とされている情報を抵抗なく受け取ってもらえる形で上手に提供し、当事者それぞれのニーズを満たすこと」なのです。

第三者視点での情報の再構成

成蹊大学はこうした課題を解消するため、第三者視点で情報を再構成した入試解説の特設ページを制作しました。

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大学の宣伝色を前面に出さず、受験生が必要とする情報を中立的に編集して心理的なハードルが低い状態でアクセス・活用できるようにしました。

具体的には、

  •  "進研アド編集部タイアップ"ページとし、大学から直接併願を提案される印象を薄める
  • 文理別や国公立・私立併願パターンなど、条件別に情報を整理し、ユーザーに適した情報に導くナビゲーションを設置
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  • 併願校を加えると複雑になりがちな出願締め切りや入試日程、合格発表日を第三者である編集部が収集・整理し、月間カレンダーとして提示。高校生が併願校を含めた受験スケジュールを立てやすくなるよう工夫しています。
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  • 在学生の声や学びの特徴など、併願を促す情報も

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こうした設計により、入試情報が網羅されている公式サイトとは異なる「行動を促すページ」として、受験生だけでなく高校教員からも評価される情報発信となりました。

高校教員が「指導に使いやすい」と評価

共通テスト実施前後の1月から2月にかけて、閲覧者の約4割が入試情報ページに遷移しました。これは、受験計画の検討が具体化したことを示す成果です。
高校教員からは「併願パターンを示しやすく、指導に使いやすい」といった肯定的な声が寄せられました。

このページは単年度で役目を終えるわけではありません。汎用性を意識して設計したため、次年度以降も情報を更新して使える"広報コンテンツ"になっています。

情報設計は便益から発想する

今回の成蹊大学の事例は、「併願校選びをサポートする」という受験生にとっての便益から設計を始める重要性を示しています。特に、進路指導の現場に寄り添い、受験生や高校教員がそれぞれの状況に合わせて必要な情報にたどり着けるようにする視点が欠かせません。

志望条件に応じたナビゲーションやカレンダーによる受験スケジュールの可視化といった工夫にその視点が反映され、高校生は自分の計画を立てやすくなり、高校教員からも高評価を得ることができました。

ここには、「受け手の立場や行動プロセスを起点にする」という情報設計の本質が表れています。つまり、大学が伝えたい情報を一方的に並べるのではなく、「受験生はどの順番で何を知りたいのか」「高校教員はどのタイミングでどんな資料を必要とするのか」といった行動の流れを想定し、それに合わせて情報を編集・提示したのです。

直接には伝えにくいが重要である情報も、第三者視点で再構成して自然にアクセスできる形にすることで、受験生の行動を確実に後押しします。その結果、理工学部を併願先の一つとして具体的に検討してもらう動きにつなげることができました。

 

🔗「併願促進ページ」に関するご質問やご相談はこちらから。

 

〈今回のナビゲーター〉

新垣 百音(あらかき・もね)
DX
事業本部 事業開発部

2019年進研アド・東日本エリアプランニング課入社。2024年まで関東の私立大学を中心に新設広報、学習成果の広報活用など、募集広報のコミュニケーションプランニングを幅広く担当。2025年より現職。