2025.0324

自学のリソースを生かし高校の「情報」やデータサイエンス教育を支援-金沢工業大学

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3行でわかるこの記事のポイント

●イベントで高大連携事業の紹介、デジタル機器展示、ワークショップなど
●DXハイスクール申請に関する相談を通し、"高校の困りごと"を把握
●高大連携の強化を学生募集につなげたいとの期待も

金沢工業大学はこのほど、DXハイスクール採択校など、「情報」の授業や数理・データサイエンス教育に力を入れようとする高校の教員を対象とするイベント「🔗DXハイスクール応援プログラム」を実施した。2024年8月に続き2回目。高校とのネットワークを強化して実質的な高大連携を実現したい考えだ。


29 都道府県から 135人の高校教員が参加

文部科学省の「🔗高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」は、高校段階におけるデジタル等成長分野の人材育成強化を目的に、実施されている。「情報Ⅱ」または数理・データサイエンス・AIを活用した実践的な教育をしている高校等が対象で、2024年度は4月に1010校を採択し、1000万円を補助している。2025年度は新たに200校の採択が予定されている。

 金沢工業大学の「DXハイスクール応援プログラム」(以下、「応援プログラム」は、自学の強みである教育DXやデータサイエンス教育等を生かしてDXハイスクール採択校や採択をめざす高校の取り組みを支援するものだ。

 2025年2月下旬に実施した2回目の「応援プログラム」は、自学と高校の連携事業の事例紹介、AIやデータサイエンス、プログラミング等をテーマにしたセミナー・ワークショップ、デジタル機器の展示、AIXR( VRなど仮想空間に関する技術)を活用した課外活動の紹介などで構成。

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高校にDMを送付したほか、高校訪問等の窓口となる進路指導担当者からDX担当者につないでもらい、個別の参加呼びかけも行った。北海道から長崎まで 29 都道府県から対面で115人、オンラインで20人の高校教員が参加、教育委員会からも8人が参加した。

「情報」が専門の教員が不在で音楽の教員が担当するケースも

「応援プログラム」実施のきっかけは、初年度のDXハイスクールの実施要項が出た20241月頃、地元の高校の教員からかかってきた電話だった。「DXハイスクールの採択をめざしているが、何から始めればいいかわからない。貴学は教育DXに力を入れているので、相談に乗ってほしい」と頼まれた。

「応援プログラム」の事務局を担う共創教育推進室の西川紀子室長は「その後、全国から同様の相談が相次いだ。本学の取り組みが高校に広く知られているというわけでもなく、困り果てて検索でたどり着くケースが多かったのではないか」と話す。

 問い合わせしてきた高校に詳しく話を聞いてみると、「DXハイスクール」の実質を整えるためのノウハウがなく、困っていることがわかった。「紙ベースでさまざまな業務を行っている高校が多く、デジタルに苦手意識を持っている教員も一定数いるようだ。『情報』を専門とする教員がいないため比較的デジタルに強い音楽の教員が担当している、『情報Ⅰ』の授業も十分なノウハウがない中で『情報Ⅱ』に対応することになった、といった苦労話をたくさん聞いた」(西川室長)。

探究学習の指導ノウハウがまだ十分とは言えないところへ、今度はそこにデジタルを入れよという大号令がかかり、教員が頭を抱えている―そんな実情が伝わってきた。

データサイエンス教育や「Plus- DX」の取り組みなど、豊富なリソース

金沢工業大学は、高校現場のこうした状況を打開するために、自学のリソースを役立てることができると考えた。

教育の柱であり、問題の発見から解決までのプロセスをチームで実践しながら学ぶ「🔗プロジェクトデザイン教育」は探究学習に応用できるのではないか。

また、全学で実施し、文科省の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」の「リテラシーレベル」「応用基礎レベル」の両方に認定されている「🔗KIT数理データサイエンス教育プログラム」は、高校の「情報」の授業との連携が可能だ。

さらに、🔗教育DX計画は、文科省の「Plus- DX(デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン)」の「取組1(学修者本位の教育の実現)」と「取組2(学びの質の向上)」の両方で採択されている。学修の個別最適化を図る「取組1」では、データ分析の結果、課外活動を2つ掛け持ちしている学生の方が何もしていない学生よりGPAが高いことがわかるなど、データを指導につなげている。こうした実践も、DXハイスクールの取り組みにおいて参考にしてもらえるだろう。

