私学助成配分ルールの変更③改革総合支援事業 IRをさらに重視
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2020.0114
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3行でわかるこの記事のポイント
●IRは「人材育成」から「専門職としての実働」重視へ
●Society5.0に対応し、データサイエンス教育の評価項目を新設
●ここでも「教育の質」の指標が影響
「教育の質」の指標や私立大学等改革総合支援事業を含む2019年度の私学助成配分ルールが固まり、文部科学省等は各大学から提出された調査票等に基づいて配分調整の作業を進めている。①定員割れによる減額が一般補助と特別補助の両方で強化される、②教学マネジメントの取り組みに関する「教育の質」の評価が一般補助、特別補助の両方に影響を及ぼすなど、「メリハリある配分」という方針の下、大学にとっては補助金獲得に向けて従来以上の努力が必要になりそうだ。配分ルール変更のポイントを3回に分けて解説するシリーズの最終回は私立大学等改革総合支援事業を取り上げ、大学の関心が特に高い「タイプ1 特色ある教育の展開」の内容を見ていく。
*「私学助成配分ルールの変更①一般補助 定員割れによる減額をさらに強化」はこちら
*「私学助成配分ルールの変更②特別補助 経営悪化×定員割れで不交付も」はこちら
2018年度の私立大学等改革総合支援事業は「教育の質的転換」「産業界との連携」「他大学等との広域・分野連携」「グローバル化」「プラットフォーム形成」の5つのタイプで構成されていた。2019年度はこれを「タイプ1 特色ある教育の展開」(175校程度を採択予定)、「タイプ2 特色ある高度な研究の展開」(40校程度)、「タイプ3 地域社会への貢献」(165校程度)、「タイプ4 社会実装の推進」(80校程度)の4つに再編。
一般補助・特別補助の内数として計147億円(前年度から16億円増)が計上されている。タイプ1、3、4は特別補助から1校あたり1000万円程度、タイプ2は2000万円程度の配分が想定されている。
2018年度の「タイプ1 教育の質的転換」は「組織運営の活性化」「教育内容・教育方法」「教職員の質的向上」「高大接続改革」の4カテゴリに分かれていた。
これに対応する2019年度の「タイプ1 特色ある教育の展開」では、2018年度の「組織運営の活性化」「教育内容・教育方法」が統合される形で「教育の質向上」になったほか、政府を挙げての重要課題であるSociety5.0への対応として「データ活用による教育展開とデータ活用人材の育成」、およびグランドデザイン答申を受けた「多様な教育体制と社会との連携」の各カテゴリを新設。「高大接続」のカテゴリはそのまま残った。IRの強化、データサイエンス教育の重視が全体を通してのポイントと言えそうだ。
「タイプ1 特色ある教育の展開」の各カテゴリの具体的な評価項目について、ポイントとその背景を説明する。
① 「教育の質向上」
「IR機能強化」の項目では選択肢として、従来の「IR担当者の研修会への派遣」等に加え「外部研修会の講師としてIR担当者を派遣」が設けられた。実体のないIR部門を置く大学も多いとされる中、高度な専門人材による本格的なIRの取り組みにインセンティブを与えるものだ。
「卒業時アンケート調査」は従来の回収率に加え、結果を公表していることが得点の必須要件となった。私立学校法改正、教学マネジメント指針の策定などを通して情報公表が強化されるのをふまえ、義務化の対象ではなくとも公表が望ましい情報は改革総合支援事業で公表を促そうという考え方だ。
「学修成果に関する産業界との協議体制」の項目は、企業の採用のあり方を大学名重視から学修成果重視へと変えるねらいがある。
②高大接続
「入試の企画・実施へのアドミッション・オフィサーの参画有無」は従来、「専門的な専任職員」に限定していたが今回、教員を追加して「専門的な専任教員または専任職員」としている。
③データ活用による教育展開とデータ活用人材の育成
この新設カテゴリでは「数理・データサイエンス科目を展開しているか」「企業等の実データを分析する実践的な教育をしているか」などが問われる。「数理・データサイエンスと社会とのつながりを教えるためのFDの実施」には、データサイエンス教育の導入が特に文系分野において大きな課題であることを念頭に、どの分野の教員であってもデータサイエンスの重要性を理解すべきだという考え方がある。
「卒業生とその就職先に対するアンケート」も前述の卒業時アンケートと同様、結果を公表していない場合は得点できなくなった。教学マネジメント推進の観点から、アンケート結果を教育改善に反映させる仕組みを構築している場合は得点が高くなる。
ここにもIR人材に関する評価項目がある。2018年度はIR関係の専門的な高等教育プログラムを履修した者の配置について聞いたのに対し、2019年度は「高度な分析を実施し、意思決定に資する提案を行う専門職の配置」と、実際に専門能力を活用しているかどうかを重視する設問になった。
④多様な教育体制と社会との連携
グランドデザイン答申で、時代変化に対応できる多様で柔軟な教育プログラムの構築が提言されたのを受け、「リベラルアーツ教育やSTEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)教育等、学部横断型カリキュラムを編成するための組織の有無」「主専攻・副専攻制度の導入」などの評価項目が設けられた。「実務家教員が教育課程編成等に参画する仕組み」は、社会ニーズに応える実践的な教育を強化するため、単なる授業担当から教育の設計への関与と、実務家教員の役割拡大を促すねらいがある。
改革総合支援事業においても一般補助の「教育の質」の評価が持ち込まれ、2018年度と同様、「教育の質」が0点の大学は申請できない。
今回の見直しについて、大規模大学からは「一部の学部だけではダメで全学的な取り組みを要件とする項目が増え、得点しにくくなった」との声が聞かれる一方、小規模大学の間では「IRの専門人材の確保やデータサイエンス教育の実施など、投資が必要なステップアップを求められている」と対応を困難視する向きがある。
文科省の担当者は「大学改革を促す事業である以上、ハードルは毎年同じというわけにはいかず年々一定程度上げていかざるを得ない。補助金の減額ではなく増額をねらえることを理解し、次年度以降もポジティブな捉え方でチャレンジしてほしい」と話す。大学からの申請はすでに締め切られ、選定結果は1月下旬から2月上旬にかけて公表される予定だ。
3回にわたって見てきたように、2019年度の私学助成の配分においては「教育の質」の影響度が増し、定員割れの影響も一般補助、特別補助を通して二重、三重にのしかかる構造になっている。私立大学等改革総合支援事業では、Society5.0のような新しい政策キーワードが即座に反映される一方、IRのように年々要求レベルを上げながら継続的な取り組みを求めるテーマもある。
このような中で大学が補助金を継続的に確保して経営の安定を図るためには、社会の要請や政策動向にしっかりアンテナを張って一歩先を読みつつ、学生募集、教育の質の維持・向上、情報公表など、より戦略的な改革を進める必要がある。