2023.0110

重点校との連携を強化し、科目等履修で入学後に単位認定-東京工科大学

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3行でわかるこの記事のポイント

●高大の専門分野が重なり、双方が教育接続に積極的
●オンデマンドの授業コンテンツで距離と時間の障壁を解消
●今後は探究入試による受け入れ体制も整備

東京工科大学は入学者が多い都立多摩科学技術高校との高大連携を強化し、科目等履修制度で正規科目を開放して入学後に単位認定する取り組みを始めた。"コロナ対応"で整備したオンデマンドの授業コンテンツを活用し、高校生にとっての受講の壁を取り払った。18歳人口の減少を背景に、自学の教育との親和性が高い高校との連携をこれまで以上に強化したい考えだ。


●連携校からの入学者が多く、学びの意欲も高い

 東京工科大学は八王子キャンパスに工学部、コンピュータサイエンス学部、メディア学部、応用生物学部の4学部、蒲田キャンパス(大田区)にデザイン学部と医療保健学部の2学部を擁する。学部学生数は約7900人だ。
 都立多摩科学技術高校(小金井市)は科学技術者・研究者育成を目的に、東京都が設置を推進した科学技術高校の一つ。バイオテクノロジー、エコテクノロジー、インフォメーションテクノロジー、ナノテクノロジーの4領域をカバーし、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されている。
 東京工科大学は、同校が前身の高校の改組によって開校(2010年)した当初から緊密に連携している。応用生物学部の教員が「アドバイザー講師」として年3回、訪問。1、2年生を対象に、科学技術に対する興味・関心や職業意識の向上を促す授業を実施している。その受講がきっかけで同大学に興味を持ち、出願、入学する生徒も多いという。
 京都大学など難関国立大学にも生徒を送り出す多摩科学技術高校は、1学年210人。 2022年度入試の大学別合格者数(延べ人数)では、私立大学の中で東京工科大学が2番目に多い。2022年12月現在、同大学の在籍者の出身高校を見ても、多摩科学技術高校が49人で最多。応用生物学部を中心に、どの入試方式でも出願・入学者がいる。
 法人本部広報部広報課の清水司氏は「同校の4領域は本学の学部の専門分野と重なり、連携先として重視している。同校からの入学者は適応度が高く意欲的に学び、高校生向けのサイエンスイングリッシュキャンプやオープンキャンパスの学生スタッフ、在学生対象のITサポートスタッフにも積極的に手を挙げてくれる。重点校として、今後もより緊密な連携を図っていきたい」と話す。

●高校側が高大接続プログラムと探究入試を要望

 4年ほど前、多摩科学技術高校に着任したSSH担当教員は、探究学習に力を入れている。東京工科大学との連携にも積極的で、SSHの成果を発表するシンポジウムに同大学の教員が講評者として参加したり、同大学の大学院工学研究科が主催する「サステイナブル工学研究会」で同校の生徒に発表機会を提供したりと、取り組みが広がった。工学部の教員はここ数年、生活科学分野の研究をする部活のアドバイザーも務めている。
 高大連携が拡充する中、多摩科学技術高校から同大学に対し、「生徒は探究学習に真剣に取り組んでいる。その支援となる高大接続プログラムや探究入試の導入を検討してほしい」との要望が挙がった。

●連携協定締結によって科目等履修制度を無料で活用

 東京工科大学は高大接続プログラムについて、既存の科目等履修制度を活用して工学部の授業を生徒に開放する方向で検討をスタート。従来、高校生もこの制度の対象にしていたが、物理的な距離や高校の時間割との重なり、さらには登録料や受講料も障壁となって、ほとんど活用されていなかった。
 距離と時間の問題は、コロナ禍で学生用に整備したオンデマンド型の授業コンテンツを活用することによって解決した。生徒は1、2回ある八王子キャンパスでのスクーリング以外は自分の都合の良い時間に授業を視聴し、レポートや試験によって成績評価を受ける。東京工科大学に入学した場合は単位認定される。
 科目等履修制度の募集要項には「東京工科大学と教育連携協定を締結している高校の生徒は無料で受講できる」との一文がある。これを多摩科学技術高校に適用するために、2022年5月に連携協定を締結。取り組むこととして、従来の「SSH支援、探究活動等の連携」「模擬授業」「研究支援」に加え、「高大接続プログラムの開発・研究」「カリキュラム・教材開発の連携」も盛り込んだ。
 科目等履修の対象科目は、生徒の興味・関心や難易度を考慮し、いずれも基礎的な内容を扱う「電気回路1」「化学基礎」「サステイナブル化学概論」など6科目を選定。いずれも100分の授業14回で構成される。1人2科目まで履修でき、試行期間と位置付ける2022年度後期は1年生5人、2年生1人の計6人が2科目ずつ履修している。

●探究入試は、学内の教員から「本質的なマッチング」と好評

 多摩科学技術高校からのもう一つの要望である探究入試は、2023年度入試で、応用生物学部と工学部の総合型選抜(探究成果発表入試)として導入。高校で探究学習に取り組み、発表した実績があることを出願要件にした。着眼点と探究のプロセス、気づきや成果と、それらを大学での学びにどう生かそうと考えているかを提出書類、面接・口頭試問で確認する。
 面接を担当した教員からは「従来の総合型選抜以上に学びや研究に対する意欲・適性を見極められ、本質的なマッチングができる選抜だ」と好評だったという。次年度以降も試行と改善を重ね、2025年度からの新課程入試では他学部にも拡大して本格実施したい考えだ。

●学内の横展開、連携の拡充に意欲

 東京工科大学が、専門分野が重なり、入学者も多い多摩科学技術高校との連携を強化するのは、教育接続を図ることによって自学にマッチした学生を安定的に確保していきたいと考えるからだ。豊嶋信一学務部長は「18歳人口の減少によって学生募集はどんどん厳しくなるが、どんな学生でもいいというわけではないし、学力だけを重視する考えもない」と話す。「本学の教育・研究の特色を理解し、ここで学びたいと思ってくれる学生が欲しい。そのためには高校段階で本学の教育に触れてもらい、探究入試で選考するという接続がベストだと思う」。
 現在、多摩科学技術高校との連携は応用生物学部と工学部のみで行っているが、今後は他学部にも広げていく予定だ。
 一方、同校との連携を足がかりにして連携先を広げたい考えで、他校へのアプローチを始めている。オンデマンド授業による科目等履修を実現したことにより、近隣や都内の高校に限らず地方の高校との連携の可能性も見えてきた。「今年度の科目等履修の受講生がどの程度の成績を修めるかも見たうえで、他校へのプログラム提供を検討する。高校側が高大連携に何を求めているかもよく聞いて、双方にメリットを生み出したい」(清水氏)。
 豊嶋部長は、高大連携における課題を次のように話す。「高校ごとにカスタマイズする形でプログラムを開発すると、膨大な労力を要してなかなか前に進まない。多くの高校で展開できる汎用的なパッケージを開発してスピードを上げたい」。同部長は、科目等履修制度活用のインセンティブを高めるため、高校側にもより踏み込んだ対応を期待する。「履修した大学の科目は高校でも単位認定することが可能だが、ほとんどの高校はそこには消極的。高大連携が生徒、高校、大学それぞれにとって魅力的なものになるよう、高校にも単位認定を促していきたい」。