2018.0807

文科省が経営困難大学の指導を強化、「3年間で改善なし」は法人名公表

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

●「運用資産<外部負債」「収入<支出が3年間継続」の指標で対象法人を抽出
●専門家の委員会が集中的な指導・助言を実施
●「改善なし」+「資金ショートのリスク」で募集停止等の判断を促す

文部科学省は経営が悪化傾向にある大学法人等への指導を強化する新たな制度を2019年度からスタートさせることを決め、このほど私立大学・短大を運営する学校法人に具体的な内容を通知した。大学の経営破たん増加が現実味を帯びる中、明確な指標に基づく指導を経て募集停止や大学閉鎖、法人解散といった経営判断を促し、財務状況を公表させるという厳しい対応に踏み出す。


●有識者会議からの「撤退を含む早期の適切な経営判断」の要請に対応

 文部科学省の学校法人に対する経営指導強化の新たな制度の概略は次の通り。

①経営指標に基づいて指導対象の学校法人を抽出する。
②対象の法人に経営改善計画の提出を求め、ヒアリングや助言など集中的な指導を行う。
③3年間で経営改善の実績が上がらず資金ショートのリスク等がある法人に対して、学部の廃止等、経営上の判断を促す。
④ ③の法人は経営改善策を示した財務書類をウェブサイトで公表する。
⑤文科省のウェブサイトでも③の法人名とリンク先をまとめて公表する。
⑥文科省が組織の見直し等について引き続き指導する。

「私立大学等の振興に関する検討会議」の議論のまとめ「中央教育審議会大学分科会・将来構想部会」の中間まとめで、文科省が経営困難な学校法人に対して「踏み込んだ指導・助言を行う」「撤退を含む早期の適切な経営判断を促す」よう求められたことを受け、具体的な仕組みを設けた。

shihyo.png

●2014年度から3年間の決算では20法人程度が指導対象に該当

 2019年度の経営指導の対象となるのは「2018年度単年度決算で『運用資産-外部負債』がマイナス」「経常収支差額が3年続けて赤字」という2つの「経営指導強化指標」の基準にあてはまる学校法人。経営が悪化する傾向にあるが、早急に経営改善に取り組めば回復が可能な目安でもあるという。
 日本私立学校振興・共済事業団も従来、学校法人が経営を自己診断するための指標を示している。文科省の指標は「『運用資産-外部負債』がマイナス」については事業団の指標を踏襲、経常収支差額の赤字については事業団の「3カ年のうち2カ年以上」より長く設定した。2018年7月現在、2014~2016年度の3年間の決算で見ると20法人程度がこれら2つの基準に該当するという。
 法人への指導は、既存の「学校法人運営調査」制度を活用してなされる。この制度では、私学の理事(長)・学長やこれらの経験者、公認会計士、研究者等で構成する委員会が、2014年度までは年間約30、2015年度からは約50の法人を訪問して財務、運営、教学等について調査を実施。定員割れや財務状況の悪化が懸念される大学を中心に、教育に特色がある大学も対象にしている。

●集中的な指導対象の法人は2019年10月に決まる予定

 新たな仕組みに基づき、2019年度の運営調査の対象には前述の経営指標の基準に該当する法人を加える。調査の結果、経営状況が特に厳しいと判断した法人には経営改善計画を提出させて継続的に指導・助言を行う点はこれまでも同様だが、新たな制度では3年間で改善せず資金ショートのリスク等がある場合に経営判断を促し、より踏み込んだ対応をする。
 集中的指導の対象となる法人は例年10月に開催される運営調査委員会で、直近の3年間の決算に基づいて抽出される。大学・学部等の新設、大規模な設備投資など、原因が明確で一時的に経営が悪化している法人は除外する。2016年度までの決算で経営指標の基準に該当している法人のうち、半数は従来の運営調査を経てすでに文科省の継続指導下にあり、新規の運営調査の対象から除外される。ただし、基準に該当する限り集中的指導の対象にはなるという。

●「受験生や学生の保護を重視」

 私学事業団と連携して行う3年間の集中指導の間に経営が改善した法人は指導の対象からはずすこととし、3年後も改善が見られず、支払い不能(資金ショート)や債務超過に陥ったり、大学の閉鎖等に必要な資金が不足したりといったリスクがある場合は「募集停止」「設置校の廃止」「法人解散」などを含む経営上の判断を促す。その上で、対応方策を示した財務諸表や事業報告書を法人のウェブサイトで公表させる。文科省のサイトでも法人名を公表し、各法人のサイトにリンクさせる。「改善」の具体的な目安については2019年度の実施までに検討する。
 文科省の担当者は、法人名公表によって志願者がさらに減り経営再建のチャンスを失うケースが出てくる可能性もゼロではないと認めつつ、「大学の経営破たんによる社会への影響の大きさを考えると、情報公表による受験生や学生の保護を優先せざるを得ない」と話している。


*関連記事はこちら

経済2団体の提言に対し委員からコメント相次ぐ―将来構想部会
地域の国公私立大連携の規制緩和を目的に文科省が新法人制度を提案
2040年の大学進学者数は12万人減の51万人~文科省試算