2022.0627

設置基準改正へ②オンライン授業単位数上限等を緩和する特例制度の創設

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

●先導的な教育課程編成を支援しつつ、設置基準の見直しにもつなげる
●内部質保証の体制確立や情報公開などを要件に、申請を受け付け
●一部経過措置を除き、2025年度開設分から新しい設置基準を適用

1991年の大綱化以来とも言うべき大学設置基準の大幅改正が、目前に迫っている。学修者本位の教育実現に向けた改正の「目玉」を解説するシリーズの2回目は、「教育課程等に関する特例制度」を取り上げる。内部質保証体制の確立など、一定の要件を満たした大学が先導的な教育課程をつくろうとする場合、オンライン授業による単位数や校地面積など、設置基準の規定を特例的に緩和して、その取り組みを後押しする。大学設置基準の将来的な見直しにつながり得る実証実験でもあり、多くの大学の注目を集めそうだ。

*記事中の図は文科省の資料から引用。
*大学設置基準の改正案(6月22日の大学分科会で提示)はこちら
*特例制度に関する案はこちら
*6月22日の大学分科会で示された全資料はこちら
設置基準改正へ①「専任教員」は複数大学・学部で兼務可の「基幹教員」に(Between情報サイト)
設置基準改正へ③教職協働の実質化、学修を深める教育課程編成を(Between情報サイト)
大学設置基準を抜本改正し、"学修者本位"への発想転換を促す(Between情報サイト)


●特例対象項目は「自ら開設」の原則、1年間の授業期間など

 「教育課程等に関する特例制度」は、一定の要件を満たした大学が学部等の学位プログラムとして新たな教育課程を編成する場合に、特例的に大学設置基準の規定によらずに実施できる制度だ。
 要件を満たした場合に緩和される設置基準の主な項目は次の通り。申請内容に応じてこれらすべて、または一部が適用される。
(1)「自ら開設」の原則。「卒業要件として単位認定する科目は自ら開設しなければならない」という規定を緩和。他大学が開設した科目を自学の教育課程に組み込み、その履修を卒業要件の単位に算定できる。
(2)1年間の授業期間。大学設置基準の「1年間の授業期間は、定期試験等の期間を含め35週を原則とする」という規定の下、多くの大学が、例えば2学期制の場合は各学期15週の授業期間確保が必須と捉えている。これについて、年間35週と異なる授業期間の設定を認める(ただし、大学の教育課程を4年にわたって配当するという修業年限4年の学校教育法の考え方は維持)。
(3)単位互換による単位数の上限(60 単位)によらないことができる。
(4)オンライン授業による単位数の上限(60 単位)によらないことができる。
(5)大学等連携推進法人における連携開設科⽬の単位数の上限(30単位)によらないことができる。
(6)校地面積基準によらないことができる。
(7)校舎面積基準によらないことができる。
 他に学部等連係課程、共同学科、国際連携学科等の単位や面積に関する規定も特例の対象となる。

●認証評価での適合認定、健全な財務状況も要件

 特例制度の適用を受けるための要件は①内部質保証体制の確立、②教育研究活動に関する積極的な情報公開、③適切で健全な大学運営、④申請対象の教育課程が先導的な取り組みであること、など。
 ①については「教学マネジメント指針」に示された質保証の体制が確立されていることや、直近の認証評価で適合認定を受けていることが求められる。②は同指針をふまえて積極的に情報公表している事実を⽰す書類等が必要。③は5年以内に法令や寄附⾏為等の違反がなく、財政状況が不健全な状況に陥っていないことを意味する。
 ④については特例を使う目的、どの規定で特例を求めるか、なぜそれが必要かといった説明とあわせ、取り組みの確実な実施が⾒込まれることを示す必要がある。教育研究⽔準の向上に資する取り組みと言える根拠や実施予定期間、教育効果検証の計画を説明する。「学⽣への配慮」として、例えば設置基準の上限を超えてオンライン授業を実施する場合、学生と教員、学生同士の交流の機会を確保するための策を講じることも要件となる。 

●⼤学分科会の下に設ける有識者会議が申請内容を審査

 特例制度の適用を希望する大学の学長は、申請において各要件を満たしていることを示し、構想を実現するために大学設置基準のどの項目についてどのような緩和を求めるか、説明する。特例が適用されるのは申請した学部のみで、複数の学部について同時に申請することも可能。
 ⼤学分科会の下に設ける有識者会議で申請内容を審査し、特例として認定するかどうかを決める。必要に応じて認定に条件を付すこともある。

shinsei.png

 認定を受けた大学は文科省に年1回、実施状況を報告する。期間内であっても、円滑で確実な実施が⾒込まれなくなった場合は、有識者会議での審査を経て認定を取り消す。ただし、当該の教育課程で学んでいる学生に不利益が生じないよう、それらの学生の在籍中は実施継続も可能とする。

ninnteigo.png

 先導的な教育課程としては、例えば、首都圏の大学が学生を地方に長期間派遣し、地元の自治体や産業界、市民団体等と協働して地域課題の解決に取り組むPBLなどが考えられる。この場合、PBLの指導や他の科目を現地で受講できるよう、オンライン授業の単位数の上限を引き上げるといった申請が想定される。

●「意欲ある大学が広く活用できる特例制度に」

 特例制度には2つのねらいがある。1つは大学の創意⼯夫に基づく取り組みを促すこと、もう1つは大学設置基準の将来的な見直しにつなげることだ。文科省は、制度を適用する大学のデータに基づき教育効果が高いと判断した取り組みを他大学に広げられるよう、設置基準の見直しを検討する考え。特例制度は大学設置基準改正に向けた実証実験でもある。特例の認定期間を設けたり、成果検証の計画を求めたりするのはそのためだ。
 特例制度について検討した中央教育審議会大学分科会質保証システム部会では、「『特例』とは言っても、一部の大学しか対象にならないようなハードルの高い要件を設けるべきではない」「意欲があり、やるべきことをやっている大学が広く活用できる制度にしてほしい」との声が挙がった。
 文科省の担当者は「授業期間の変更やオンライン授業の活用など、特例制度を使わなくても現行制度でできることも結構あるので、大学にはまずそちらを確認いただきたい」と説明。「そのうえでなお、設置基準が壁になるのであれば、特例制度を活用してほしい。この制度は、教育改革に真面目に取り組んでいる大学であれば、やりたいことを実現する道が開けているというメッセージだ」。

●基幹教員、校舎、研究室については経過措置を設ける方向

 文科省は今後、大学設置基準の改正案を1か月間程度のパブリックコメントにかけたうえで、中教審に諮問する。そこでの了承を経て年内にも設置基準を改正し、経過措置も置きつつ、即、施行する。特例制度については年度内にも有識者会議を設置し、速やかに申請受け付けをスタートさせたい考え。早ければ2023年度にも、特例制度の適用を受けた先導的な学位プログラムが登場しそうだ。
 今回の大学設置基準改正では基幹教員、特例制度のほか、「単位数の算定方法」「校地、校舎等」「卒業要件に定める在籍年数」など、さまざまな変更が予定されている。各大学での学内規定の見直しなど、大学運営への影響が大きいことをふまえ、基幹教員、校舎、研究室の規定については経過措置を設ける方向だ。
 これら以外については、設置審査の対象案件ごとに①2023年度開設分は現行の規定で審査、②2024度開設分は現行または改正後の規定のいずれかを選べる、③2025年度以降の開設分は改正後の規定で審査、となる。