2022.1128

サステナビリティを学ぶ新学部・学科<後編>武蔵野大学

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3行でわかるこの記事のポイント

●前身学科のテーマの「環境」に「経済」「社会」を加えて統合的にアプローチ
●「緩やかな2コース制」の下、柔軟な科目選択で主体的に学びを組み立てる
●企業・団体での活動経験豊富な教員陣がプロジェクト中心の教育を展開

「持続可能な社会」の実現が国際社会の課題となり、高校の探究活動でSDGsへの取り組みが活発化する中、大学でも「SDGs」や「サステナビリティ」を掲げる授業やイベント、社会貢献活動が目立つようになった。2023年度には、立命館アジア太平洋大学がサステイナビリティ観光学部を、武蔵野大学が工学部サステナビリティ学科を、それぞれ新設する。「文理融合・分野横断」「学生が個々に学びを組み立てる柔軟なカリキュラム」「理論と実践の統合」など、共通点も多い両大学の改組は、大学の教学改革の課題にも対応したものと言える。それぞれの「サステナビリティ教育」を紹介するシリーズの後編では、武蔵野大学の新学科を取り上げる。

*参考記事(Between情報サイト)
サステナビリティを学ぶ新学部・学科<前編>立命館アジア太平洋大学


●「環境問題の解決には社会・経済の問題解決が不可欠」

 武蔵野大学(東京都江東区)は2023年度、既存の工学部環境システム学科を改組し、サステナビリティ学科を新設する。入学定員はこれまでと同じ70人。 
 新学科では、環境システム学科が扱ってきた「環境」を中心としつつ、「経済」「社会」における問題との統合的解決(同時解決)、すなわち持続可能な社会の実現に取り組む人材を育てる。
 現在は環境システム学科に所属し、サステナビリティ学科長に就任予定の白井信雄教授は「環境問題を解決するためには、人口減少や高齢化、コミュニティの希薄化、都市のスプロール化やスポンジ化等の社会問題、さらに企業の国際競争の激化、地域産業の衰退等の経済問題の同時解決が不可欠になっている」と、改組の背景を説明する。すなわち今回の改組は、前身の学科が取り組んできた人材育成を高度化すると同時に、人材育成の射程を環境問題から社会問題、経済問題まで広げる「拡張×深化」のための改革と捉えることができる。

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 「環境問題の解決という学科のゴールを、持続可能な社会の実現へと発展させる。日本でもSDGsが広く浸透し、『誰一人取り残さない』という社会的包摂や社会開発課題に対する意識が高まり、サステナビリティ学の環境が整った」(白井教授)
 こうしたねらいの下、新学科には、既存の環境システム学科の教員にソーシャルデザイン分野の教員を加え、分野横断的な教育体制を整えた。研究者であると同時に企業や団体等での活動経験が豊富な教員も多い。白井教授自身も民間シンクタンクから大学教員に転じた環境政策、地域づくりの専門家だ。1学年で教員1人あたりの学生数7人という手厚い体制で、成長をサポートする 

●2年次から「ソーシャルデザイン」「環境エンジニアリング」にコース分け

 サステナビリティ学科のカリキュラムを概観する。

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 1年次は全学共通科目でSDGsの基礎、学科の「サステナビリティ基幹科目」でサステナビリティ学の体系を学ぶ。さらに、「資源循環論」「環境エネルギー論」「環境倫理・環境正義」の履修で4年間の学びの基盤をつくる。2年次、3年次の「サステナビリティ基幹科目」では「サステナビリティ思考入門」「環境経済学」「環境福祉学」「環境政策論」「環境保全生態学」「環境地球化学」、さらに「水、食、ライフスタイルのサステナビリティ」を学ぶ。
 「共創する力」を育成するため、主体的・実践的に学ぶプロジェクト型の授業を教育の柱に据える。1年次第2学期から3年次まで必修の「サステナビリティプロジェクト」は、週4コマ400分を設定。学生が主体的にテーマを決めてプロジェクトに取り組む。企業のCO2削減戦略、SDGsや脱炭素を生かす地域活性化、江東区下町の持続可能なまちづくり点検、地域通貨による社会実験、キャンパス前の公園のコミュニティガーデン化、グリーンインフラ(自然環境が有する多様な機能を活用した持続可能で魅力ある地域づくり)の計画、廃材によるものづくり(家具やインテリア)などのテーマが想定されている。

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 全学年対象の「サステナビリティ学社会実践演習」(選択)は、各教員がそれぞれの専門分野の関連企業や機関と連携してデザインするインターンシップ型のプロジェクト。「総合研究」(選択)は学年横断のプロジェクトで、山村留学によるフィールドワーク等を学生主体で企画・実施し、期間や内容に応じて単位が付与される。
 2年次からは、取り組みたいテーマ(担当教員)の選択によって、分野横断的アプローチのソーシャルデザインコースと、工学的アプローチが中心の環境エンジニアリングコースに分かれる。専門科目も「ソーシャルデザインコース」と「環境エンジニアリングコース」で構成されるが、それぞれに必修科目は設けず、めざすキャリアに応じて、所属コース以外の科目も自由に履修できる。3年進級時にコースを移ることも可能な「緩やかなコース制」にする。
 3年次後期から4年次にかけて、それまでの学びをゼミ形式で総括する「サステナビリティ研究」(必修)に取り組む。その成果をまとめる「卒業論文」は選択科目として設ける。
 「探究学習でSDGsに取り組み、SDGsを仕事にしたいと考える高校生の意欲に応える教育を形にした」と白井教授。理論と実践をつなぐカリキュラムを通し、企業や行政のサステナビリティ推進担当者、研究職、脱炭素や資源循環を実現するエンジニア等をめざしてほしいとの考えだ。

●文系科目のみでの受験も可能

 入学定員70人のうち15人を総合型選抜で受け入れる予定だ。「地球環境の重要問題」について考察する小論文、環境・サステナビリティ関連のコンテスト等における実績のエビデンス、長期学外学修の経験に関する報告資料等の中から、いずれかの提出を課して選抜する。
 一般選抜や、大学入学共通テストの得点のみで判定する共通テスト利用選抜では、文系科目のみでの受験が可能な方式も設ける。入学後も、ソーシャルデザインコースであれば、高校で文系を選択した学生でも無理なく学べる内容が中心だという。