アセスメントによって学生の特性に応じた支援を強化―東京家政学院大学
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2019.1114
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3行でわかるこの記事のポイント
●肌感覚だけで学生を把握することへの問題意識の高まり
●「GPAや国家試験合格率にプラスできる学修成果のデータが欲しい」
●高校教員にアセスメント結果と「どう伸ばすか」を説明し、共感を獲得
東京家政学院大学は2019年度の全入学者を対象に、汎用的能力を多面的に測定するアセスメントテストを初めて実施した。学科ごと、あるいは個人ごとの学生の特性を肌感覚ではなく客観的なデータで把握し、教育や学生支援の質を向上させることがねらい。高校教員にアセスメントの結果を解説し、自学に合った学生の獲得につなげるという活用法にも手応えを感じている。
東京家政学院大学は千代田三番町キャンパスと町田キャンパスに現代生活学部と人間栄養学部の2学部、全5学科を設置し、約2000人の学生が学んでいる。
知識(Knowledge)、徳性(Virtue)、技術(Art)から成る「KVA精神」を備えた人材の育成に力を注ぐ。KVA精神とは知識と技術を高め、それを正しく活用するために大切な徳性を養うという建学の精神だ。これを実現するため、小規模大学の利点を生かした手厚いサポートをしている。4年間持ち上がりのクラス担任制の下、履修や就職、学生生活全般の相談に応じる。
同大学が2019年度に実施したのはベネッセi-キャリアが提供するアセスメントテスト「GPS‐Academic」だ。導入のきっかけは、入学前教育に関する課題意識だった。人間栄養学部では管理栄養士国家試験の受験資格が取れる。現代生活学部には保育士や幼稚園教諭、小学校教諭等をめざす児童学科、栄養士免許および家庭科と栄養の教員免許が取れる食物学科、1級建築士の受験資格が取れる生活デザイン学科に加え、家庭科教諭や2級建築士、企業への就職など多様な進路が想定される現代家政学科がある。
「国家資格取得や教員採用試験合格を目標にする学科ではその対策に必要な教科学力を伸ばし、幅広い就職先が選択肢となる学科では教科学力以上に学修に向かう姿勢や好奇心を育てたい」。こうした基本的な考えがある中、入学前教育が全学共通のままでいいのか―。千代田三番町キャンパスと町田キャンパス、それぞれの学生支援センター長を務める木村文香准教授と和田美香准教授はそんな疑問を抱いていた。
学科ごとに、入学前に伸ばしておくべき力を考える中で「そもそも、どのような力や特性がある学生が各学科に入学してくるのか、きちんと把握すべきだと気づいた」と木村准教授。学修に向かう姿勢がどの程度身についているのかわからないと、入学前の課題を正しく設定することはできない。「私たち教員はよく『この学科にはコミュニケーション能力の高い学生が多い』『彼女は少し主体性が足りない』といった肌感覚で学生のことを語りがちだ。それが正しいとしても、正しさを裏づけるデータがあるわけではない。それでいいのか?という疑問からアセスメントが必要だと考えるようになった」。
アドミッションセンターもアセスメントの導入を支持した。鈴木博美センター長は「本学は少人数教育に力を入れる面倒見のよい大学として知られている。資格取得の支援にとどまらず、資格をどう活用するのかというその先のキャリアまで見据えた教育をしているという自負もある。ただ、このような教育の成果を証明する指標は現状、GPAや国家試験合格率、就職率などが中心。もっと学修の中身にフォーカスして本学らしさを示すには、アセスメントによるデータが有効だと考えた」と話す。
こうした背景の下、学生支援センターを中心に2018年末からアセスメントの導入に向けた議論を始め、複数のテストを比較検討した。KVA精神の育成など、大学教育の成果を検証するには企業人としてのスキルを測るテストではなく、より汎用的で学生の資質を幅広く把握できるものがいいと考え、思考力に加えて経験や姿勢・態度も測ることができるGPS-Academicに決めた。
2019年4月上旬、入学オリエンテーションで1年生全員を対象にアセスメントを実施した。学内のメールアドレスをまだ配付していない時期だったため、未受検の学生は事務局が個別に呼び出すなどして促し、ほぼ全員が受検した。
実施後は学科ごとの傾向分析を進める一方、学生の個別データを面談等に活用した。担任の教員は年に数回、学生と個別面談を行う。これまで入学直後の面談では学生に関する情報が少ないため、顔合わせ程度で終わることが多かったという。「まだ成績も出ていないので趣味やアルバイト、進路の希望などを聞いて状況を把握するくらいしかできなかった」(木村准教授)。
アセスメントのデータがある2019年度の面談は大きく変わった。何が得意で何が苦手なのか客観的に捉えきれていたため、個別の履修指導まで踏み込むことが可能に。高校までの経験などの項目から友達づくりをはじめとする大学生活への適応力を予見し、リスクを抱える学生を早めにケアすることもできるようになった。
アドミッションセンターも5月に実施した高校教員向けの大学説明会で早速アセスメントデータを活用した。「偏差値だけでなく教育の中身を見て本学を選んでもらうための材料として、アセスメント実施の意図、把握できた学生の強みを今後どのように伸ばしていくか、学生支援センターから説明してもらった」と鈴木センター長。
高校教員に対して「本学には創造的思考力が平均より高く、学力トップ層ではないがコツコツ頑張る学生が多い。このような学生を4年間かけて社会人として通用するレベルまで成長させる仕組みとしてクラス担任制と個人面談、学生の状況・ニーズの把握と指導、質の担保のための担任用マニュアルなどがある」と説明。次年度からは1年次と3年次を対象にアセスメントを実施して教育成果を可視化する考えを伝えたうえで、「コツコツ頑張るが目立たない、埋もれてしまいがちな生徒をぜひ送ってほしい」と呼びかけた。
KVA精神の修得についてもアセスメントと関連づけて説明し、従来以上に納得と共感を得られたという。「入試方式別の分析を通して現行入試の課題も見えてきた。新たに導入する予定の総合型選抜で求める人物像と実際にどんな学生が入学しているかを詳細なデータで示すことができれば高校との相互理解が深まり、安心して生徒を送ってもらえるはずだ。高大の滑らかな接続を実現するうえでアセスメントへの期待は大きい」(鈴木センター長)。
学生支援センター、アドミッションセンターともに、学修成果を可視化するためには1年次に加え3年次にもアセスメントを実施することが必須だと考えている。3年次のデータを就職関係の講座や科目で適性把握、キャリアデザインのために活用することも検討する。「これまでも、社会に出ていく学生を『4年間の努力によってグループワークやプレゼンの力がついた』と励ましていたが、客観的なエビデンスがあればより大きな自信を与えられる」(木村准教授)。
アドミッションセンターでは、高校教員に加え保護者に対してもアセスメントデータに基づく発信をしていく考えだ。2019年のオープンキャンパスでは試行的に、木村、和田両准教授がそれぞれのキャンパスに訪れた保護者に結果を説明した。
初年度は学生支援センターが中心になってアセスメントを実施したが、教職員の人数が少ないため負担が大きい。CBTによる実施なのでセンター以外の教員や上級生が監督を務めることも可能と考えており、無理のない運営体制を検討する予定だ。今後は学内での周知を徹底したうえでより多くの教員を巻き込み、組織的にアセスメントを実施・活用していくことになりそうだ。
*GPS‐Academicの詳しい紹介はこちら
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