2024.0311

改革総合支援事業-申請する四大は延べ数で増える一方、実数は漸減

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3行でわかるこの記事のポイント

●短大は申請・選定とも延べ数・実数が減少傾向
●IR担当者を加えて戦略的に取り組み、初めて選定された地方大学も
●文科省は経営戦略を評価して継続的に支援する新事業を予定

2023年度の私立大学等改革総合支援事業の選定結果が、このほど発表された。11年目を迎え、4年制大学は申請・選定の実校数が減少傾向にある。初選定に沸く大学と、数年間、選定から遠ざかっている大学の双方から、「補助金を追いかけ続けるのはしんどい」との声も。こうした中、文部科学省は改革総合支援事業とは異なる評価軸に基づく新たな支援事業の準備を進めている。

選定校の一覧
全公表資料


●2023年度の予算は112億円

私立大学等改革総合支援事業は大学、短大、高専が対象で、「タイプ1 『Society5.0』の実現等に向けた特色ある教育の展開」「タイプ2 特色ある高度な研究の展開」「タイプ3 地域社会の発展への貢献」「タイプ4 社会実装の推進」の4タイプがある。 

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大学等はタイプごとに設定された改革の進展度の評価項目について自己評価。複数のタイプに申請できる。総合得点の高い順に選定され、私立大学等経常費補助の一部が傾斜配分される。2023年度の予算は前年と同額の112億円。

●4タイプすべてで選定されたのは7大学

「タイプ3」には地域連携型のほかプラットフォーム参加校として申請するプラットフォーム型があるが、これを含め、いずれかのタイプに申請した4年制大学は延べ923校(実数413校)。そのうち延べ315校(実数198校)が選定された。実数での選定率は48%。

短大は延べ237校(実数150校)が申請し、そのうち52校(実数40校)が選定された。実数での選定率は27%。

4タイプ全てで選定されたのは東京都市大学、芝浦工業大学、帝京大学、東京電機大学、藤田医科大学、大阪医科薬科大学、福岡工業大学の7校だった。  

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 ●「入試の妥当性検証」は「高校関係者等の知見の活用」が要件に

4年制大学について、「タイプ1」で今回から変更された項目の要件、および取り組み状況を見ていく(年度によって設問が違う場合もある)。

「アクティブ・ラーニング科目の開講」は、「実施」の要件が従来の「全開講科目の60%以上」から「70%以上」に引き上げられた。「実施」に該当するのは申請校の57%、選定校の82%だった。 

入試での「『数学』『情報』の出題」は今回から、基本情報技術者試験、ITパスポートなどの資格・検定試験等の活用も「実施」とみなされるようになった。全学部で出題または資格・検定試験等の活用を必須化しているのは、申請校の20%、選定校の40%だった。

「多様な背景を持った学生の受け入れへの配慮」は従来、「受け入れ」と「入学後の学びの支援」の両方に取り組むことが「実施」の要件だった。今回から後者が独立した項目になり、両方を実施すれば得点が従来の倍以上になる。「入学後の学びの支援」を企業等との連携で実施している大学は申請校の14%、選定校の30%だった。

「入学者選抜の妥当性の検証」は、「実施」の要件に「⾼校関係者など、外部有識者の知⾒の活⽤」が加えられた。これは「教学マネジメント指針(追補)」で、大学入試について「各大学において、例えば、高等学校関係者との意⾒交換等の機会を積極的に設けることなどを通じて、⾼等学校における教育等の実情を理解するよう努めることが必要」とされたのを受けた変更だ。実施は申請校の44%、選定校の92%。

「タイプ1」の中で実施率が低い項目は、「学事暦の柔軟化」(実施率は申請校8%、選定校17%)、「学修歴証明のデジタル化」(申請校10%、選定校25%)、「インターンシップ科目の実施」(申請校19%、選定校29%)など。 

●学長の意思を受け、事務局長がプロジェクトを動かす

星槎道都大学(北海道北広島市)は今回「タイプ1」で選ばれ、同事業初選定を果たした。

事務局長の谷口昌弘氏(学務部長を経て前事務局次長を務め、20234月から現職)が、飯浜浩幸学長から課せられた最初のミッションとして選定に向けて取り組んだ。「これまでも中期計画に基づき毎年申請はしていたが、とりまとめをする部署から各担当部署に調査票が配られ、回答項目を提出するだけだった。私自身、学務・入試の責任者として『あの入試を少し変えればここで得点できるのだが』と思いつつ、積極的に変えようとはせず回答を出して終わっていた」と振り返る。

