2024.0605

アセスメントによる検証に基づき共創学部の入試改革を実施-九州大学

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

●総合型と学校推薦型の入学者の違いが鮮明になるよう選抜方法を見直し
●学生は教育の特色を理解し、学部の教育リソースをスムーズに活用
●4年生はアセスメントと独自アンケートで教育成果を精緻に検証

九州大学が2018年に新設した共創学部は、当初からアセスメントテスト「GPS‐Academic」を使い、1年生の態度・資質・能力を測定している。蓄積したデータの分析に基づき、求める人材の選抜精度をさらに上げるために2026年度入試において改革を実施する。カリキュラム改革も実施済みで、これらを通じて学部が掲げる「共創的課題解決力」の育成を先鋭化する。


1年生は学部新設当初から、4年生は2年前からアセスメントを実施

九州大学共創学部は文理融合・分野横断の学びを通じた「共創的課題解決力」の育成を掲げる。

「知識を問う入試から能力を見極める入試への転換」という理念の下、多様な学生を受け入れるために総合型選抜、学校推薦型選抜、一般選抜、国際型入試という4種類の入試を実施。これらによって、アドミッション・ポリシーで掲げる「主体的学習態度」「協働への強い意欲」「批判的思考力」「国際的視野」を備えた学生を選抜できているか、検証することを一つの目的として「GPS-Academic」を実施している。

初回の2018年度は1年生の希望者を対象に試行実施し、2年目からは1年生全員に拡大。2022年度からは4年生を対象に加え、4年間の伸びも測定している。 

学校推薦型選抜と一般選抜で英語外部検定の利用内容を見直し

これまでの検証をもとにした2026年度入試改革の主な内容は以下の通り。

総合型選抜と学校推薦型選抜それぞれの入学者は、「GPS-Academic」の結果を示した下図の通り、全国平均、共創学部の全入学者平均と比べて姿勢・態度、思考力ともスコアが高く、求める学生を選抜できていることがわかった。

graph.png

一方で、両入試区分の入学者のタイプが似通っている点に着目。選抜形態ごとの違い・特色がより鮮明に表れるよう選抜方法を見直す必要があると考えた。

そこで、総合型選抜は現在2次選抜で実施している「講義の受講とレポート作成」を1次選抜(現在は志望理由書、活動歴報告書等の書類選考のみ)に移すことにした。2次選抜では、討論や面接を行う(具体的な方法は検討中)。

一方の学校推薦型選抜は、英語外部検定の利用において、①英検の「みなし基準」の引き上げ、②「みなし得点」に実際の大学入学共通テストの得点を反映、という変更を加える。留学に対する入学者の志向性が高いという「GPS-Academic」の結果を受けた対応だ。
これら選抜方法の変更に加え、募集人員を現在の総合型選抜20人、学校推薦型選抜10人からいずれも15人ずつに変える。

英語外部検定に関する見直しは一般選抜にも適用。国際型入試では帰国生徒の枠を廃止する。
入試方式それぞれのチューニングによって人材要件を満たしつつ、従来以上に多様性に富んだ学部づくりをめざす。 

学びの特色に関する理解度は他大学と比べて顕著に高い

GPS-Academic」の導入当初からの全体的な傾向として、アンケートでは、共創学部の学びの特色である「教員の指導が充実している」「英語教育が充実している」に関する肯定度が高い。他大学のスコアと比べてもこの傾向は顕著で、学部のリソースが学生にしっかり認識されていることを、三木洋一郎教授ら教員陣は喜ぶ。

学部設置から7年たち、高校生が入手できる教育の特色や実績に関する情報が増えた。「入学してからは先輩学生の様子も見聞きするので、学部についての1年生の理解は年々深まっている」(三木教授)。

その結果、学生は戸惑うことなく学部の教育リソースを活用できているという。三木教授は「共創学部では3年次までの幅広い学びを通じて卒業研究のテーマを決める。3年次のはじめから研究の方向性と指導教員(正・副)を誰にするか考えてもらうが、決定までが年々スムーズになっている」と説明する。 

カリキュラム改革で科目選択の自由度が向上

GPS-Academic」の結果データは、学生ポートフォリオで本人が確認できる。自らの強み・弱みを認識したうえで、それらを伸ばしたり改善したりするという主体的な姿勢で、授業のグループワークなどに臨むことが期待されている。

2023年度にはそれまでのカリキュラムを見直し、新カリキュラムを導入した。ここでも、教員の問題意識に基づく議論をデータで補完する形で、「GPS-Academic」を含む各種の学部評価情報が参照された。
特に大きな見直しは、「人間・生命」「地球・環境」など4つのエリア(領域)のうち、専門にするエリアで一定以上の単位を修得するという履修の「縛り」をなくしたことだ。学びの領域をわかりやすくするために、エリアと同様の概念は残しつつ、科目選択の自由度を高めた。

従来、2年次と3年次で分けていたPBL型の「協働科目」の授業は、2024年度から学年混成にする。より多様な学生との協働による学びの深化が期待されている。 

客観的データに基づく検証で教育力を磨き続ける

4年生については、「GPS-Academic」のほか、1期生から継続的に学部独自のアンケートを実施。「汎用性が高く受検者が多いアセスメントで他大学と比べる一方、独自アンケートでは本学部ならではのゴールに着目した検証を行う」(三木教授)。
独自アンケートでは、卒業を控えた学生は、学部を特徴づける「協働科目」が「共創的課題解決力」を高めるうえでとても役立ったと評価するという。

2024年度に7期生を迎えた共創学部。アセスメントでは歓迎すべき結果が多く示される一方、気になる点もあるようだ。
最新の調査においては、「レジリエンス」(ストレス耐性、回復力等)が、際だって高いとはいえない学生も確認されているという。このような学生に対しては、「協働科目」のグループワークなどで一人ひとりが活躍、貢献する場を多く設けて成功体験を得させるなど、教育機会の充実によって改善を図りたい考えだ。
「『GPS-Academic』では『レジリエンス』のように客観的に捉えにくい学生の特性がデータで示されるので、具体的な対応策を考えることができる」と三木教授。

九州大学共創学部では今後も、入試改革、カリキュラム改革などの成果を客観的データに基づいて検証し、PDCAサイクルを回して教育力を磨き続ける方針だ。

🔗「GPS-Academic」の活用事例