2017.1109

23区規制の有識者会議で23区周辺部での定員抑制を求める意見も

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3行でわかるこの記事のポイント

●23区での抑制によって周辺部での新設や定員増が増えるとの見方
●周辺部について、設置認可手続きや私学助成による抑制が提案された
●専門職大学の例外的扱いには期限付き容認の声も

東京23区の大学の定員抑制をテーマの一つとする内閣官房の有識者会議の議論が、大詰めを迎えようとしている。23区を規制対象とする法整備に加え、その周辺部、さらには一都三県までを視野に入れた規制を求める声も挙がっており、最終的な着地点が注目される。

10月30日の会議の資料はこちら


●12月に最終報告をまとめ、新規立法へ

 内閣官房の「地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議」(座長:坂根正弘コマツ相談役)は、今年2月にスタート。5月の中間報告をはさみ、10月末までに12回の会議を重ねた。2020年度以降の新設や収容定員増に対応するための新規立法の方向性について話し合い、年末に最終報告をまとめる。
  これまでの会議では、「東京の中でも23区だけ定員を抑制することについて、合理的な説明が難しい」「23区だけの規制では地方大学の経営改善への効果が弱い」などとして、23区周辺部でも定員を抑制すべきとの意見が出ている。具体的には「設置認可申請の手続きで抑制の対象とする」「定員超過による私学助成のペナルティを厳しくする」などの提案がなされている。
 背景には、全国の大学生287万のうち、26%にあたる75万人が23区外も含む東京都内の大学に集中している実態があり、23区の境界線で区切った場合、隣接エリアでの定員増が活発化するのではと考えられている。埼玉・千葉・神奈川の3県を含む東京圏での定員超過について、私学助成のペナルティを地方部より厳しくすることが考えられるとの声も挙がった。
 委員の一人・筑波大学の金子元久特命教授は「坂根座長は、今後は地方大学の振興の話に軸足を置きたい意向で、周辺部での規制についてはさほど現実味のある議論にならないのでは」と見る。自身は23区以外での規制には反対の立場を表明しており、その理由として、大学進学者の動きと行政上の区画とは入り組んだ関係にあり、規制の対象とする「周辺部」や「東京圏」の境界線を明確に引くのが困難なことを挙げる。さらに、他府県からの入学者が多い都市部の大学ということであれば、近畿・大阪圏も規制対象になると指摘。教育の質の担保を目的としない形での私学に対する規制を最小限にとどめるため、「今回の抑制措置はあくまで23区を対象とした例外的な措置とすべき」と主張する。

●投資済みの大学による損害賠償リスクの指摘も

 当面の認可申請手続きに対応するため、9月末に文科省が出した告示では、23区内での定員増が例外的に認められるのは、専門学校の定員を活用して専門職大学を新設する場合、および施設整備等の投資を伴う場合で機関決定を行い、公表している場合などとされた。有識者会議ではこれらの例外規定を新しい法律でどう扱うかも議論されている。
 専門職大学は原則として抑制の対象に位置付けられている。「新しい制度でどの程度の数の新設があるか予想できないので、最長5年程度の期限を切って、その間のみ抑制の例外とすべき」という意見がある一方、規制の抜け道になることを危惧する立場から例外的な対応に慎重な委員もいる。
 また、私立大学の学部・学科新設には長期間の準備・検討を要し、理事会決定以前に高額な投資をしている場合も多いとの理由で、「機関決定と対外的公表を例外規定の条件にするのは厳しすぎる」という意見があり、国に対する損害賠償請求が起きる可能性も指摘されている。
 社会人、留学生を定員抑制の対象からはずすことの是非についても検討されている。
 23区内で学部・学科を新設する場合、定員増を伴わないスクラップ・アンド・ビルド方式を求めるという方針に対しては、大学関係の委員が抵抗。私立大学が新たな分野の教育に乗り出す場合、学生納付金以外に確実な原資がないこと、廃止される学部の教員の人件費負担などを理由に挙げている。こうした意見をふまえ会議では、定員増を伴わない学部新設のケーススタディとして、滋賀大学、宇都宮大学などからヒアリングをした。
 23区での定員抑制については、大学関係者を中心に「地方大学の振興にはつながらない」との見方が強い。有識者会議の委員からは「地方大学にとってあまり意味がないと思う」と認めつつ、東京の大学に入りにくくなるというメッセージを発信することへの期待を示す発言も出ている。


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