2019.0909

梅光学院大学~起死回生のその後<下>改革の成果が新校舎に結実

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3行でわかるこの記事のポイント

●新校舎の目玉は教職協働を体現するフリーアドレスのオフィス兼研究室
●廊下を含むさまざまなスペースにコミュニケーションを生み出す仕掛け
●今後は指定校推薦の枠を絞り一般入試にシフト

「地方小規模大学の起死回生」を果たした梅光学院大学(山口県下関市、入学定員310人)に今春、ユニークな校舎がオープンした。学生募集が安定化したことで建設が実現した「改革の果実」だ。シリーズ後編では、創造的な学びと教職協働のための工夫を凝らした新校舎の概要、さらに今後の改革の構想について紹介する。
「梅光学院大学~起死回生のその後<上>「選ばれる大学」になった背景」
~梅光学院大学の改革に関する過去の記事はこちら~
前編(2015年8月)
後編(2015年9月)
THE世界大学ランキング日本版・留学経験者の割合(短期)1位の梅光学院大の施策


●新校舎のコンセプトは「学びを変え、働き方を変える」

 梅光学院大学開学50年記念事業として建設された「The Learning Station CROSSLIGHT」の運用が2019年春、始まった。学生募集の安定化で財政状況が改善したのを受け、「理想の学びの場」で学生の成長を支援するという新たな一歩を踏み出した。
 全館、内部の壁を取り払ったオープンスペースに教室や学生の居場所、職員のオフィスや教員研究室、カフェテリアが入るこの施設のコンセプトは「学びを変え、働き方を変える。場が人を成長させる」というものだ。多様な交流から新しいアイデアを生み出し、能動的な学び方、働き方を促そうという工夫が随所に見られる。設計段階で教職員、学生によるワークショップを重ね、「一人になれるスペースも欲しい」といった学生の要望も取り入れた。
 2階、ガラス張りのスタジオ風の教室には、「見られる緊張感」によって授業の質を上げるねらいがある。3階の小教室には廊下と隔てる壁がなく、自由な発想による活用を促している。

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 教室の周りにある大小、多数のスペースは、発表の準備やサークル等のミーティング、自習などに加え昼寝やおしゃべり、飲食まで「自覚とマナーの下、用途には一切、制約なし」の学生の居場所だ。パソコン画面を投影する機材設置部分以外、壁面は全てホワイトボード。学生がテスト勉強をしたりくつろいだりする場所は、ファストフード店や仲間の下宿先からこの施設に替わり、キャンパスで過ごす時間が長くなった。

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 1階には教職協働を体現するフリーアドレス制のオフィス兼共同研究室がある。個人研究室は廃止した。目の前を学生が行き交うオープンスペースに教員と職員が同居し、好きな席、その日の協働に都合のいい場所を自由に選ぶ。「毎日、違う席、違う人の隣に座ることで新鮮な気持ちで仕事ができ、コミュニケーションの幅も広がる。学生の成長支援のための新しいアイデア、新しい協働が生まれることを期待している」と樋口紀子学長。
 教員の蔵書は、一人ずつ割り当てられ、名前と顔写真のパネルがある小コーナーにディスプレーしている。学生が自由に借りられる推薦図書や自身の趣味・関心に関連した私物も置き、学生は学部・専攻を超えて教員の専門分野や個性に触れ、交流を深めることができる。

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 人と行き交う機会を増やしてコミュニケーションを生み出せるよう、廊下もあえてジグザグの動線で設計された。

●教員養成課程に留学必修のコースを設けて新たな特色づくり

 学生募集が軌道に乗って就職実績も上がり始め、悲願だった新校舎もできた梅光学院大学。今後、どんな改革を進めるのだろうか。
 学生募集好転の要因となった留学プログラムはさらに充実させる。
 英語コミュニケーション専攻ではこれまで、オーストラリアやフィリピンでの約1カ月間の語学留学に多くの学生が参加していたが、2019年度から2年次に約1年間の留学を必修化した。アジア各地から留学生が集まるマレーシアのINTIインターナショナル大学で、ケンブリッジ大学の教育システムを導入したプログラムを通じて英語4技能を伸ばす。東アジア言語文化専攻でも2年次の留学が必修になっており、中国語は青島大学、韓国語は南ソウル大学校か啓明大学校で半年または1年間、学ぶ。
 2020年度には子ども学部の児童教育専攻を3コース制にし、子ども英語コースでは2年次に半年間のマレーシア留学を必修にする方向で検討している。これまでもフィリピンやオーストラリアでの教育実習プログラムを設けていたが、2020年度から小学校で英語が教科化されることをふまえ、英語を専門とする小学校教員の養成に取り組んで大学の新たな特色を打ち出す。

