2022.0111

ターム制の下、集約的学修と学外活動で課題解決型人材を育成-千葉大学

ニュース

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

●国際教養学部でモデルプログラムを構築し、全学に展開
●イシューに基づく分野横断のパッケージ科目で体系的な学びを実現
●「講義とアクティブラーニングのセット化」など、集約的学修を実質化

千葉大学は、文部科学省による「知識集約型社会を支える人材育成事業」の2021年度のテーマ「インテンシブ(集約的な)教育」に選定された。「インテンシブ・イシュー教育」を掲げる改革を先導するのは、全学的な教育改革のパイロット学部として2016年度に設置された国際教養学部だ。従来の学問体系に縛られない文理混合型の教育を展開する同学部の現在地と今回の支援事業の下での改革、さらに全学展開の道筋について聞いた。

*大学のウェブサイトでの選定報告はこちら


●国際教養学部設置の背景にあった教養教育に関する問題意識

 千葉大学が「知識集約型社会を支える人材育成事業」で選定されたテーマは、「インテンシブ・イシュー教育プログラムのモデル展開」。課題解決型の集約的な教育プログラムの全学展開をゴールに据え、まずはこのゴールに最も近い位置にいる国際教養学部の教学改革に取り組む。
 国際教養学部は、2014年度に同大学が選定されたスーパーグローバル大学創成支援事業(タイプB「グローバル化牽引型」)の申請書の中で、その設置構想が記された。資格系の学部を中心に専門科目の早期化が進み、教養教育が形骸化するという問題意識の下で文理混合、グローバル化を掲げる。2016年度の設置以来、この学部で成果を上げた取り組みが全学に拡大されるなど、千葉大学の改革をけん引してきた。 

●ディシプリンベースからイシューベースに転換

 千葉大学がめざす「インテンシブ・イシュー教育プログラム」では、学問体系を重視する「ディシプリンベース」の教育から、課題解決力を重視する「イシュー(課題)ベース」の教育への転換を図る。その実現のために、文理混合、分野横断型の学びと学外での多様な活動で教育プログラムを構築する。具体的には次のような手法を取り入れる。
①学外活動を奨励するため、1年間を2か月単位で区切る6ターム制を採用。集中的に学んで知識・技術を修得する「集約ターム」と、留学をはじめとする学外活動を通して学びを深める「ギャップターム」で4年間のカリキュラムを構成する。

term.png
②集約タームについては、科目の特性に応じた授業形態や時間割設定にし、教員の連携による分野横断型の科目・科目群でカリキュラムを構築する。
③学生がこうした仕組みを有効活用できるよう、履修や学外活動について助言する学修支援スタッフを置く。
 開設当初から文理混合による課題解決型教育を掲げる国際教養学部では、①と③がすでに実質化されている。今回の改革では②の実現に向けた教学改革が中心になる。

●自らの専門性をデザインする「テーラーメイド教育」

 国際教養学部の教学改革を説明する前に、現在の状況について説明しておこう(参考)。
 同学部は「世界の課題を日本の力で解決する」というコンセプトの下、留学を必修化。国内外でのインターンシップやボランティア活動も推奨する。これらの学外活動や低学年の履修を通して取り組むべき課題を見つけ、3年次進級時に専門を決める。「国際」「日本」「科学」をキーワードにした人文社会科学、自然科学、生命科学の各分野から科目を選択し、自らの専門性をデザインする「テーラーメイド教育」が特色だ。
 自由度の高いカリキュラムの下での体系的な履修、目的にかなう適切な学外活動とその時期などについて助言する学修支援スタッフ「SULA(Super University Learning Administrator=スーラ)」を複数置いている。

国際教養学部の成果をふまえ、全学で留学を必修化

 短期集中で学ぶ集約タームと学外活動に専念できるギャップタームを区分けする6ターム制は、国際教養学部の設置と同時に全学で導入した。国際教養学部では全ての科目が1タームで完結し、1単位を付与。ギャップタームには必修科目を置かない。1年次には土台となる知識とスキルを修得させるため年間を通して集約タームにし、2年次の第2ターム(6、7月)と第3ターム(8、9月の夏休み)をギャップタームにしている。学生はこの4か月間を留学やインターンシップ、ボランティア活動にあてる。卒業までに、短期のものを含め複数回の学外活動を経験する学生が多く、短期留学を経て協定校に長期留学する学生も増えている。
 卒業生の進路は業種・職種とも多様で、1~2割は大学院に進学。2期生となる今春の卒業生の1人は、他の国立大学の医学部に編入した。教員らは「レイトスペシャライゼーションというリベラルアーツの理念を具現化したロールモデル」と喜ぶ。
 国際教養学部のこのような教育をモデルに、全学的な改革が進展してきた。2020年度には全学で留学を必修化し、多様な研修・留学プログラムを提供している。長期留学する学生が4年間で卒業できるよう、渡航先で必修科目をオンライン受講できる国際教養学部の「スマートラーニングシステム」を全学展開するさなかにコロナ禍が発生。想定外であった全面的なオンライン授業への移行もスムーズになされた。

