2022.0805

設置基準改正へ③教職協働の実質化、学修を深める教育課程編成を

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3行でわかるこの記事のポイント

●「学修者本位の教育」の理念の下、各大学の創意工夫を促す
●「週1回の授業で2単位」の慣行に縛られない最適解の検討が可能
●運動場・体育館等、施設・設備の整備に関する規制緩和も

大学設置基準が年内にも改正される。今回は、本サイトですでに取り上げた「基幹教員」「特例制度」以外の改正内容について、まとめて解説する。教員と事務職員による教育研究実施組織の構築に関する改正には、必要に応じた学内規程の見直しもさることながら、実質的な教職協働を阻んでいる意識の改革を促すねらいもある。

設置基準改正へ①「専任教員」は複数大学・学部で兼務可の「基幹教員」に(Between情報サイト)
設置基準改正へ②オンライン授業単位数上限等を緩和する特例制度の創設(Between情報サイト)
大学設置基準を抜本改正し、"学修者本位"への発想転換を促す(Between情報サイト)
*大学設置基準の改正案(6月22日の大学分科会で提示)はこちら
*6月22日の大学分科会で示された全資料はこちら


●「社会に開かれた質保証」という方針を有識者会議で確認

 今回の大学設置基準の改正は、2022年3月に中央教育審議会大学分科会質保証システム部会がまとめた改革案に基づいてなされる。「学修者本位の教育」という理念の下、各大学が社会変化に対応しつつ、創意工夫に基づく多様な教育研究活動を行うための柔軟な仕組みを講じられるようにすることがねらい。同部会では、各大学の情報公表によって「社会に開かれた質保証」を図るという方針に基づき、「客観性の確保」「透明性の向上」「先導性・先進性の確保(柔軟性の向上)」等の観点が強調された。
 その中でも設置基準については、全学的な組織体制の下で教育課程を柱とする教育の効果を最大化するための見直しが図られる。

●教職協働の再構築で教員の働き方改革を促すねらいも

 大学設置基準の具体的な見直しは以下の通り。
1.3つのポリシーに基づく教育の実質化
 現行の設置基準では内部質保証の考え方に基づく教育課程の見直しについて明示されていないため、3つのポリシーに基づいて教育課程を編成し、自己点検・評価、認証評価の結果をふまえた「不断の見直し」をすることを規定する。

2.教員と事務職員による教育研究実施組織の構築
 現在、別々に規定されている教員と事務職員、およびそれぞれの組織に関する規定を一体的に再整理し、教員と事務職員からなる教育研究実施組織を設けることを規定する。「『Organaization』(新たな『組織』)を設けることを求めているのではなく、教職の役割分担、協働のための『System』の整備を求めるもの」だという。
  授業による教育だけでなく、課外活動を含む厚生補導(修学、進路選択、心身の健康等に関する支援)とあわせた総合的な支援によって学生を成長させることが大学の使命であるという考え方に基づく改正だ。現行制度においても、教員と事務職員の別にかかわらず、すべての構成員の役割分担と協働によってこの使命を果たすこと、適切な役割分担と協働の下で事務職員も支援を含む教育に関わり、教員も課外活動を含む厚生補導に関わることを求めているが、今回の改正でその趣旨をより明確にする。
 背景には教員が事務職員を十分に尊重しなかったり、事務職員が授業による教育は自らの業務ではないと見なし広く大学運営に関わろうとしなかったりといった意識の問題がある。今回の改正を機に、各大学で教職協働のあり方について再考してもらおうとの意図だ。
 文科省の担当者は、教員と事務職員双方の意識の問題によって教員が多くの業務を抱え込み、教育・研究という本来の職務に十分な時間をあてられない現状を指摘。「例えば、入試において最終的な合否判定は教員が行うにしても、全てのプロセスを教員が担うことが本当に適切で必須なのか、考える必要がある。各大学で最適な役割分担と協働のバランスを見いだし、教員の働き方改革にもつなげてほしい。すでに実質的な教職協働ができている大学であれば、特段の対応は発生しないはずだ」と話す。

●「授業期間」「単位の計算方法」「チームによる授業」は一体的な検討を

3.授業期間
 現行制度では授業期間の原則として10週(3学期制)と15週(2学期制)」を示し、8週(4学期制)を例外的な扱いのように位置づけている。これを改め、8週、10週、15週を並列で例示したうえで、教育効果向上の観点から各大学の判断によって多様な授業期間を設定できることを明確化する。

