多彩な高大連携プログラムによる探究科目でミスマッチを防止―佼成学園女子高校
学生募集・高大接続
2024.0318
学生募集・高大接続
3行でわかるこの記事のポイント
●独自のネットワークで女子大や理系大学などと幅広い連携
●東京工科大学は学期を通した連携授業で総合型選抜の出願資格を与える
●大学による探究支援プログラムの情報も生徒に提供し、参加を推奨
高校と大学双方で年内入試シフトが進む中、進学におけるミスマッチを防ぐための高大連携のニーズも双方で高まっている。そんな中、佼成学園女子高校は自校単独で多くの連携先を確保し、さまざまな高大連携プログラムを盛り込んだキャリア探究科目を設けている。「進学実績のためではなく、教育接続が第一の目的」という連携の中身とは―。
佼成学園女子高校(東京都世田谷区)は私立の中高一貫校。特進コース、進学コースのほか国際コースがあり、グローバル教育に力を入れている。1学年約170人で、2023年度入試では国公立大学に3人、「早慶上理」に34人、「GMARCH」に37人が合格した。
同校は2022年度の新課程スタートに合わせてカリキュラムを改訂し、学校設定科⽬「キャリアデザイン」(2単位)を新設。変化が激しい社会の中で、自らの⼈⽣をデザインする力をつけさせることがねらいだ。
キャリア形成の起点とも言うべき大学選択でのミスマッチを防ぐため、2023年度の「キャリアデザイン」では、多くの大学の協力を得て、それぞれの学びに触れる機会を設けている。
「キャリアデザイン」は2年生が対象で、特進クラス60人は必修、他の探究科目とのいずれかを選択する進学クラスからは40人が履修している。週1回2コマ連続の授業は2023年度、進路指導部と教務部の教員が担当している。
1学期の授業は、⼤学⾒学や研究計画書作成などで構成。
2学期の「キャリアデザイン演習」では、大学との連携の下、さまざまなプログラムを展開する。
3学期は学習の集大成として、それぞれのキャリアデザインをまとめ、発表する。
2学期の「キャリアデザイン演習」では3つのクラスを設置。その中の一つが、後述する東京工科大学との「連携授業」だ。他の2クラスでは合同、または別々の内容で、毎回さまざまな大学との連携による「特別授業」を行う。
東京工科大学の授業に興味がある生徒は2学期の間、継続的に連携授業に参加。他の生徒は毎回、特別授業の方に参加し、2種類のプログラムがある場合はいずれかを選ぶ。
「特別授業」では、津田塾大学や共立女子大学の授業見学、福岡女子大学の教員による女性のキャリア構築に関する講演など、女子大との連携も多い。さらに、立命館アジア太平洋大学と桜美林大学の教職員がオンラインで「グローバル」についてセッションするプログラム、日本大学と大正大学の入試担当者が自学のガイダンスを兼ねたトークセッションをするプログラムもある。
これらに加え、各大学が独自に実施する探究支援プログラムやオンラインで公開している授業などをリストにまとめ、生徒に参加を推奨。2023年度は、上智⼤学の探究支援プログラム「せかい探究部」、東京学芸⼤学のイベント「探究の共創 in Winter」でのポスター発表などに生徒が参加した。
佼成学園女子高校はこのように、大学の協力を得て自校で実施する授業のほか、各大学のプログラムの情報も集め、生徒が進学先やキャリアを考えるための材料を数多く提供する。生徒は、その中から興味のあるプログラムを選び、複数の学問分野や複数の大学の学びを比較検討したり、「これは!」と思うテーマを掘り下げたりする。
「キャリアデザイン」は多くの大学との連携によって成り立っているが、中でも東京工科大学、桜美林大学、東京都市大学、成城大学の4校とは、提携協定を結ぶなどして特に手厚い支援を受けている。いずれも同校から継続的に入学者がいる大学だ。