谷口事務局長はミッション遂行に向け、コントロールタワーを据えて戦略的に進めることにした。コントロールタワーとなったのは事務局内にあるIR企画課だ

「調査票で示されていることそのものではなくても似たことをやっていて、新たな取り組みを足せば得点できる項目が結構あった」(谷口事務局長)。そこで、IR企画課の担当者で入職4年目の兼本拓哉氏が、得点できそうな項目を洗い出した。それを酒井純一常務理事と谷口事務局長にフィードバックし、3者で戦略会議を実施。設問で示された要件について学務課長、入試広報課長らの協力の下、具体的な取り組みを進めた。

こうしたプロセスを経てティーチング・ポートフォリオの導入、ウェブ上での教育リソースの提供、ICTサポートデスクの設置などを実行に移した。
全教員の協力が不可欠なものも含まれるが、学長がたびたび口にしていた「今年は改革総合支援事業で選定される」という決意が全学の方針として浸透していたため、調整はスムーズに進んだ。
谷口事務局長は「本学は教職間の風通しが良く、職員が日常的に研究室に行って雑談交じりにいろんな相談ができる環境がある。大学の目標が共有され、頼み事がしやすい」と話す

学長は「タイプ3」の選定も強く望んでいるが、学外との調整に時間がかかるため、今回は申請を見送った。「『タイプ1』の継続的な選定とあわせ、次年度以降の課題だ。ただし、補助金だけを追いかけると身動きがとれなくなることもよくわかっている。優先すべき他の改革とのバランスを図りながら、現実的に対応していきたい」(谷口事務局長)。 

●「改革を続けるにもお金がかかり、悩ましい...」

大学の申請・選定校数はこの5年間で下図のように推移している。

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申請の延べ校数は2023年度にかけて2年続けて増加する一方、実数では5年間で漸減傾向にある。選定の実校数も漸減。申請の延べ校数増加は、改革が進みタイプを増やして積極的にチャレンジする大学があることに加え、今年度から可能になった「タイプ3」の「地域連携型」と「プラットフォーム型」両方への申請をする大学が相当数あったためと言えそう。
その一方で、選定ラインが年々上昇するため、選定の可能性が低いと考えて申請を見送る大学の増加が、申請実校数の漸減につながっていると推測される。

短大の5年間の申請・選定校数の推移は下図の通り。

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こちらは申請・選定とも、延べ数・実数の両方が減少傾向にある。申請校の実数は5年間で2031504分の3に減少、選定率は33%→27%と6ポイント下がった。この事業では大学と短大を区別せず、同列で得点の高い順に選定していく。大学以上に「選定は厳しい」と考えて申請をやめる短大が増えていると推測される。

ある地方私立大学は、毎年申請しているが、数年前に「タイプ1」に選定されたのを最後に選定から漏れている。職員の一人は「事業で示される項目は学生のためになる改革だと思うし、補助金の増額は助かる。しかし、改革を続けるのにも人件費などお金がかかり、補助金を追いかけるのはしんどい。申請は今後も続けると思うが、正直、悩ましい」と話す。 

●新事業の概要は2023年度内に予告される見通し

文科省の担当者は「地方大学や小規模大学、短大などからは『改革したいと思っても、学生確保など目の前の取り組みに追われ、全力で取り組む余裕がない』という話も聞いている。多くの大学のチャレンジを促せるよう、今後も設問のあり方などに工夫を重ねる」と説明。

さらに、「改革総合支援事業への申請が難しいと考えている大学にも、次年度から始める経営改革支援事業へのチャレンジをぜひ検討してほしい」と話す。「改革総合支援事業が『今、どのような改革に取り組んでいるか』を調査票に基づいて事後的・客観的に評価するのに対し、新事業では大学が作成する将来に向けた経営改革の計画を審査する。選定校は原則5年間継続的に支援する。意欲のある大学の腰を据えた取り組みを支援していきたい」。

新事業は、学内で十分な検討をする期間を設ける観点から、2023年度内に公募・選定のスケジュールや事業の概要、申請書のイメージなどを予告。その後、正式な公募を行う予定だ。