DX人材に求められるのは問題発見と解決のための試行錯誤の力
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2021.0112
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3行でわかるこの記事のポイント
●ベネッセコーポレーション・ベネッセi-キャリアが「リスキル」をテーマにセミナー
●ツールでは対応できないプロセスでこそ人材の資質が重要に
●データサイエンスはデジタル時代の新しい教養
ベネッセコーポレーションとベネッセi-キャリアは12月上旬、今後のDX時代を生きる学生が高めておくべき資質について考えるセミナーを開催した。国内外のデジタル産業の動向に詳しい外部講師が、デジタル人材には技術や統計に関する知識以上に問題発見の力と解決のために試行錯誤する力が必要だと指摘。予測不能な変化に対応するために学び続け、新しいスキルを修得する「リスキル」の重要性も強調した。
セミナーのタイトルは「DX 時代に求められる"リスキル"とは ~社会人の最新の学習履歴からこれからの学生が身に付けるべき力を考察する」。第1部「DX 時代を生き抜く学生に求められるリスキルとは」で、「リスキル」とは「今あるスキルを磨き続けながら新しいスキルも身につけること」と定義。「今あるスキルを磨くこと」を指す「スキルアップ」との違いを説明した。
続く第2部では、NTTデータ経営研究所エグゼクティブ・オフィサーの三谷慶一郎氏が「デジタル時代の新しい 教養『データサイエンス』」と題して講演。「今なぜ、データサイエンスが必要なのか」「データサイエンティストに必要な資質とは何か」、業界関係者の意識調査などもまじえて解説した。
三谷氏の講演の概要は以下の通り。
データサイエンスとは、データから新しい価値を引き出し、実社会で役立てるための学問だ。実社会での活用という点がポイントであり、データサイエンスには「分析手法を覚えること」「デジタル技術を理解すること」だけでは十分とは言えない。これら以上に重要なこととは何か。今日はそれをお伝えしたい。
近年、データサイエンスの重要性が増している背景には、日本企業の国際競争力低下がある。IMD国際競争力ランキングで日本は1990年代初頭にトップだったが、2020年は63 か国中34位まで後退している。1989年には世界時価総額ランキングトップ30に日本から21社が名を連ねていたが、2019年はゼロ。スタートアップ企業も育っておらず、企業価値10億ドル以上の未上場企業20社のリスト(2019年)では中国とアメリカの企業が上位を独占し、日本からは1社も入っていない(Cbinsights、GloTechTrends)。
このような低迷の原因は市場の変化にある。個人の好みが分散してメガヒットが生まれにくくなっている状況に、日本企業は対応できていないのだ。産業社会は「技術主導」の時代から「経済性主導」の時代を経て今、「感性主導」の時代になっている。「モノ」から体験や経験などの「コト」へと価値がシフトし、主観的な満足度や心地よさが重視されるようになった。それにもかかわらず日本企業は、いかに効率的に安い商品を作るかというコストパフォーマンス重視の考え方から脱却できていない。
「既存のモノの効率化」から「新しいコトの創造」へというパラダイム変化の中で新しい価値を創造することが企業の課題であり、その中でデジタル技術が強力な武器となる。
デジタル技術によって、新しいビジネスを創出しやすくなっている。従来のITは顧客の目に触れないバックエンドで省力化のために活用されてきたが、近年はより顧客に近いところで新しい付加価値をつくるための活用に変わってきた。その中でカーシェアリングに代表されるシェアリングエコノミーやVR・ARゲーム、Fintechなど、さまざまなデジタルビジネスが生まれている。DXはその延長線上にある。
2020年度に日本情報システムユーザー協会が実施した企業IT動向調査では、コロナ禍をトリガーにして今後、短期的にDXが加速すると回答した企業は全体の61%で、中長期的な加速を予想する企業は75%に上る。実際、すでに大きな変化が起きている。ZoomやTeamsなどオンラインコミュニケーションツールが一気に普及してテレワークが進展し、自動車のオンライン販売やデジタル面接など、コロナ禍を受けたデジタルビジネスが次々と登場している。