桜美林大学との連携では、探究支援プログラム「ディスカバ」を「特別授業」に組み込み、生徒は2回にわたって探究課題に取り組んだ。
東京都市大学の探究支援プログラム「OPEN MISSION」にも、協定に基づいて生徒が参加し、総合型選抜の出願資格を得た。
成城大学では、図書館実習として蔵書検索システムの使い方の指導を受けたほか、公開講座にも参加した。
東京工科大学による全8回の連携授業は約20人の生徒が受講した。
応⽤⽣物学部の教員が毎回高校に赴き、高校生向けにアレンジした授業を実施。全4専攻の教員が持ち回りで担当し、学部の学びの全体像を紹介した。
そのほか、受講生は同学部の学生から資料の作成方法について指導を受け、「生命科学を利用して実現したい20年後の未来」というテーマでポスター発表をした。大学での発表会ではキャンパスツアーや研究室訪問も体験した。
「キャリアデザイン」の授業を企画した進路指導部⻑の⻄村準吉教諭は「難しくて歯が立たないと感じることも含め、大学の学びに触れることは生徒にとって得がたい経験になる。大学の教室で大勢の先生や学生を前にして発表し、コメントをもらうといったアカデミックで濃密なコミュニケーションは、ゲストとしてもてなされるオープンキャンパスとは全く違う刺激を与える」と話す。
今回の連携授業では、理系志望者を増やしたい佼成学園女子高校、女子学生を増やしたい東京工科大学、それぞれの課題がうまくかみ合った。受講した生徒から「大学で応用生物学部を学んでみたくなった」という声が出るなど、高大それぞれが手ごたえを感じている。
18の高校と連携協定を結んでいる東京工科大学にとって、女子校は佼成学園女子高校が2校目となる。同大学には探究学習評価型の総合型選抜があり、今回の連携授業受講を2025年度入試の出願条件として認める。大学側の窓口を務めた学校法人片柳学園広報部の山岸利生広報課長は、「今後は連携授業を応用生物学部以外にも拡大し、学びと入試を接続させる高大連携を進めたい」と話す。
佼成学園女子高校が独力で多くの大学と連携できるのは、西村教諭が大学の入試担当者や教員と積極的に交流し、ネットワークを築いてきたからだ。「高校の教育課程に詳しく連携に前向きな担当者がいる大学とは、話を進めやすい」と同教諭。
「本校では、進学実績のためではなく、ミスマッチを防ぐための教育接続を目的に高大連携に力を入れている。そこを理解して本校が必要とするリソースを提供してくれる大学との教育接続を進め、その先に入試による接続もできるようになれば理想的だ」
大学との連携が理系志望者の増加につながることも期待する。「学校推薦型選抜の指定校など、進学の受け皿が増えれば、保護者も安心してわが子の理系選択を応援できる。教育接続をまずは指定校枠の確保や拡大につなげ、次のステップで総合型選抜での受け皿ができていけばありがたい。その大学の学びに対する理解を深めたうえで、探究の成果を携えて総合型選抜に挑戦するというのが、本校が推奨する受験スタイルだ」(西村教諭)。
同校は次年度以降、連携する大学を拡大し、連携授業、特別授業ともさらに充実させたい考えだ。「理系分野は、今回のように高校生向けにアレンジした内容を出張授業で実施してもらう形を基本に、双方向型のスタイルを取り入れたい。一方、高校生にとっても比較的わかりやすい文系の授業は大学に足を運んで聴講させる形を基本とし、より積極的な参加を促す」と西村教諭。
連携先を開拓するうえで大学に期待することは、担当部署の設置だという。「かつて、大学の教養課程には高校の教育課程を熟知し、こちらのニーズを理解したうえで連携の相談に乗ってくれる教員が多くいた。教養課程がなくなってからはそのような教員を見つけにくく、交渉が複雑になりがちだ。連携担当部署を設けて高校の教育に詳しい教員を配置してもらえると高校側は助かるし、大学にとってもメリットが大きいのではないか」。