2025.0822

高校教員と社会人が協働で探究プログラムを開発する研修-桜美林大学

学生募集・高大接続

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3行でわかるこの記事のポイント

●協力者を求める教員と知見の還元に意欲的な社会人をつなぐ"架け橋"に
●ワークショップ設計やファシリテーションのスキル習得を支援
●高校でのプログラム実践を経て「探究コラボレーター」として認定

桜美林大学は、高校教員と外部人材のコラボレーションによって高校の探究活動の質を向上させようと、「探究コラボレーター認定研修『Bridge』」をスタートさせた。外部との連携という高校の課題解決に貢献しつつ、探究的な学びを深め、伸びしろの大きな入学者を増やすという長期的な展望を描いている。


教員だけで担う探究には限界があり、外部協力者獲得も難しい

🔗「探究コラボレーター認定研修『Bridge』」は、高校教員と社会人が協働で探究プログラムをつくり、高校で実践するという内容。桜美林大学が三菱みらい育成財団から年間801万円、3年間の助成を受けて開講する。

同大学は高大接続プログラム🔗「ディスカバ!」の中で2017年から、高校や高校生個人を対象にプログラムを提供して探究活動を支援する取り組みを続けている。「Bridge」も「ディスカバ!」に関連する活動として位置付けられている。

「ディスカバ!」を統括する入学部の高原幸治部長(入学・高大連携担当の学長補佐を兼務)は次のように話す。
「『総合的な学習(探究)の時間』は教員だけで担うには限界があり、当初から大学や産業界と連携することが前提になっていた。実際に外部人材をうまく巻き込んで成功させている例もあるが、極めてまれだ。多くの教員は閉鎖的になりがちな学校というコミュニティにいる。外部との接点を持ちにくい状況にあり、自分たちで協力者を確保するのはハードルが高い」

一方で、社会人に「ディスカバ!」の話をすると、「自分もひと肌脱ぎたい」と興味を示されることが多いという。「自らの知見を次の世代に何らかの形で伝えたいという思いは、誰しもが持つ本能のようなものだろう」

そこで、桜美林大学は「ディスカバ!」を通じて蓄積してきた知見やネットワークを生かし、高校の課題を解決しようと考えた。構想が、高校教員とそのパートナーとなる社会人を対象とする研修「Bridge」として実を結び、「未来を切り拓く人づくり」を設立趣旨とする三菱みらい育成財団の支援を受けて実施することになった。

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現場での探究の実践者や支援経験者が研修を担当

「Bridge」では、ティーチャー(高校教員)とパートナー(社会人)を組み合わせたグループごとに、探究プログラムをつくって高校現場で実践。受講者を「探究コラボレーター」として認定する。

研修の運営コーディネーターを務める入学部の櫻井美季氏は、教育NPO「カタリバ」を経て2020年に桜美林大学に移り、「ディスカバ!」の探究支援プログラムの立ち上げに関わった。
講師は、ワークショップデザインを専門とし、桜美林大学教育探究科学群でピア・ラーニング科目のコーディネーターを担当する中尾根美沙子氏、高校現場で探究活動をリードし、現在は文京学院大学女子中学・高校教頭の藤井亮太朗氏らが務める。

研修内容は以下の通り。

(1)オンライン導入:7月下旬〜8月上旬
▼5本の動画を視聴したうえで2本のレポートを提出
動画では、高校の探究活動の現状やワークショップデザインのエッセンスについて解説する。
▼オンラインによるオリエンテーション
受講者同士の関係構築のためのワーク、「ディスカバ!」プログラムのミニ体験ワークを実施

(2)対面演習:8月13日~15日
桜美林大学新宿キャンパスで実施した。初日はチームビルディング、2日目からグループごとにコラボレーションプログラムを作り、最終日はそれを試行的に実践した。

(3)協働実践:9月〜2月末
グループごとにプログラムの準備を整え、それぞれが高校で実践する。
社会人は負担が重くなりすぎないよう、期間中それぞれがワークショップを1コマずつ担当するなど、生徒の探究心を引き出して主体的な活動へと背中を押す役割を期待されている。