●SULAの専門職化も課題

 国際教養学部の教育は成果を上げる一方で、「インテンシブ」と「イシューベース」という2つの方針がいずれも実質化の途上にあると、学部長を兼務する小澤弘明教育改革担当副学長は指摘する。「ターム制の下、週1回の授業で1単位という細切れ状態でインテンシブになっていない」。さらに、多様な科目の中からの選択と組み合わせが学生に任され、真にイシューベースの体系的な学修になっているのかという懸念もあるようだ。
 こうした問題意識の下、3年次からの専門教育でいくつかのイシューに関する科目をパッケージ化して開講することが検討されている。例えば、「移民・難民」というイシューについては国際政治学や国際経済学はもとより、移民・難民の健康や子弟教育までカバーする看護学、教育学などの科目もあわせてパッケージ化する。他学部も含む教員の連携によって分野横断型のカリキュラムを進化させ、体系的な学修を可能にする。
 そのうえで、科目の特性に応じて講義とアクティブラーニングを組み合わせて週2回の授業や2コマ連続の授業にして2単位にするなど、「インテンシブ」についても見直す。
 「国際教養学部2.0」と称する2022年度からの改革では、まず「インテンシブ」と「イシューベース」の両面を実質化したモデルプログラムを3年次に導入。これに接続させるため、次のステップではイシューを発見する力を養う1、2年次の演習科目の体系化を図る。
 通常の人事異動の中で学務系の職員が担当してきたSULAの専門職化は、学部開設時からの課題だ。修士号保有者や留学経験者がFD・SD関連の研修を受講したうえでSULAを務めるなど、現在も一定の質が担保されているが、国立大学の人事制度上の制約があり、当初考えていた「教員でも職員でもない第3の職種」という位置付けにはなっていない。自学の教育リソースをはじめ海外大学やインターンシップ先等に関する知識を備え、カウンセリング力に長けた人材を安定的に確保するうえで専門職化が必要だと、小澤副学長は考えている。

●新設される高等教育センターが全学展開を担う

 国際教養学部で教学改善に取り組み、構築されたモデルプログラムは、次のステップとして全学で展開される。各学部の専門分野に応じたイシューの下、新たなパッケージ科目群も開発することになりそうだ。
 現在、学部ごとに異なっているターム制の運用をどこまで標準化するかも検討課題になる。普遍教育(教養教育)では全学的にターム制になっているが、たとえば文学部では2学期制を前提にしたカリキュラムで教職課程の認定を受けていたため、実質的にはターム制になっていなかった。また、国際教養学部が早期の海外体験を重視してギャップタームを2年次に置いているのに対し、低学年からの専門的な知識の修得を重視する理学部や工学部は高学年に置きたいとの意向もある。「インテンシブ・イシュー教育」という共通の目標の下、ある程度柔軟な運用は必要になりそうだ。
 全学の教育や入試、学生支援、キャリア支援、地域連携などを統合する国際未来教育基幹に2022年4月、高等教育センターができる。そこが、国際教養学部のモデルプログラムを基に全学的な「インテンシブ・イシュー教育プログラム」を構築し、運営する役割を担う。小澤副学長は2021年度末で国際教養学部長を退き、高等教育センター長に就任する予定だ。学部長として教学改革構想をまとめた後は引き続き、全学展開に向けた学部間調整等にあたる。かつて、全学の教養教育を所管する普遍教育センター長として6ターム制の導入や3ポリシーの改訂などを取り仕切った手腕をふるう。

●従来の教育観からの脱却をめざし、FD活動で共通認識を形成

 「国際教養学部の新たなプログラムが軌道に乗るまでに2年はかかるだろう。その間、全学でプログラムを企画し、それが本格的に動き出すのは支援事業の最終年の2024年度になるのでは」。小澤副学長はそんなスケジュール感を持っている。
 教員によっては、担当科目ですでに「インテンシブ」と「イシューベース」を独自に実践しているケースもある。その一方で、ディシプリンのみに沿って教えたり、1つの科目を半年かけて教えたりといった従来の教育方法を重視する教員もいる。「FD活動を通して共通認識をつくっていく必要がある」と小澤副学長。
 とは言っても、さほど大きな困難を予想しているわけではない。「教学関係の連絡会等を通して他の国立総合大学の状況もよく知っている。他大学に比べると本学は部局間の壁が低く、全学のグリップが効いていると思う」。

ozawa.png