4技能・記述式は共通テストではなく個別試験で-有識者会議が提言へ
学生募集・高大接続
2021.0625
学生募集・高大接続
3行でわかるこの記事のポイント
●どちらも「課題克服は容易ではなく」「実現は困難」と結論
●各大学のアドミッション・ポリシーに基づく判断・工夫を求める
●文科省は個別試験での対応を促す情報提供やインセンティブを検討
文部科学省は、大学入試に関する有識者会議が近くとりまとめる提言に基づき、大学入学共通テストにおける英語外部検定試験の活用や記述式問題の導入を断念する見通しとなった。総合的な英語力の評価や記述式の出題は、各大学の個別試験で対応することになり、文科省は情報提供やインセンティブの導入を通して大学の取り組みを促す。提言案が示す今後の方向性について解説する。
*有識者会議の提言案はこちら
*4技能評価等再検討の有識者会議―「入試で教育を変える」に異議
文部科学省は2019年の11 月から12 月にかけて、2021年1月に実施する大学入学共通テストでの英語外部検定試験の活用と記述式問題導入について見送りを発表。新学習指導要領に対応する2025年度入試での活用・導入を視野に、「大学入試のあり方に関する検討会議」(座長:三島良直東京工業大学前学長)を設けて2020年1月から議論を続けてきた。
27回目となる先ごろの会合では、これまでの議論をまとめる提言案が示された。提言案では、大学入学共通テストにおける外部検定の活用と記述式の導入はいずれも、「課題の克服は容易ではなく」「実現は困難であると言わざるを得ない」と結論づけている。入試における総合的な英語力の評価や記述式の出題の重要性自体は認め、各大学がアドミッション・ポリシーに基づいて個別試験で対応するのが望ましいとしている。
検討会議では、共通テストでの外部検定活用と記述式導入の決定までの経緯を振り返り、見送りに至る問題点を整理した。
それらもふまえ提言案では、大学入試に求められる原則として、①当該大学での学修・卒業に必要な能力・適性等の判定、②受験機会・選抜方法における公平性・公正性の確保、③高校教育と大学教育の円滑な接続-などを列挙。共通テストの枠組みの下では、記述式の採点の質に対する懸念、外部検定活用をめぐる地理的・経済的事情等への配慮不足は原則②において、また、外部検定活用に関する実施団体や大学からの情報提供の遅れは原則③において、それぞれ問題があったと指摘している。
いわゆる「英語4技能」について、検討会議は「『読む』『書く』『聞く』『話す』の各技能は別々に育成されるものではなく、相互に関連し合いながら総合的に育成・評価すべきもの」との観点から、「総合的な英語力」と表現している。
大学での総合的な英語力の育成の必要性については、委員の間で意見の相違がたびたび表面化。提言案では「全ての分野、全ての学生に対して同じレベルの総合的な英語力の育成が求められているわけではないとの指摘もある」「他方で、就職先である企業や団体においては、バランスが取れた総合的な英語力が求められ」と、両者に配慮した記述に。そのうえで、総論として「入試で各大学のアドミッション・ポリシーをふまえ、総合的な英語力が評価されることが望ましい」としている。
この前提の下、共通テストの枠組みの下で複数の外部検定を一元的に活用する方式については、「地理的・経済的事情や障害のある受験者への配慮」「目的や内容の異なる試験の成績を比較すること」「民間事業者の関与のあり方」などの面で課題の克服が容易ではなく、「実現は困難」と結論づけた。入試センターによる4技能試験の開発についても、現状では困難との見方だ。
総合的な英語力を入試で評価することの重要性をふまえると、各大学の個別試験で対応すべきであり、「多くの大学にとっては外部検定の活用が現実的な選択肢となる」との見解を示した。その際、対象とする試験や複数を対象とする場合の比較方法については、各大学がアドミッション・ポリシーに基づいて適切に判断すべきだとしている。大学の取り組みを促すため、文科省に対し、外部検定の活用や大学の独自試験の実態を把握し、優れた事例を公表するよう求めている。
50 万人以上が一斉に受験し、短期間で成績を確定する必要がある共通テストへの記述式の導入は、「採点者の確保」「正確な採点」「大学への成績提供時期の厳守」といった課題の克服が容易ではなく、「実現は困難」と結論づけた。
一方で、入試での記述式の出題は重要だと指摘し、個別試験における出題が推奨されるべきだとしている。特に、短期間で多くの受験者の答案を採点する私立大学での出題を促すため、文科省や入試センターが良問や問題作成・採点効率化の工夫の事例について情報提供するなど、支援策の必要性を示した。
総合的な英語力の評価や記述式問題の出題をはじめ、入試と教育の一体的な改革に先導的に取り組む大学に対しては、運営費交付金や私学助成でインセンティブを設けることも提起している。
検討会議では、総合的な英語力の評価や記述式出題にとどまらず、今後の入試のあり方についても議論した。その結論として、入試にかかわる意思決定では「議論の透明性、データやエビデンスの重視、多様な意見聴取」「実現可能性の確認・工程の柔軟な見直し」「高校教育から大学教育までの全体を視野に入れた検討の必要性」などについて留意が必要だとまとめている。
大学入試にかかわる高校・大学関係者による常設の協議体の設置も提起し、5月には「大学入学者選抜協議会」が設置された。文科省高等教育局長が招集する従来の会議では次年度の入試日程や選抜方法を決めていたが、新設の協議会ではそれらに加え、コロナ禍のような緊急事態への対応、将来的な入試日程のあり方など中長期的な課題についても話し合う。
提言案について討議した6月下旬の「大学入試のあり方に関する検討会議」では、「いい学生を獲得するための入試に大学が努力するのは当たり前で、そこに過度なインセンティブを設けて結果的に全体として補助金の生活費部分が削られるのは問題だ。改革の促進は、良い取り組みに関する情報共有をベースにすべきだ」といった意見も出た。
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