(4)認定報告会:3月15日
対面でプログラム実践の成果と学びを共有し、「探究コラボレーター」として認定する。

探究のデザインにおいても"答えのない問い"に向き合う

オンライン導入の動画について、櫻井氏は「高校生が探究を持続させるためには問いをどのように耕していくことがふさわしいのか、経験豊富な講師が解説している。ワークショップデザインについては、高校生向けのプログラムをつくる時に生かすことができるワークショップの仕掛けや型を学んでもらう」と説明する。

協働実践のフェーズは、基本的には受講する高校教員の学校で行うが、学校側が必ずしも探究に積極的で理解があるとは限らない。そこで、桜美林大学との連携実績がある高校を実践の場として提供してもらえるよう、大学側が仲介することも想定している。

協働実践の期間中は月1回、オンラインで集まって各グループの進捗を共有。ファシリテーション技術に関する補足的な講義をしたり、現場での困りごとについて解決策を話し合ったりする。
「答えのない問いを掘り下げていくことが探究の本質なのに、そのプログラムをデザインする時にはつい『正解』を求めがちだ。私たちの研修では、さまざまな立場の人が知恵を出し合って手探りを続けることを大切にしたい」(櫻井氏)

対面演習参加の旅費や宿泊費、プログラムの協働実践の費用は、一定の条件や金額の上限を設けて大学が補助する。
高原部長は「財団からの助成が3年間あるので、まずは初年度やってみたうえで2年目、3年目に内容をブラッシュアップし、探究の担い手の量産体制構築をめざす」と話す。

実践してきたことの理論的裏付けが欲しい高校教員が参加

「Bridge」の受講者として高校教員と社会人20人ずつを募集したところ、教員35人、社会人41人が応募。選考を経て各25人、計50人が参加することになった。

教員は北海道や鹿児島など含め全国から応募があり、桜美林大学と連携したことがある高校が多い。「これまで実践してきた探究の授業に理論的な裏付けが欲しい」「ファシリテーション技術を磨きたい」といった動機で参加しているという。

一方の社会人は多様な業種で活躍しつつ、地域振興を題材にした探究支援や学校でのカウンセリングなど、教育に関わる活動をしている人が大半を占める。自分がやってきたことをさらに発展させたいという動機が目立つという。

こうした背景を持つ高校教員と社会人が、8月中旬の対面演習で一堂に会した。10グループに分かれ、「幸せのレシピを考えよう!」「好きなことで100円稼いでみよう!」といったテーマで探究プログラムをつくっていくことになった。

「目先のメリットを横に置き、まずは利他的な発想で」

高原部長は、探究活動を通じて学びに目覚める生徒を多くの高校で目にしてきた。
「通常、高校の3年間では『課題設定』から『まとめ・発表』までの探究サイクルを2、3回経験させるのが精一杯。しかし、面白さに目覚めた生徒はそれだけでは飽き足らず、何回でもやりたいと考える。内容もどんどん発展して学校の外にフィールドが広がり、他校の生徒と組んだりする。そうなると高校教員にはとても対応できず、生徒に伴走する外部人材を増やす必要性がさらに高まる」

伴走者となる「探究コラボレーター」の認定について、櫻井氏は「社会で特段の武器になる資格ではないし、認定することにハードルを設けるつもりはない。高校生にとっての探究の価値を理解し、問いを耕すことを支えるコミュニティの一員だという志を確認する意味合いがある」と説明する。

高大連携について話す時、高原部長はいつも「自学にとっての目先のメリットはとりあえず横に置いて、利他的な発想でやる。その方が結局、リターンも大きい」という基本姿勢に触れる。

「知識・技能以外の力を評価する入試による入学者が6割を超えた今も、その多くは部活や委員会活動をアピールするにとどまっている。探究の担い手が広がって活動が底上げされ、そこでの豊かな経験を語れる生徒が増えれば、入学者の質が確実に変わり、大学教育にも自ずと磨きがかかる。道のりは遠いが、そのことがすべての大学にとってのメリットとなり、私たちもそれを享受することになる」
「桜美林大学がそのけん引役を果たすことによって、偏差値以外の大学の価値に社会の目が向くという期待もあるが、そう簡単な話ではない。時間をかければ変わり得るのか、それもわからない。それでもチャレンジする意味と価値は十分あると信じている」