●建学の理念を反映し、各種留学プログラムにボランティア活動をセット

 一方、「お試し留学」はさらにハードルを下げて背中を押す。これまで全学部・全学年の希望者が参加できるのは4週間のプログラムが中心だったが、「4週間でも長くて不安」という学生向けに2019年度、フィリピン郊外での約10日間のプログラムを新設した。
 マレーシアでのプログラム拡大に力を入れるのは、国際社会の動向を捉えるうえでイスラム文化に触れ、その価値観を理解することが欠かせないという樋口学長の考えからだ。同様に、民族や宗教の多様性を体感してもらうためにインドなどでも積極的に提携校を開拓していく。この夏も学長自らインドの大学を視察。「インドは今後、中国に代わって世界経済をけん引していく。勢いのある国のダイナミズムを学生に見せるため、IT産業の集積地・バンガロールで姉妹校を確保したい」。その次は、アフリカ留学プログラム開設を実現したい考えだ。
 語学研修や異文化交流にとどまらず、現地のスラム街や学校・福祉施設でのボランティア活動を組み込んでいる点が梅光学院大学の留学プログラムの特色だ。そこには「新しい世界を切り拓く能力を、他者のために用いる」という建学の理念が反映されている。樋口学長は「身に付けた力を自分だけでなく誰かのためにという姿勢を留学先でも実践してほしい。他者のためにやっているつもりが、実は自分が何かを得ていることも多い。先進国にありがちな上から目線の価値観を揺さぶるような刺激を受けてきてほしい」と話す。

●充足率110%台維持をめざし、経営の安定化を図る 

 学生募集においては、これまで積極的に拡大してきた学校推薦の枠を絞り、一般入試にシフトしていく方針だ。「センター試験をめざして勉強してきた学生はここぞという時の頑張り方が他の学生と違い、それが就活の結果にも表れる」と教務部の田中紳一部長。国公立大学を不合格になり第2志望で入学した学生でも梅光学院大学で目的意識を持って学び、誇らしく巣立っていることは、満足度の高い教育で不本意入学からの退学を防ぐのに成功している証とも言えそうだ。
 このように入学者の質も上げつつ、入学定員310人のところ、今後も充足率110%台となる350人程度をコンスタントに受け入れ、経営の安定化を図りたい考えだ。

●今後は「本丸」の教育改革に着手

 2019年度から特に力を入れるのが教育改革だ。「これまでは目の前の経営危機脱却のためにまず学生募集に手をつけ、次に就職状況の改善に取り組んできた。今後は大学改革の本丸である教育に手をつけなければ」と樋口学長。学長のリーダーシップを利かせた教学マネジメントの下、教員の個人商店的な授業で構成されているカリキュラムを抜本的に見直す。
 組織として共通のゴールをめざす体系的なカリキュラムを再構築するため、各授業に最適な教授法も大学として考える仕組みを想定しているという。それには職員が教育について教員と対等な知見を持ち、時に教員をリードしながら教職協働を進める必要がある。
 樋口学長はその点についても心配はしていない。「教員が委員会でものごとを決め、職員はそれを遂行するだけというかつての教職の関係はもうない。職員が長を務める各部門の業務に教員がメンバーとして参加する体制が定着し、多くの教員は職員をリスペクトして協働するようになった。主体的、効率的に課題解決に取り組む意識と力量が備わってきた職員が、教育改革も成し遂げてくれるだろう」。
 「学科長も経験したことがない自分にとって青天のへきれきだった」という学長抜擢から7年余り、背水の陣で改革に挑んできた樋口学長も3期目に入った。「就任時、3年で定員を超えられなかったら辞めると宣言したが、実際には定員に1人届かなかった。あれは、慢心するなという神様の戒めだったと思う」。牧師でもある同学長はそう振り返る。「これからもきっと、何をやっても結果が出るまではハラハラドキドキするはず。そんな緊張感を忘れることなく、教職員と同じ方向を見据えてどうやって学生を成長させるか、考え続けたい」。

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