2022.1121

サステナビリティを学ぶ新学部・学科<前編>立命館アジア太平洋大学

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3行でわかるこの記事のポイント

●「第2の開学」を掲げ、全学の入学定員は150人の純増
●「世界的に見ても先進的」な学部レベルのサステイナビリティ学を展開
●工学系が主流の中、「観光×サステナビリティ」の文系的なアプローチ

「持続可能な社会」の実現が国際社会の課題となり、高校の探究活動でSDGsへの取り組みが活発化する中、大学でも「SDGs」や「サステナビリティ」を掲げる授業やイベント、社会貢献活動が目立つようになった。2023年度には、立命館アジア太平洋大学がサステイナビリティ観光学部を、武蔵野大学が工学部サステナビリティ学科を、それぞれ新設する。「文理融合・分野横断」「学生が個々に学びを組み立てる柔軟なカリキュラム」「理論と実践の統合」など、共通点も多い両大学の改組は、大学の教学改革の課題にも対応したものと言える。2回に分けて、それぞれの「サステナビリティ教育」を紹介する。前編では立命館アジア太平洋大学の新学部を取り上げる。


●「APUで学んだ人たちが世界を変える」というビジョンを具体化

 2000年の開学から20年余り、102か国・地域の学生が学び、163か国・地域の学生を受け入れてきた(2022年11月現在)、国内屈指の「多文化共生キャンパス」として知られる立命館アジア太平洋大学(大分県別府市)。2023年度、サステイナビリティ観光学部を開設する。
 2030年までの実現をめざす「APU2030ビジョン」では、「APUで学んだ人たちが世界を変える」というビジョンを掲げる。これを具体化すべく、新学部では、資源の枯渇や環境汚染、地域文化の消滅といった地球規模の問題を解決できる人材を育てる。開学以来初となる学部新設の意気込みは、「第2の開学」というコピーからもうかがえる。

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 ●「環境」「社会」「経済」「文化」の4要素を学ぶ複合的アプローチ

 学部長に就任予定の李燕副学長は「サステイナビリティ学は今や世界的な潮流となっているが、その多くは大学院レベルの教育・研究だ」と指摘、APUにおける学部レベルでの展開の先進性を強調する。さらに、「持続可能な社会の実現のために必要な環境、社会、経済、文化の4つの要素のうち、現在のサステイナビリティ学では環境を中心とした工学的な理系アプローチがほとんど。私たちの学部では、これら4つの要素を複合的に学んで文系的なアプローチをする点も大きな特色だ」と話す。
 新しいサステイナビリティ学の構想において、4つの要素と密接に関わり、持続可能性にインパクトを与える「観光」に着目。21世紀最大の産業の一つである「観光」と「サステイナビリティ」の両方を学ぶことによって、現代的な課題、地球規模の問題を解決する力を修得させる教育をデザインした。

●めざすキャリアに沿って各科目群から選択履修

 サステイナビリティ観光学部の入学定員は350人。既存のアジア太平洋学部、国際経営学部の入学定員(2022年度はいずれも660人)からそれぞれ150人と50人を新学部に移し、残り150人は純増となる。 
 専門教育のカリキュラムは「観光学分野」「持続可能な社会分野」「学部共通」の3つのカテゴリを柱とし、それぞれに「環境」「社会」「経済」「文化」の4つの要素を取り入れた9つの科目群(観光学、観光産業、ホスピタリティ産業、環境学、資源マネジメント、国際開発、地域づくり、社会起業、データサイエンスと情報システム)を設ける。

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  学生は、めざすキャリアに沿って各科目群から主体的に選んで履修する。例えば、「国際開発科目群を中心にデータサイエンスと情報システム、観光学等の科目も履修し、国連世界観光機関のプランニングディレクターに」「環境学、地域づくり、観光産業等の科目群を中心に履修して、不動産ディベロッパーのサステナブル地域開発担当者に」といったことが想定されている。
 これら専門科目の一部は1年次から履修できる。履修する科目群に大きな偏りが出ないよう、専門科目の卒業要件62単位のうち、「観光学分野」と「持続可能な社会分野」それぞれから10単位以上の修得を課す。
 卒論をはじめとする研究に不可欠な力の修得のため、「アカデミックスキル科目」の「社会調査法入門」「文献講読Ⅰ・Ⅱ」は必修にする。

●実践力を高める支援として欧州で伝統的農業を学ぶプログラムも

 「理論と実践、両面からのアプローチを通して主体的に学ぶ」という方針の下、実践を支援する「オフキャンパス・プログラム」として、「専門実習」「フィールド・スタディ」「専門インターンシップ」を開設、最低1つへの参加を必修で課す。いずれも、既存学部で実施してきたインターンシップや実習の内容を「観光」「サステナビリティ」の観点でアレンジし、新プログラムも開発する。
 「専門実習」の一つとして、大分銀行の協力の下、県内の自然や文化的資産を活用した観光プログラムの開発に取り組む実習を予定。「フィールド・スタディ」では、イタリア、スペイン、ポルトガルで伝統的農業について学ぶプログラムも検討している。「専門インターンシップ」には、別府市や市民団体が連携して実施する観光案内所での研修(半年以上)などがある。
 理論と実践の統合によって「学問的実務家」を育てるのは、12か国・地域出身の25人の専任教員だ。農村開発とサステナブルツーリズム、都市デザイン、気候変動・循環型社会論など、多様な専門分野とそれぞれの分野における実践経験を強みとする。
 学部新設に合わせて2023年度、全学共通教育のカリキュラムもカテゴリを整理して刷新。共通教養科目の「学部専門入門」の中で、「持続可能な開発入門」「観光学入門」「社会科学のための統計学」などは、サステイナビリティ観光学部の必修科目とする。

●大学独自の探究入試を新学部でも実施

 立命館アジア太平洋大学の入試は全学共通の方式・試験問題で実施され、一般選抜は立命館大学とも共通化されている。新学部もこの入試基盤に参加する。総合型選抜では、自ら課題を設定したうえでその背景と解決策について仮説を立て、検証して結論を導くという探究プロセスを、独自のフォーマットに記入する「世界を変える人材育成入試~ロジカル・フラワー・チャート入試」を実施。
 李副学長は「日本唯一の特別な環境で学べるAPUが、その強みを結集してつくった学部。9つの科目群のどれか一つにでも興味があれば、そこを起点にして可能性を広げ、夢の実現をサポートできる自信がある」と、新しい教育への意気込みを語った。