 「これらのリソースを提供すれば、高校の課題解決に貢献できると考えた。支援を通じて、高校教員が『金沢工大ではこんなこともやっているのか』と知り、生徒に『金沢工大について調べてごらん』『1度、見学に行ってみたら?』とアドバイスしてくれることも期待できる。高大連携のパートナーを増やし、学生募集につなげるチャンスが広がる」(西川室長)

 「応援プログラム」の構想について学長に相談し、全学的な協力体制ができたという。「学生募集に対する危機感、高校との関係強化の重要性は教員にも共有されているため、応援プログラムの企画・実施に向けた連携はとてもスムーズだった」と西川室長。

 部活と探究活動の掛け合わせを例示してアドバイス

初回の「応援プログラム」は、2024年度のDXハイスクール採択校を対象に、同年8月、2日間に分けて実施。探究学習等におけるICT機器活用例を紹介し、各種ICT機器の展示・操作体験のコーナーも設けた。参加者の関心が特に高かったのは、機器活用によるグループ討議の活性化、VR、AI のプロンプトエンジニアリング等だった。

冒頭で触れた2025年2月、2回目の「応援プログラム」では、DXハイスクールの新規募集を念頭に、申請を予定する高校まで対象を広げ、文科省の後援を得た。

初回の事後アンケートで多く挙がった要望を反映し、高校との連携事業の事例を紹介。連携先の石川県立大聖寺高校が、金沢工業大学の3DプリンターやVR を活用した探究活動について説明した。

 フリーディスカッションでは、高校からの質問に答える形で、自学の取り組みを紹介する場面もあった。

金沢工業大学では、授業で得た知識やスキルを課外活動で活用して学びを深めることを推奨している。高校に対し、「例えば、野球部の生徒がピッチングフォームをモーションキャプチャー(人やモノの動きをデジタルデータ化する技術)で記録し、探究学習でそれを分析してフォーム改善について考えるといった活動をすれば、楽しみながら学びを深められる」とアドバイス。高校教員から「貴学とそういう連携事業をやってみたい」との要望も挙がったという。

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 また、モーションキャプチャーを使った障害者の身体能力維持のトレーニングなど、自学の教員の研究を紹介すると、「興味を持ちそうな生徒がいるので伝えたい」という反応があった。

 アンケートでは、「さまざまな機器を実際に試すことができ、活用事例も聞けたので、授業での取り入れ方について具体的なイメージがわいた」「デジタル教育はパソコン内で完結すると思い込んでいたが、機器を使えばいろんなことができると気づいた」といった声が寄せられた。 

補助金がなくても自走できるよう、高校教員のスキルアップを支援

西川室長は「参加者の満足度は総じて高いが、それをいかにして今後の連携協定、連携事業の拡大につなげるかが課題だ」と話す。

同大学では、工業高校だけでなく、普通科や商業高校、農業高校など、多様な連携先を開拓する方向で、DXハイスクールとのネットワークに対する期待は大きい。例年、新規の連携協定締結は1、2校だが、DX ハイスクール事業の影響もあって2024年度は新規が7校増え、京都府と大阪府、岡山県の各教育委員会とも連携協定を結んでいる。

 「まずは出張講義に呼んでもらい、本学のリソースを提供する機会を増やしたい。高校が抱える課題はそれぞれ異なる。イベントで多くの高校とつながり、次に11の関係に移行して、それぞれの課題に合わせた支援をしていきたい」(西川室長)

 2025年度のDXハイスクール事業では、新規採択が予定される一方で、2024年度からの継続校は補助金が500万円に半減する。西川室長は、次の応援プログラムの実施については「今後の高校の動きをふまえて検討したい」と説明。「補助金を使って業者に頼ざるを得ない高校もあるようだが、補助金が終了しても自走できるようになるためには、高校教員による確実なノウハウ習得が重要。すべての人にとってデジタルの活用が必須のリテラシーとなる中、本学は高校教員のスキルアップを支援する息の長い活動を展開していきたい」

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