その中で、日本企業はやはり遅れをとっている。経済産業省の調査によると日本企業におけるDXは、5段階の成熟度レベルのうち「未着手(レベル0)」から「一部での戦略的実施(レベル2)」が全体の95%を占めているのが現状だ。世界中で急激に普及し始めた食材宅配サービスやオンラインフィットネスなど、さまざまな非接触型サービスは、日本ではまだ普及途上にある。
世界の動きをキャッチアップし、リードに転じるために必要なのは技術力だけではない。
今、注目を集めているデジタル技術は、実はどれも最近の発明品ではない。IoTは20年前に提唱されていたし、VRは1968年に開発された。AIの原理であるディープラーニングの初期型も1957年にはできていた。技術を導入するのは簡単だが、それだけでは本当の効果にはつながらず、企業の優位性も生まれない。
新しい技術はまず、活用の場をつくったり管理方法を確立したりすることが必要で、技術を活用できる人材がいて初めて効果をつくり出すことが可能になる。デジタル技術も、それを使いこなすデータサイエンティストがいなければ何の価値も生まれない。
では、データサイエンティストに必要な資質とは何だろうか。
データサイエンスの3要素のうち「デジタル技術」と「統計的手法」の理解も必要だが、最も重要なのは「実世界への応用」だ。データから得た価値を実世界に応用して社会課題を解決するためには、「解くべき問題を発見する力」と「その解決策を探って試行錯誤する力」が求められる。これらの力によって本質的な差がつくのであり、技術だけでは優位性を獲得できない。
データ分析の基本的なプロセスは下図の通りで、大きく3つの部分に分けることができる。
この中で「実質的なデータ分析」はツールを利用することによって誰がやってもある程度、同じ答えにたどり着くことができる。一方、先に述べた「問題発見」と「問題解決の試行錯誤」は人間の主体性が不可欠なプロセスであり、デジタル人材にはこれらの力が求められる。
そのことを裏付けるデータは、私が監訳に関わった『DX経営戦略』(NTT出版)に収められているデジタル産業関係者等への調査からも挙げることができる。デジタルリーダーが持つべき重要なスキルは「テクノロジーの理解」(18%)よりも「変革的ビジョン」(22%)、「前向きなこと」(20%)が上位に来ている。
また、デジタル環境で成功するために備えるべき資質として、38%の回答者が選んだのが「変化指向型の考え方」で、「テクノロジーの理解」(27%)を上回った。今後、社会の不確実性は増していく。コロナ問題が収束した後も予測不能な環境変化は次々に起こるだろう。IMF幹部が言うように「不確実性の高まりが続いていくことこそが、これからのニューノーマル」なのだ。
デジタルリーダーとして変化に対応していくためには学び直し、リスキルが不可欠であり、スキルと知識を継続的に高めていくための資質が「しなやかマインドセット」だ。「硬直マインドセット」の人が「才能は変化しない。今の自分を有能だと思われたい」「できれば挑戦などしたくない」と考えるのに対し、「しなやかマインドセット」の人は「才能は磨けば伸びる。ひたすら学び続けたい」「新しいことにチャレンジしたい」と常に前向きに考える。
教養(Liberal Arts)とは「自由になるための学び」であり、データサイエンスはまさにデジタル時代の新しい教養だと言える。データサイエンティストには、データの力で解くべき問いを見出す「問題発見」、データの力でよりよい解決策に近づく「解決策の試行錯誤」、データの力で変化を察知し、自らをアップデートしながら自由に思考する「変化への対応」が求められている。
大学ではぜひ、学生にこのような力をつける教育をしていただきたい。「しなやかマインドセット」を獲得し、卒業後も主体的にリスキルに取り組んで生涯、活躍できるような人材を送り出すことが大学に期待されている。
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