2022.1107

「学修者本位の教育」のための具体的課題が明らかに―全国学生調査

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3行でわかるこの記事のポイント

●大学4年生以上(最終学年)も対象に加え、2回目の試行実施
●大学の参加率は5ポイント上昇して72.5%だが、回答率は16ポイント下降して12%
●「課題返却時にフィードバックがないと自分の理解度がわからない」

文部科学省はこのほど、大学と短大で実施した「全国学生調査」の第2回試行版の結果を発表した。「提出物の返却時にコメントがついていない」「ディプロマ・ポリシーに示された知識・能力を理解していない」など、学修者本位の教育への転換を図るうえで、大学が改善すべき具体的な問題が浮かび上がった。2022年11月からの第3回試行実施を経て、2024年度からは大学単位の調査結果公表を前提とした本格実施に移行する。

*図表は文科省の発表資料から
*文科省の発表はこちら
*資料編(第3回試行実施への参加大学一覧を含む)はこちら
*関連記事はこちら(Between情報サイト)
文科省の学生調査、2月末まで実施中-オンライン授業に対する評価も
文科省の学生調査―「外国語力修得に大学教育が役立っている」は30%


●学修成果を聞くため4年生を対象に加え、1~2月に実施

 文部科学省の「全国学生調査」は、中央教育審議会の「グランドデザイン答申」の提言に基づいて実施される。学生の目線を通した学びの実態を把握・公表し、「社会に対して大学の教育力を可視化する」「大学が他大学との比較もふまえて教育改善を図る」「文科省が政策立案のためのデータを得る」ことなどがねらい。大学で受けた授業の状況、大学での経験とその有用性、知識や能力の修得における大学教育の貢献などについて聞く。
 2019年度に実施された初回の試行調査は3年生のみが対象だったが、「学修成果については最終学年で評価を聞くべき」との考えで、今回は2年生と4年生以上(最終学年)を対象にした。卒業時点の評価を把握するため、初回は11月だった調査の時期も2022年1月末~2月末に変えた。今回もインターネットで実施。新たに短大も加え、2年生以上(最終学年)を対象にした。
 2回目の試行実施に参加を希望した大学は、初回の515大学(67.4%)から582校(72.5%)に増え、調査対象となった学生は2年生が約46万6000人、4年生以上(最終学年)が約48万3000人。両学年合わせた回答率は11.8%で、前回の27.3%から大きく低下した。学部学生数の規模ごとに設定された有効回答者数に基づく「基準合致」の大学は328校(56.4%)だった(学部の規模別・分野別の集計は、基準に合致した学部の回答のみを反映)。
 短大で参加を希望したのは157校(全体の49.8%)で、対象となった学生は約2万5000人。回答率は27.6%で、「基準合致」は55校(35.0%)だった。

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  質問項目には、「大学で受けた授業について、該当するもの」「大学での経験の有無とその有用性」「大学教育を通じて身に付いた知識や能力」「大学での学び全体を振り返っての感想」「1週間の生活時間」「授業期間中にキャンパスに通った日数」「オンライン授業の割合」「オンライン授業の良かった点・悪かった点」の8つの大問があり、小問計60問と2問の自由記述で構成される。 

●「授業アンケートで教育が良くなっている」に6割が否定的な回答

 大学の調査結果の一部について説明する。
 「大学で受けた授業で該当するもの」で、「提出物に適切なコメントが付されて返却された」は「なかった」+「あまりなかった」が54%に上った。自由記述でも「フィードバックがなく、どこまで理解できているのか、何が間違っているのかがわからなかった」との意見があった。文科省は「学修者が学修成果を実感できる『学修者本位の教育』の実現という観点からも課題である」とコメントしている。

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  「グループワークやディスカッションの機会」「教員から意見を求められるなど、質疑応答の機会」は「なかった」+「あまりなかった」はいずれも36%で、成長実感を得やすい能動型、双方向型の授業で学んでいるとの受け止め方は6割超にとどまる。

