2018.1029

もう逃げられない!学生調査 ①「実施は困難」の壁を突き破る

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3行でわかるこの記事のポイント

●目的を明確にした適切な設計で「使える調査結果」を
●「回答するメリット」の学生との共有が回収率アップのカギ
●「すべて学内で実施」にこだわらない柔軟な対応を

近年の高等教育のキーワードの一つは「教育成果の可視化」だ。そこにエビデンスを提供する手段として、学生調査やアセスメント、さらに卒業生調査の重要性が高まっている。このシリーズでは現役生対象の調査を中心に考えていくが、多くの大学からは依然として「学生調査はすでにやってはいるが、報告書を作って学内で回覧して終わり」「調査結果を活用できない」「学内の事情でなかなか実施に踏み切れない」という声が聞かれる。学修成果に関する情報公表の義務化も予定される中、学生調査の実施はもはや不可避と言っていい。「実施困難」の壁を突き破り、効果的な学生調査を設計・実施するためにはどうすればいいのか、シリーズで考えてみたい。


●「学修時間」「成長実感」等の教育成果の情報公表が義務化へ

 2040年を見据えた高等教育のグランドデザインとなる中央教育審議会大学分科会の将来構想部会の答申が、11月下旬に出る見通しだ。「学修者本位の教育への転換」を掲げる提言の目玉の一つが「学修成果の可視化と情報公表の促進」。教学マネジメントのPDCAを回すために学修成果を把握して課題を洗い出す一方、情報公表によって説明責任もしっかり果たしていこうという考え方だ。
 新たな公表義務化の対象として例示されている教育成果情報の中には、「学修時間」「学生の成長実感・満足度」「学修に対する意欲」など、学生調査を通して把握されるものも多い。文部科学省も自ら学生調査の実施を計画するなど、学生がどの程度意欲的に学修に取り組み、自分の成長をどう捉えているかを知ることは、今後の大学改革に不可欠な要素となっている。
 とはいえ、「それはわかっているが...」という大学も多いのではないだろうか。教学マネジメントを進めるうえで学生調査は重要、しかし自学では実施が難しい...。その背景には何があるのか。 
① 学内のマンパワーが足りない
② 実施しても学生の協力が得られず、回収率が上がらない
③ 調査結果をうまく活用できない
 設計から始まり実施、データの活用という大きな流れで学生調査を捉えると、各プロセスで上の①~③の壁にぶつかることが多い。ただし、実際の問題解決はこれらを③②①という逆の流れで考える必要がある。具体的に見ていこう。

●全学的な告知活動で回収率40~50%が定着した大学も

(1)調査結果をうまく活用できない→なぜなのか?
 これは実は、調査の設計段階のつまずきに原因があることが多い。最初に調査目的を明確にし、その結果を何のためにどう活用するかを想定して設計することが大切だ。進研アド・マーケティングリサーチ部の嶋はる美部長は「例えば、学生の学習実態を広く把握したいのか、特定のカリキュラム改善のためのエビデンスとしたいのかなど、教学がテーマでも 目的に応じて聞くべき内容は異なってくる」と話す。
 目的があいまいで、あれもこれもと欲張って質問項目を詰め込みすぎると回収率が下がり、表面的な分析にとどまって結果が活用できないという事態を招きがちだ。目的を明確にすれば質問項目を厳選できて問い方もよりシャープになり、学生も的確な回答がしやすい。調査結果が仮説通りであっても意外なものになっても、次のアクションに結び付きやすいはずだ。

(2)実施しても学生の協力が得られず、回収率が上がらない→どんな策があるのか?
 この課題については、先行事例の中に解決策のヒントがある。
 國學院大學は2014年度から毎年、「学生リアル調査」と銘打って「授業満足度」「授業・履修に関する不満」「学修による能力変化」など、教学関連の設問を含む全学的な学生調査をネット上で実施している。例年、35問前後で所要回答時間の中央値は12~14分程度だという。
 同大学では、調査を告知する大学ウェブサイトに「回答することで大学が変わり、自分たちにメリットがある」ことをイラスト入りの実例でわかりやすく説明している。

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 さらに、初年度から「約1週間の実施期間中はキャンパス内に横断幕を掲げ、学食のテーブルやラウンジ、トイレなどに告知POPを設置」「教室や廊下にもポスターを掲示」「カウンター業務の職員が窓口を訪れる学生にチラシを配付」「会議体を通じて教員にも協力を要請」など、全学を挙げて回収率アップに取り組んだ。その結果、回収率は毎年40~50%に達してこの調査が大学の文化として定着。今では回収率向上のための特別な働きかけは必要なく、実施期間の告知活動にシフトしているという。
*大学ウェブサイトの学生リアル調査のページはこちら
*初年度の学生リアル調査の紹介記事はこちら

 他の大学でも、履修登録や必修科目の授業、卒業認定者発表など、多くの学生が集まる機会を活用して調査用紙を配り、その場で回答してもらうといった工夫がなされている。調査の趣旨を周知徹底する、実施方法(配付・回収等)を工夫する、優先順位をつけて質問項目を絞り回答の負荷を軽減するなど、回収率アップのための施策が必要だ。

(3)学内のマンパワーが足りない→「学内」にこだわりすぎていないか?
 すべてを学内で完結させようと考えるのではなく、自学の実情やニーズに応じてノウハウと経験を持つ外部の力を活用することも検討してみてはどうだろうか。ここまで述べてきた「目的を明確にした適切な調査設計」「回収率を上げるための工夫」についても、調査を専門とする外部サービスの知見を借りることによって課題解決の可能性が高まるはずだ。
 学内でやるべきことは「現在、大学が抱えている課題が何なのか。その原因としてどんな仮説を持ち、どう改革したいのか」といったことの整理だろう。その仮説を検証するため、外部サービスの担当者との間で情報と方向性をしっかり共有し、協働することが重要だ。

●学生募集広報にもつなげられる戦略的な学生調査を

 学修成果の可視化と情報公表は時代の要請であり、この流れはもはや止められない。学生調査が実績作りのための形式的なものに終わることなく、学修者を中心に据えた真の教学改革につながるよう実質化することが重要だ。
 そして、せっかく時間と労力、お金をかけて実施する調査の結果の情報公表を「説明責任を果たす」という次元にとどめるのはあまりにもったいない。嶋部長は「高校生が自分に合った大学選びをする『MYブランド時代』へと変わりつつある中 、自学の教育の特色と強みをアピールして学生募集につなげる広報活用の視点を盛り込んだ学生調査の設計が重要だ」と話す。
 教学改革によって在学生に成果を還元する一方、受験生にも有益な情報を届けられる戦略的な学生調査が求められている。


*効果的な学生調査について考える本シリーズは次回以降、大学関係者向けのメルマガ「Betweenニュースレター」で配信し、第2回「調査での"問い方"にセオリーあり!」は11月8日に配信済みです。
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