教育改革調査~3ポリシーに基づく「教育の質向上」 の取り組みは不十分
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2022.1214
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3行でわかるこの記事のポイント
●教育目標とカリキュラムの整合性を検証する全学委員会設置は半数以下
●有識者会議も取り組みの二極化を指摘
●学生の成長実感など、情報公表もより積極的な姿勢が求められている
文部科学省はこのほど、2020年度の大学教育改革に関する調査の結果を発表した。3つのポリシーに基づく教育の質向上の取り組みと情報公表について、「取り組みが十分とは言えない」との見解を示している。
*調査結果はこちら
*記事中のグラフは文科省の発表資料から引用
文科省による大学教育改革に関する調査は毎年実施されている。2020年度の調査は、国公私立795 大学を対象に2021年10 月から2022年1月にかけて行われた。回答率は97%だった。
文科省は調査結果の総括で「全国的にはまだ普及していないが、進展が見られた事項」として、以下の3つを挙げた。
◎ナンバリングの実施
2016年度:43%→2020年度:68%
◎授業科目間の内容重複を避けるため、教員間で調整
2016年度:63%→ 2020年度:65%
◎成績評価基準明示のため、一部科目でルーブリックを導入
2016年度:16%→2020年度:30%
大学教育を通して育成すべき力を学生が確実に身に付ける「学修者本位の教育」を実現するためには、3つのポリシー(アドミッション・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、ディプロマ・ポリシー)に基づく全学的なカリキュラム・マネジメントが求められる。今回の調査では、これが道半ばであることが示された。文科省は「十分とは言えない状況」「各大学における具体的な取り組みのさらなる進展が必要」と指摘。その根拠として挙げるのは次の項目だ。
◎3つのポリシーの達成状況を点検・評価している大学は85%
◎3つのポリシーに基づく教育の成果を点検・評価するための、学位を与える課程共通の考え方や尺度を策定している大学は61%
◎学修状況の分析や教育改善を支援する体制を構築している大学は61%
◎全学的な教育目標等とカリキュラムの整合性を検証する全学的な委員会を設置している大学は44%
「3つのポリシーの達成状況の点検・評価」の実施率85%は一見、高いようにも思える。しかし、3ポリシーの一体的な策定・公表が各大学に義務づけられてから5年たっていることもふまえ、「 85%にとどまっている」との厳しい捉え方になった。
中央教育審議会大学分科会で「出口における質保証」について議論している大学振興部会も、同様の認識を示している。部会の「審議経過メモ」では、「内部質保証体制の確立や教学マネジメントの改善等に取り組む大学は、十分とは言えないながらも確実に増えている」と評価 。一方で「改善に真剣に取り組む大学と改善の努力が不十分な大学とに二極化しているという指摘や、改善の取り組みが単に認証評価への対応等のための形式的・表層的なものにとどまっており、学修者本位の教育の実現や授業科目レベルでの教育の改善にはつながっていないという指摘もある」との見方を示している。
文科省は今回の調査結果から、大学の情報公表も不十分との問題意識を持っている。具体的に挙げたのは次の項目。
◎学生の学修時間を公表している大学は46%
◎大学の教育研究活動を通じた学生の成長実感を公表している大学は35%
◎教員一人当たりの学生数を公表している大学は64%
これらの情報は「教学マネジメント指針」で社会に対する公表が強く求められているとしたうえで、「地域社会や産業界、大学進学者等の大学の外部からの声や期待を意識し、社会からの信頼と支援を得るという好循環を形成するため、さらに社会からの評価を通じた大学教育の質の向上を進めるためには、より多元的な情報を公表し、大学全体の姿をできるだけ包括的に描く必要がある」と指摘している。
2022年10月に文科省が発表した「全国学生調査(第2回試行実施)」の結果では、学問分野によって学修時間の傾向に大きな差があることが示され、社会の関心を集めた。学修時間に関する大学の情報公表が不十分な中、文科省は2024年度から予定する全国学生調査の本格実施においては、大学単位で結果を公表する考えだ。この調査では学生の成長実感を重視していて、大学による公表が35%と低調なこの情報も、文科省の調査で開示される ことになりそうだ。