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 「大学での経験の有無とその有用性」で、「経験していない」の割合が高かったのは「3か月以上の海外留学」(95%)、「3か月未満の海外留学」(92%)、「オンライン留学」(91%)、「5日間以上のインターンシップ」(84%)など。成長を促すとされる海外体験や就業体験の機会が少ない、または機会を活用していない状況が浮かび上がった。前回調査における「経験していない」の割合は「3か月以上の海外留学」が89%、「5日間以上のインターンシップ」が70%で、今回の方が割合が高いのはコロナ禍による影響も加わったためと考えられる。

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 「大学での学び全体を振り返っての感想」では、「ディプロマ・ポリシー(DP)に示された知識・能力を理解している」について、「そうは思わない」+「あまりそうは思わない」が32%。DPの理解は自分の学修成果を評価するための前提となるもので、文科省はこの結果について「改善が望まれる」とコメントしている。また、「授業アンケート等の回答を通じて大学教育が良くなっている」について、「そうは思わない」+「あまりそうは思わない」が59%に上る。学生による授業評価は多くの大学で長年にわたり実施されているが、その結果がいまだ教育改善に生かされていない実態がうかがえる。
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 これらのことから、学生を教育の中心に置き、学生が自らの成長を実感できる「学修者本位の教育」への転換を図るため、大学には一層の努力が求められていると言えよう。

●文系の4年生は授業や学習の時間が短く、卒論に費やす時間も理系より短い

 このほか、これからの社会で必須とされるリテラシーが修得されていないことも分かった。「外国語を使う力」「データサイエンスの知識・技能」が、「身に付いていない」+「あまり身に付いていない」と答えた学生はそれぞれ70%、49%に上った。
 1週間の生活時間を全体で見ると、4年生以上(最終学年)は2年生に比べて授業への出席、および授業に関する学習の時間が短い一方、卒業論文等に21 時間以上を費やす学生が3分の1で、31 時間以上も4分の1いた。しかし、学部分野別で見ると、卒業論文等が週に5時間以下が人文33%、社会47%。16時間以上が67%の理学・工学、65%の農学との落差が大きい。「文系の4年生は授業が少なく、予習・復習や課題をこなす時間も短く、卒業論文に費やす時間も理系に比べて短い」という実態が浮かび上がった。 

●本格実施の結果公表では各大学の特色の発信につなげる工夫も

 10月下旬に開かれた「『全国学生調査』に関する有識者会議」では、今回の調査結果について「大学教育の効果はすぐ自覚できるものではないので、『有用でない』という評価は慎重に扱うべき」といった意見が出た。「外国語を使う力」が身に付いていないと答えた学生が多いことについては、「『外国語を使う力』の定義が明確でないことも要因だろう」との指摘がなされた。「次回は、語学力について『論文の読み書き』と『コミュニケーション』に分けて聞いてはどうか」との提案が出る一方、「設問は端的で短い方が答えやすいので、今回と同じ聞き方で直感的に答えてもらう方がいい」との意見も聞かれた。
 最後の試行調査となる3回目は2022年11~12月に実施される予定だ。調査対象は2回目と同じ大学2年生と4年生(最終学年)、および短大の2年生(最終学年)。2回目の回答率が大きく下がった要因は設問の多さと実施時期であるとの分析を検証するため、設問の数を60から2割ほど減らし、初回と同じ時期に実施する。
 3回目の試行調査の結果は2023年夏ごろに公表を予定。文科省は、全3回の試行調査の検証をふまえて実施の頻度や時期、対象学年、質問項目、公表方法等を検討し、2024年度から本格実施に移りたい考えだ。本格実施では、大学・学部単位で調査結果を公表する。その際、ランキングとして利用されないよう、調査結果とあわせて結果に関する取り組みを記載して、各大学の強み・特色の発信につながるよう工夫するという。