2021.0408

改革総合支援事業-総合型選抜での学力把握など、入試改革が大きく進展

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3行でわかるこの記事のポイント

●教育改革の「タイプ1」は選定数が絞り込まれ「狭き門」に
●コロナ禍によるオンライン授業でICT活用校が急増
●芝浦工業大学、長崎国際大学など7大学が4タイプ全てで選定

2020年度の私立大学等改革総合支援事業の選定結果がこのほど発表された。全体的な選定状況に加え、大学の関心が特に高い教育改革に関する取り組みの進展度について解説する。
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*記事内の図表はいずれも文科省の公表資料から。


●研究の「タイプ2」は選定率63%

 私立大学等改革総合支援事業は大学、短大、高専が対象で、今回が8年目となる。「タイプ1 『Society5.0』の実現等に向けた特色ある教育の展開」「タイプ2 特色ある高度な研究の展開」「タイプ3 地域社会への貢献」「タイプ4 社会実装の推進」の4タイプについて、各大学が改革への取り組みを点検した。

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 大学は複数のタイプに申請でき、タイプごとに設定された改革の進展度の評価項目について自己評価する。総合得点の高い順に選定され、私立大学等経常費補助の一部が傾斜配分される。
 ここからは四年制大学について見ていく。
 今回、プラットフォーム参加校として申請する「タイプ3 プラットフォーム型」を含め、いずれかのタイプに申請したのは延べ851校(実数441校)で、延べ344校(実数221校)が選定された。実数での選定率は50%で、申請した大学のちょうど半数が私学助成の増額を獲得している。
 例年同様、最も多くの大学が申請したのが教育の質向上に取り組む「タイプ1」だが、各大学で教育改革が徐々に進行してきたため、選定数は前年の131校(選定率34%)から96校(選定率24%)と大きく絞り込まれ、「狭き門」となった。
 一方で、若手研究者育成を含む研究支援強化の一環で、タイプ2とタイプ4の枠は拡大の方針が示されている。タイプ2(研究)の選定数は前年の39校(選定率58%)から49校(選定率63%)に増えた。タイプ4(産学連携)は申請校数が増えなかったため、選定校数は前年の51校(選定率57%)から今回52校(選定率59%)の微増にとどまった。

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 4タイプ全てで選定されたのは東京都市大学、芝浦工業大学、東京電機大学、金沢工業大学、藤田医科大学、福岡工業大学、長崎国際大学の7校だった。

●申請校の6割が入試で「数学」または「情報」を出題

 「タイプ1」の各評価項目の全体的な達成状況について見ていく(大学・短大・高専全体)。
 今回、特に目を引くのが「ICTを活用した双方向型授業や自主学習支援」に取り組む大学の急増で、「両方とも実施」は前年度の340校(申請校の58%)から411校(74%)に。選定校での実施率は96%に上る。コロナ禍を受けたオンライン授業の導入でICT活用が一気に広がった。
 2021年度入試改革への対応で高大接続の取り組みも大きく進展。
 申請時点で、次年度入試において「多面的・総合的な入試」を全学で実施予定と答えたのは2019年度の116校(20%)から248校(45%)に倍増。「特定の科目で記述式問題を出題することを募集要項等で明示」の全学実施は145校(25%)→262校(47%)、「記述式総合問題を出題することの明示」は70校(12%)→108校(19%)だった。「総合型選抜・学校推薦型選抜における基礎学力把握」の全学実施は354校(61%)→473校(85%)。
 今回初めて設けられた項目「文系・理系を問わず『数学』または『情報』を出題することを明示」の全学実施は328校で、申請校全体の59%だった。同じく初登場の「多面的・総合的評価と連動する初年次教育等、能力を伸ばす取り組み(2020年度の入学者が対象)」の全学実施は118校で、申請校全体の21%だった。
 年内入試による入学予定者全員に「入学前の課題」を義務付けているのは402校(69%)→405校(73%)と微増だが、選定校では80%→90%と10ポイント増えた。

●次年度は評価項目の大きな変更はない見通し

 近年の教育改革のキーワードである「学修成果の可視化」のためディプロマサプリメント等を運用しているのは2019年度の125校(21%)から今回は166校(30%)に。
 同じくキーワードの一つ 「データサイエンス科目」を全学必修で開講しているのは109校(19%)→118校(21%)と微増だが、「データサイエンスと社会とのつながりを教えられる教員養成のためのFD実施」は114校(20%)→190校(34%)と大きく増加しており、データサイエンス科目開講に向けた準備が進んでいる段階と言えそうだ。
 今回、初めて評価項目になった「文理・学部横断型カリキュラム」を全学で導入しているのは225校(40%)だった。
 改革総合支援事業ではほとんどの項目は年々、取り組みが進んで実施校が増えるが、「卒業時アンケートを80%以上の回収率で実施し、結果を公表している」大学等は2019度に320校(55%)だったのに対し、今回は270校(49%)に減った。要因の一つとして、コロナ禍によって実施が困難になったことが考えられる。
 一方、「卒業後アンケート」については、「卒業生とその就職先の両方に調査を実施し、結果を教育改善に反映している」大学等が138校(24%)→254校(46%)と大幅に増えた。この状況について、進研アド・マーケティングリサーチ部の嶋はる美部長は「調査を通して教育成果を確認するにあたっては、『社会に出て働く経験をしたうえで、大学での学びを振り返って評価してもらう』という観点が重視されるようになり、在学中の4年生から卒業生へと調査対象がシフトしつつある」と解説する。
 2021年度の改革総合支援事業の予算は4億円減の110億円。評価項目が大きく変わることはない見通しだ。データサイエンス教育に関する主な項目を切り離して単独で評価することが予定され、同事業からはデータサイエンス教育関連の項目の一部、または全てが削られることになっている。


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