2022.0822

英語4技能、多様な背景の学生受け入れで新項目-改革総合支援事業

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3行でわかるこの記事のポイント

●有識者会議の提言をふまえ補助金を入試改革のインセンティブに
●「多様な背景」では工学部等での女子選抜枠設定も対象
●入学前教育、卒業生調査は「教育の質の指標」に移行

2022度の私立大学等改革総合支援事業(以下、「改革総合支援事業」)と「教育の質に係る客観的指標」(以下、「教育の質の指標」)それぞれの評価項目が大学に通知された。小幅な見直しにとどまった前年から一転、今回は入試改革に関する有識者会議の提言を反映した項目の新設など、変更点が目立つ。教育改革の取り組みを評価する内容で、大学の関心が特に高い「タイプ1」の変更点を解説する。 


●2022年度の事業予算は112億円

 改革総合支援事業は大学、短大、高専が対象で、今回が10年目。教育、研究、地域貢献、産学連携の4つのタイプ(カテゴリ)があり、複数のタイプに申請できる。申請時には、タイプごとに設定された改革の評価項目について自己評価。総合得点の高い順に選定され、補助金が傾斜配分される。2022年度の事業予算は前年から2億円増の112億円。
 一方の「教育の質の指標」は、教育に関する取り組みのうち大学に標準的に求められるものを評価項目にして得点化。総合得点に応じて一般補助が傾斜配分される。
 改革総合支援事業の「タイプ1 『Society5.0』の実現等に向けた特色ある教育の展開」「タイプ2 特色ある高度な研究の展開」「タイプ3 地域社会の発展への貢献」「タイプ4 社会実装の推進」のうち、「タイプ1」は前年と同じ105校程度の選定を予定している。 

●年内入試での基礎学力把握に関する評価項目は削除

 「タイプ1」の評価項目の主な変更点を見ていく。

①「入学前教育」「卒業生調査」「総合型・学校推薦型選抜での基礎学力把握」の削除
 「入学予定者への課題提示」と「卒業後調査の実施・公表、教育活動への活用」は改革総合支援事業の評価項目から削られ、「教育の質の指標」に移された。いずれも実施率が高くなったことに加え、後者は財政制度等審議会が教育の質向上に関わる指標の見直しとして「大学卒業後の就職・進学等の状況の把握」を挙げたことが背景にある。なお、「卒業時の成長実感や満足度等に関する調査」は改革総合支援事業の評価項目として残る。
 入学前教育と卒業生調査は多くの大学が取り組むスタンダードな改革に位置づけられたと言える。
 年内入試での基礎学力把握は、文科省が通知する入試実施要項で「知識・技能、思考力・判断力・表現力等も適切に評価するため」、「小論文、プレゼンテーション、口頭試問、実技、各教科・科目にかかるテスト、資格・検定試験の成績等」「または大学入学共通テスト」のうち「少なくともいずれか一つを必ず活用」とし、基本的なルールとなっているため、改革総合支援事業の評価項目からは削除された。

②「英語4技能評価」「多様な背景を持つ学生の受け入れへの配慮」の新設
 大学入学共通テスト、個別試験、外部検定等による4技能の総合的な英語力の評価に関する項目が設けられた。入試改革の有識者会議が、4技能評価は補助金等のインセンティブによって個別試験での導入を促すよう提言したのを受けた対応だ。
 また、有識者会議が性別や年齢、国籍、家庭環境、居住地域等によって進学の選択肢が制約される現状の改善を求めたことをふまえ、これら多様な背景を持つ学生を受け入れる入試を評価する項目も新設。地域枠や、工学部など女子学生の割合が半分未満の学部における女子選抜枠などを対象とし、特別枠設定の合理的な理由の公表も求める。
 
③「学修歴証明のデジタル化」の新設
 大学事務の効率化、学修歴証明の国際的な通用性・信頼性の向上、生涯学習の推進などを促すため、卒業証明書、成績証明書等をインターネット上での保管・共有が可能なデジタル形式に変換する取り組みを評価する。データサイエンスプログラムの履修証明として導入事例が増えつつあるオープン・バッジなど、個別の授業科目や講座単位での発行も対象となる。

④「ICTの活用」における「計画策定、技術・教育支援体制整備」の観点の追加
 従来の「ICTを活用した双方向型授業や自主学習支援の実施」に加え、その質を高めるための全学的な計画の策定や支援体制の整備も評価する。計画策定については「ICTの環境整備」「技術支援・教育支援体制の整備」「セキュリティへの対応」の全てをカバーする必要がある。教職員を対象とした技術面・教育面での支援体制としては、ICTによる授業を実施するための教授設計支援、個別相談・指導ヘルプデスクの設置等が例示されている。

●積極的な申請を促すための加点制度を全タイプに拡大

 上記以外の変更点として「『全学的な教学マネジメント体制の構築』において『アセスメントプランに基づく教育成果の点検』の観点を追加」「『アクティブ・ラーニング型科目の開講』の評価水準を上げる」「『入試における数学、情報の出題』の評価水準を上げる」「『IR専門職の配置』において『教学IRによる分析事例、教学IRをきっかけとする教学改善事例などの情報公開』の観点を追加」「『主専攻・副専攻制等による履修』において『入学後の主専攻決定、主専攻の変更を弾力化する仕組み』の観点を追加」などがある。
 改革総合支援事業への積極的な申請を促すために前年度、タイプ1で導入された「満点に対する自学の得点率が前年より一定程度上昇した場合の加点制度」は今回、全タイプに拡大された。タイプ1については前年初めて申請した大学が、この間の改革によって加点され、初めて採択されたり、採否のボーダーラインに近づいてさらに奮起したりという結果につながることが期待されている。
 改革総合支援事業の選定結果は2023年2月頃に公表される予定だ。