2018.0509

追手門学院大学~アサーティブ入試の検証から施策の改善・立案へ(上)

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3行でわかるこの記事のポイント

●普遍性のある高大接続システムへの発展に向けた科学的裏付け
●アサーティブプログラムを経た入学者は積極的に学ぶようになる
●「第一志望だった」は入学直後に9割弱、2年次の大学納得度も高い

追手門学院大学はアサーティブプログラムとアサーティブ入試の成果を検証するため、2016年度から2年間、ベネッセ教育総合研究所と共同で実証研究を行った。その結果、この育成型入試による入学者は、入学直後、2年次進級時とも大学に対する納得度や進路に対する意識が高いことが確認できた。検証は学業成績だけではなく、選考のねらい・特性をふまえた多様な指標に基づいてなされた。実証研究は、全学生を対象にした成長支援のための知見を得ることも目的としている。その手法、結果と活用について、2回に分けて紹介する。
*実証研究の報告書はこちら


●「求める学生が入学しているか」「意欲的に学び成長しているか」を追跡

 追手門学院大学のアサーティブプログラムとアサーティブ入試(以下、プログラムと入試をセットで表す場合は「アサーティブ施策」)は2014年度にスタート。2018年度に4期生を迎え、完成年度となった。職員との面談を通して大学で学ぶ意欲を高めるなど、選抜ではなく育成に重点を置く新たな高大接続モデルとして関心を集めるこの施策は、2014年度、文部科学省の「大学教育再生加速プログラム(AP)」に採択されている。
 大学側には当初から、アサーティブプログラムを一部の入試方式にとどまらない普遍性のある高大接続システムに発展させたいという意図があり、そのための科学的・理論的な裏付けを目的に2015年にアサーティブ研究センターを設置した。同センターとベネッセ教育総合研究所による実証研究は、2016年度のアサーティブ入試による入学者(以下、「アサーティブ生」)を対象に実施。入学直後と2年次進級直後、アセスメントテストによって意識や態度、行動、基礎学力などを測り、「大学が求める学生が入学しているか」「入学後に意欲的に学び、成長しているか」を明らかにしようと試みた。

●独自の学習支援システムで学ぶ意欲や基礎学力の向上を促す

 入試の検証の紹介に入る前に、アサーティブ施策の概要について説明しておく。

◇アサーティブプログラム
1. 職員が高校生と個別面談し、将来に対する意識を高め、大学で学ぶ意義に自ら気づくよう促し、何を学ぶか考えさせる。
2. 独自開発したMANABOSS (マナボス)システムで国語と数学の基礎学力向上と学習習慣の定着を支援する。同システム上のバカロレアバトルで他者の意見を尊重しながら自分の意見を述べる力も育成。
3. 個別面談等の結果をアサーティブノートに記録させ、省察を通した成長を促す。

◇アサーティブ入試
 グループディスカッション、個別面接、基礎学力テストを通してアサーティブプログラムの成果を評価する。合格者には社会とのつながりを考えることを主眼にした入学前学習を実施。
  アサーティブ入試に出願するためにはアサーティブプログラムを受講する必要があるが、プログラムは出願意思の有無にかかわらず受講できる。
*詳しくはこちら
*本サイトでの紹介記事はこちら

◇アサーティブ入試募集人員(合格者数)
2015年度 60人(53人)
2016年度 111人(130人)
2017年度 216人(190人)
2018年度 230人(197人)...アサーティブ入試の募集人員は全募集人員(1770人)の13%

●GPAだけでは求める学生像との合致度の評価は不可能

 アサーティブ入試の成果検証では、GPAの他に「大学生基礎力レポート」(ベネッセiキャリアが提供するアセスメントテスト)を活用した。アサーティブ入試で求める「将来について考える意識を持ち、大学で学ぶ意義を理解し、学びたいことが明確になっている」という学生像との合致度は学業成績だけでは評価できず、学びへの意欲や態度、キャリアビジョンを含む多様な指標で学びと成長のプロセスを可視化する必要があると考えたためだ。
 「大学生基礎力レポート」は「基礎学力」「協調的問題解決力」「学びへの意識・取り組み」「進路に対する意識・行動」といったカテゴリーで構成され、大学納得度・志望度等に関するアンケートもある。アサーティブ入試で重視する資質・態度を評価できる質問項目が多いことから採用を決めた。
 大学が求めるタイプの学生であれば、入学後も他の入試方式の学生と比べて学びに対する姿勢がより積極的であるとの仮説の下、2016年度の全入学者を対象に、入学直後に「大学生基礎力レポートⅠ(新入生版)」、2年次進級直後に「大学生基礎力レポートⅡ(在学生版)」を実施した。
 ここでは、1年次と2年次、2回のアセスメントを受けた全1134人のうち、アサーティブ生78人、一般生(一般入試とセンター利用入試による入学者)237人、推薦生(指定校推薦、公募制推薦などによる入学者)796人の3区分を比較する形で紹介する。