4. 単位の計算方法
 1単位の授業科目の標準を「45 時間の学修を必要とする内容で構成」としている現行規定は維持。一方で、1単位に必要な授業時間数について「講義及び演習」と「実験、実習及び実技」に分けて授業方法別に基準を示している規定を廃止し、教育効果を考慮しておおむね15~45 時間の範囲で、各大学が決められるようにする。これにより、講義や演習など、さまざまな授業方法を組み合わせた柔軟な授業科目設定を可能にする。
 また、「試験の上単位を与える」という規定を見直し、レポート等も含めた多様な学修評価方法によって単位を与えることを明確化する。

5. TAやSAを加えたチームによる授業運営
 授業は専任教員が担当することのみが示されている現行の規定を見直し、授業担当教員の指導計画の下でTAやSAも加わりチームで授業を運営できることを明示する。これと同時に質保証の観点から、授業を補助するTA、SA等に対する研修の実施も義務付ける。 
 教学マネジメント指針で求められている科目の大くくり化と精選、学修の実質化の観点から、「3.授業期間」「4. 単位の計算方法」「5. TAやSAを加えたチームによる授業運営」については一体的に検討することが望ましい。学修者本位の教育という理念の下、学生の成長を最大化するためには教育課程をどう編成し、どのような指導体制を敷くべきか考えることが重要だ。
 現在、多くの大学で取り入れられている「週1回の授業で2単位」は慣行的なもので設置基準による縛りではないので、自学にとって本当にそれが最適なのか再考する必要がある。そのうえで講義と演習など、異なる授業方法を組み合わせて週に複数回の授業を設定し、単位数を増やすこともできる。それと同時に4学期制に移行し、短期間で少数の科目を集中的に学ばせることによって学修成果が向上する可能性もある。演習の授業にはTA等も加えてチームで実施する方が手厚い指導ができるという判断もあり得るだろう。 

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<参考>同時履修科目の多さを巡る議論とICUの「集中的に履修させる時間割」(Between情報サイト)

●「修業年限4年」の柔軟な解釈を可能に

6.卒業要件の明確化
 修業年限は「おおむね4年」という期間を指すものであり、「厳密に4年間の在籍」を求めるものではないことを明確にする。
 これにより、例えば、9月入学の学生が6月に卒業して海外大学のサマースクール参加を経て海外の大学院に進学するようなケースは、早期卒業等の特例的な制度を設けなくても可能になる。
 学校教育法の「大学の修業年限は4年とする」との規定は変わらないが、これも、授業科目を4年間にわたって配当することを求める規定だという。 

7.施設・設備の整備
 現行制度上、原則として設けることになっている運動場・体育館を他の厚生補導施設等とまとめて「必要に応じて設ける」と一般化し、規制を緩和する。校地(空地)については教員と学生、または学生同士の交流の場としての役割も明確化。研究室の整備は基幹教員に加え、引き続き現行の「授業を担当しない専任教員」も対象とする。図書館については、紙の図書のみを想定した規定を見直して電子ジャーナル等を念頭に置いた学術情報も整備対象に加え、閲覧室等の整備を求める規定は削除する。
 この改正により、例えば「教育課程上、必要ではない」など、明確な理由を説明できる場合は自前の体育館を設けなくてもよくなる。一方で、厚生補導の観点から学生の健康の維持・増進の支援については別途、考え、説明する必要があるだろう。

●改正案解説の動画資料作成を検討

 文科省は改正案に対するパブリック・コメントの募集をこのほど終了。挙がった意見を集約、検討したうえで大学分科会に改正案を諮り、年内に設置基準を改正する予定だ。各大学での学内規程の見直しなど、大学運営への影響が大きいことをふまえ、正しい理解を促すために改正案について解説する動画を作成し、ウェブサイトで公開することも検討している。
 基幹教員、校舎、研究室の規定については経過措置を設ける。これら以外については、設置審査の対象案件ごとに①2023年度開設分は現行の規定で審査、②2024度開設分は現行または改正後の規定のいずれかを選べる、③2025年度以降の開設分は改正後の規定で審査、となる。