改革総合支援事業-教育が対象の「タイプ1」は年々、狭き門に
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2023.0314
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3行でわかるこの記事のポイント
●「タイプ1」の選定率は3年間で14ポイント下がり20%に
●研究が対象の「タイプ2」は申請校数が年々増加
●継続的な取り組みに対する加点制度は2年目を迎え、初めての選定校も
2022年度の私立大学等改革総合支援事業の選定結果が、このほど発表された。全体的な選定状況に加え、大学の関心が特に高い教育改革に関する取り組みの進展度について解説する。
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*参考記事(Between情報サイト)
英語4技能、多様な背景の学生受け入れで新項目-改革総合支援事業
*記事内の図表はいずれも文科省の公表資料から
私立大学等改革総合支援事業は大学、短大、高専が対象で、「タイプ1 『Society5.0』の実現等に向けた特色ある教育の展開」「タイプ2 特色ある高度な研究の展開」「タイプ3 地域社会の発展への貢献」「タイプ4 社会実装の推進」の4タイプがある。
大学等はタイプごとに設定された改革の進展度の評価項目について自己評価し、複数のタイプに申請できる。10年目となる2022年度の予算は前年より2億円多い112億円。総合得点の高い順に選定され、私立大学等経常費補助の一部が傾斜配分される。
4年制大学について見ていく。
プラットフォーム参加校として申請する「タイプ3 プラットフォーム型」を含め、いずれかのタイプに申請したのは延べ898校(実数437校)で、そのうち延べ307校(実数205校)が選定された。実数での選定率は47%。
教育に関する取り組みが対象で、特に多くの大学が申請する「タイプ1」は、選定校数が2019年度131校→2020年度96校→2021年度84校と年々減り、今回は78校だった。選定率は2019年度より14ポイント低い20%で、「狭き門」になってきた。一方、研究を対象とする「タイプ2」は申請校が年々増加し、今回は前年より44校多い125校が申請。選定校数は4校増えて44校だが、選定率は2年続けて10ポイント以上ダウンし、今回は35%だった。
4タイプ全てで選定されたのは東京都市大学、芝浦工業大学、帝京大学、東京電機大学、神奈川工科大学、藤田医科大学、大阪医科薬科大学、福岡工業大学の8校だった。
入試改革の有識者会議の提言を反映した評価項目の新設など、今回、変更点が多かった「タイプ1」について、申請校、選定校における取り組み状況(大学・短大・高専全体)を見ていく(年度によって設問が多少、違う場合もある)。
比較的大きな進展が見られたのは、データサイエンス教育と分野横断型教育だ。「企業の実データ等を用いた実践的な数理・データサイエンス・AIに関する授業科目を開講している」は、2021年度の104校(申請校の19%)から149校(28%)に増加。選定校では実施率68%だった。「分野・学部横断カリキュラムを全学部等で行っている」は、255校(46%)から299校(55%)に増加。選定校では90%に上る。
入試改革の取り組みはどうか。新設された「資格・検定試験等による総合的な英語力の評価を全学部等で実施」は197校(37%)で、選定校では64%。初年度から比較的、取り組みが進んでいると言えそうだ。一方、同じく新設の「多様な背景を持つ学生の受け入れに配慮した選抜」について、「実施・情報の公表ととともに、入学後の支援体制も整えている」は85校(16%)で、選定校でも33%にとどまっている。
「総合的な記述式問題を全学部等で出題することを募集要項等に明記」は、前年の156校(28%)から182校(34%)に増加。「文理を問わず『数学』か『情報』を出題」については、前年度まで「全学部等で出題することを明記」だったのが、今回は「全学部等で必須化することを明記」と要件が厳しくなった。これにより、実施校は前年の394校(71%)から88校(16%)に大きく減った。
入試以外での新設項目「学修歴証明のデジタル化」は、「全学で実施または年度内に実施予定」が41校(8%)にとどまり、選定校でも25%。取り組みの進展はこれからのようだ。
改革総合支援事業への積極的な申請を促すために、前年度、タイプ1で導入された「満点に対する自学の得点率が前年より一定程度上昇した場合の加点制度」が今回、全タイプに拡大された。事業委員長は、今回の選定結果を受けた所見で「これにより、事業開始以来、初めての選定となる大学等もあったところであり、選定大学等の固定化の緩和や継続的な改革に取り組む大学等への支援に資するもの」と評価。加点制度2年目となった「タイプ1」では、育英館大学、関西医療大学、鎮西学院大学の3校が初めて選定された。
関西医療大学は、同事業3年目の2015年度から3年連続で申請したが、いずれも選定されなかった。学内にあきらめムードが漂い、その後3年間は申請をやめた。その間も教育改革は進み、GPAの活用や入試での記述式の出題などに取り組んでいた。「せっかくある制度だから申請しよう」と再チャレンジを学内に呼びかけたのは、運営補佐副学長だった。武田大輔理事長、吉田宗平学長も「選定されるか否かに関わらず教育の質向上は今や社会的要請であり、申請することに意義がある」と援護射撃に回った。
しかし、2021年度、4年ぶりの申請では選定ラインにわずかに届かなかった。2022年度、評価項目が大幅に変更されたが、関西医療大学は吉田学長の指示で取り組んだオープンリソースの活用や、多様な背景を持つ学生の受け入れなど、実施率が高くない項目で得点できた。「特色ある教育の動画を他大学の参考にしてもらおうと公開していたことや、入試で地域枠を設けていたことなどが良かった」と副学長。
今回、初めて選定されたことによって学内が沸き、継続的な教育改革に対する意欲が高まっているという。