●入学時、2年次とも進路の明確度、進路の研究・理解度が高い

1. 大学志望度・納得度
 下の表で示すように、アサーティブ生は「第一志望だった」が入学時点で9割弱と極めて高い。さらに「あなたが通う大学に入学してよかったか」という大学納得度(4段階で答えてもらい、肯定度の高いものから順に4~1点として平均点を算出)の経年変化を見ると、アサーティブ生は他の入試区分に比べて2年次にかけての下がり方がやや大きいが、両学年とも納得度が最も高い。

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2. 進路意識・行動
 進路に対する意識と行動について4段階評価で答える質問項目から「進路の明確度」「自己理解」「進路実現行動」「進路の研究・理解」の4つの因子を抽出、得点化して分析した。アサーティブ生はいずれも他の学生に比べて入学時の平均値が有意に高く、2年次でもその傾向が維持されていた。下図では他との差が大きい「進路の明確度」「進路の研究・理解」(それぞれに関連した質問項目に対する回答を肯定度の高いものから順に4~1点として合計し、項目数で割った得点)を示している。

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3. 協調的問題解決力
 MANABOSSのバカロレアバトルで育成し、グループディスカッションで評価している「多様性を容認する力や関係性を築く力」「課題を設定する力や解決策を立案する力」などを獲得するための行動や経験がどれだけできているか、協調的問題解決力の指標を用いて分析した。
 「多面的な思考」「計画の立案と遂行」「チーム内での役割の遂行」「実行・挑戦」の4つの因子を抽出して分析した結果、いずれについても入学時、2年次ともアサーティブ生の得点が最も高く、特に「チーム内での役割の遂行」「実行・挑戦」の差が大きかった。いずれも2年次に得点が低下しているが、これは「大学生基礎力レポート」における一般的な傾向であり特に問題はないと捉えている。

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●2年次に学力低下が見られるが学習行動は改善、3年次以降を注視

3. 基礎学力
 アサーティブ入試は学力不問の入試ではない。基礎学力の大切さに対する理解、および実際の学力向上をMANABOSSで促している。それが効果をもたらしているか、基礎学力の測定結果(偏差値)で分析した。
 入学時は推薦生とほぼ同水準で、大学の期待通りだという。ただし、2年次には一般生、推薦生と比べて有意に低くなるという課題が明らかになった。

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4.学びへの意識・取り組み
 自習時間と読書冊数にアサーティブ生の特性が強く表れた。
 入学時には高校時代の自習時間、2年次には大学の授業以外の自習時間を聞いた結果、アサーティブ生は高校時代の自習時間は一般生・推薦生に比べて短いが、2年次に大きく増加。2年次にかけて自習時間が急減する一般性との違いが鮮明になった。アサーティブ生は高校時代には学習習慣が十分に身に付いていなかったが、アサーティブプログラムを経て大学に入学した後、積極的に学ぶようになったと言える。
 普段の読書冊数についても、アサーティブ生は入学時から2年次にかけての読書量の伸びが突出。本を読むという学習行動が入学後に大きく改善したことがわかる。
 学習習慣・行動の改善が中長期的には学力の向上につながるのか、3年次以降も継続的に見ていく必要がありそうだ。

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 これらの分析結果をふまえ、追手門学院大学は「入学時に一定の望ましい資質・能力を持つ学生が選抜され、その資質・能力が2年次まで維持されている」と評価。自分の将来に目を向けさせ、大学でやりたいことに自ら気づくよう促す個人面談、基礎学力の定着を図るMANABOSS等、アサーティブ施策が有効に機能していると結論づけた。ただし、入学後の変化に着目すると、学習行動の改善というプラスの成長が見られる一方、基礎学力の相対的地位の低下、大学納得度が入学時より低下するといった課題も浮かび上がった。
 では、これらの課題の要因をどのように捉え、どう対応しようと考えているのか。次回(下)は、検証結果に基づくアサーティブプログラムの改善の方向性、そして全学的な教学支援に向けて検討されている施策を紹介する。