設置認可申請時の「学生確保の見通し説明」における課題
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2017.1015
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3行でわかるこの記事のポイント
●大学・学部等の新設案件の半数ほどに、学生確保等に関する審査意見が付く
●目立つのは「客観的根拠の乏しさ」
●アンケート結果だけではない重層的な分析が必要
大学や学部・学科の設置認可申請では、学生確保の見通しについて説明を求められる。多くの大学が高校生を対象に入学意向等のアンケート調査を実施し、その結果を基に「定員を充足できる見込み」と説明する書類を提出しているが、客観性の乏しさを指摘されるケースも少なくないようだ。これから設置申請に臨む大学はどんな点に留意すべきなのか、文科省への取材をまじえて考えてみたい。
*文科省が公開している手続き済みの設置認可申請書類はこちら
設置認可申請における学生確保等の見通しの説明は、2012年、当時の田中真紀子文科大臣が大学新設の認可に待ったをかけた後の制度改正によって、明確に義務付けられた。
税金から補助金を出すうえで、また、大学の経営悪化による学生の不利益を未然に防ぐためにも、開設直後から定員割れに陥ることがないよう、大学がどの程度具体的な見通しや手立てを持っているか確認することが目的だ。「入り口」でのニーズに加え、人材需要、すなわち「出口」でのニーズについても合わせて記載することになっている。
設置申請の提出書類に関するマニュアルでは、長期的・安定的に学生を確保できるという見通しを、客観的なデータに基づいて説明するよう求めている。客観的根拠のデータとして、「受験対象者へのアンケート調査」「公的機関等による地域の人口動態調査等の各種統計調査」「当該分野の入学志願動向」「同系統の学部等がある近隣大学の志願動向調査」を例示。募集広報活動の内容も、予定を含めて具体的に記載する。高校生対象のアンケート調査は必須ではないが、自学の既存学部の志願動向を新設学部の定員充足の根拠にできるケース等を除き、ほとんどの大学がアンケート調査を実施している。
アンケート調査では、高校生が新設学部等に対してより具体的なイメージを持って「入学したいかどうか」判断できるよう、学びの内容や特徴のみならず、学費や競合として想定される大学・学部名等も明示することが望ましい。
これらの規定を反映しつつ、具体的な質問項目としては、例えば「希望する進路(国公立大学、私立大学、短大、専門学校、就職)」「興味がある学問系統」「(新設学部の特色を複数項目説明したうえで)各項目についてどの程度興味があるか(段階別評価)」「受験したいか」「入学したいか」といったものが考えられる。調査の実施後は、質問の整合性、回答の矛盾等に注意を払いながら適切に集計する必要がある。
設置審査では申請内容、書類に疑問や問題がある場合、「審査意見」を伝達する。定員確保の見通しに関する審査意見は例年、大学や学部・学科新設案件のほぼ半数、15~20件に付くという。
文科省の担当者によると、特に目立つのが「客観的根拠に乏しい」「内容が不整合で論理的でない」というものだ。例えば、調査対象の高校が従来の入学実績とは大きく異なる偏差値帯やエリアの高校というケース。「大学進学を希望する」と答えた生徒より「(新設予定の)●●学部に入学したい」と答えた生徒の方が数が多いといった整合性のなさなど、データの精査・分析をせずに提出する大学も見受けられるという。
また、アンケート調査の結果だけで「定員●人を充足できる見通し」と結論づけている場合は、「重層的な調査・分析を」という審査意見が付く。地域の18歳人口推計や当該分野の人材ニーズ等、多面的な環境分析を加えた説明が求められるわけだ。当該分野に対するニーズの根拠として、地元の国公立大学のみの志願動向を示した場合なども、調査・分析の妥当性を問われる。
文科省の担当者は「企業の商品開発では、マーケットを多面的に分析したうえで新商品の特色や供給量を決めるはずだが、大学では定員設定ありきの新設計画が多いのでは」と疑問を投げかける。定員との数字合わせのため、調査対象を無理に広げるケースもあると推測される。「求めているのはあくまでも定員確保の『見通し』であって、実際にはふたを開けてみないとわからないことは承知している。調査結果の数字(入学希望者)に加え、どのような募集活動で実際に定員を満たそうと考えているのか、現実的で説得力がある工夫を示してほしい」。
入学実績がない高校を調査対象にすることも、それ自体が否定されるわけではない。新学部で新たに学力上位層を確保するという方針の場合、ベンチマークする大学への志願者が多い高校を一定程度、調査対象に加え、調査を事前広報の機会に位置づけるという戦略も考えられる。そのうえで、新たなマーケットを開拓するための広報プランの説明を加える必要がある。
文科省は設置認可申請の質を高めてもらおうと、2018年度新設分から審査意見を公表している。今後、新設予定がある大学はその内容を確認しておく必要があるだろう。文科省との事務相談の時に検討中のアンケート調査の内容を示す大学もあるようだが、「よほど大きな問題がある場合には軌道修正を促すが、『これでよい』といった判断を示すことはない。大学ごとの考え方に沿った内容や方法を工夫してほしい」と担当者。
学生確保の考え方の説明がずさんだと、新設計画全体の質にまで疑念を持たれかねない。計画段階でマーケットの声を的確に把握し、説得力ある説明でスムーズな認可につなげるような調査の設計が求められる。その調査が「入学者候補」との最初のコミュニケーションであり、学生募集の起点になるという意識で臨む必要がある。
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