2020.0825

他大学の開設科目を「自ら開設」とみなす連携法人制度、スタートへ

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3行でわかるこの記事のポイント

●単位互換制度の活用を阻む「自ら開設」規制への対応
●授業内容や成績評価に関する協議など、緊密な大学間連携が条件
●共同教育課程についても規制緩和の特例措置を適用

大学間の緊密な連携を条件に、他大学が開設する科目を自学で開設したものとみなして単位認定できる連携法人制度がスタートする。単位互換や共同教育課程など、従来の連携制度には制約が多く、「事実上、使えない」と言われてきた問題を解決すべく検討された。文部科学省の案に基づいて制度の概要を紹介する。

*文科省の資料はこちら
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大学連携推進法人の検討開始-科目の共同開設で「自ら設置」の規制緩和


●共同教育課程の「各大学で修得すべき単位」を20単位に引き下げ

 文科省が導入を予定しているのは「大学等連携推進法人」制度。2018年の中央教育審議会グランドザイン答申で提起された「国公私の枠組みを超えた大学間連携推進のための法人」を具体化するものだ。大学がそれぞれの強みとする部分を共有、補完し合って運営を効率化し、選択と集中によって教育・研究の特色化を図ることがねらい。
 一定の要件を満たす大学間連携を文部科学大臣が「大学等連携推進法人」(一般社団法人)として認定。この法人では教育面(単位互換など)、研究面(産学連携事業の共同実施や知的財産の共同管理など)、運営面(FDSDの共同実施や事務の共同実施など)での連携が想定されている。制度の目玉となるのが「教学上の特例措置」の適用だ。
 特例の一つが、大学等連携推進法人内の他の大学が自学と連携して開設する科目(連携開設科目)を「自ら開設した科目」とみなして卒業要件の単位として認定できるというもの。従来、大学設置基準に「卒業要件として単位認定する科目は自ら開設しなければならない」という趣旨の規定があるため、単位互換制度は事実上、活用のメリットが薄い「絵に描いた餅」とされていた。今回の新制度はその解決を図るものだ。
 単位互換制度の活用を阻んできたもう一つの壁、「大学間の距離(学生の移動)」の問題も、新型コロナウィルス対策で一気に進んだオンライン授業の活用によって解消が期待されている。多くの科目開設が必要となる教職課程をはじめ、語学、データサイエンス等の分野で連携開設科目が活用されそうだ。
 もう一つの「教学上の特例措置」が、法人内の大学間で共同教育課程を設ける場合、「それぞれの大学で修得すべき単位数」を「31単位」または「32単位」から「20単位」に引き下げるという規制緩和。これも従来の単位数だと学生にとって負担が大きいため、学部段階の共同教育課程は主に獣医学系のみで他の分野にはほとんど広がらなかった。
 これらの特例措置は、大学等連携推進法人の大学に加え、国公私立それぞれの同一法人内の大学間にも適用される。

●「3つのポリシーに基づく他大学の開設科目の活用」が前提

 大学等連携推進法人として認定されるためには、法人の運営、連携業務に関する「大学等連携推進方針」を策定し、公表する必要がある。教学上の特例措置を活用する場合は、教学面での連携の意義・目的や実施計画もこの方針に盛り込む。
 さらに、連携開設科目に関する特例措置の適用を受けるためには、①その科目が大学等連携推進方針に沿って開設されている、②「科目を開設する大学」と「自学の開設科目とみなす大学」の間で授業の内容や方法、年間の授業計画、学修成果の評価基準などに関する協議の場を設置する―といったことが義務付けられる。連携開設科目を「自ら開設」とみなす側の大学は、これら授業や成績評価に関する情報の公表もしなければならない。
 卒業要件となる単位数のうち、連携開設科目の履修上限は30単位とされている。現行制度では、単位互換など他大学の開設科目による修得が60単位まで認められており、連携開設科目の30単位はこれとは別枠として認められる。
 新制度の案が示された7月中旬の中央教育審議会大学分科会では、制度の趣旨を逸脱し、経費削減等を目的に安易な利用がなされることへの懸念が示された。「卒業要件124単位の大半を他大学の科目の履修で認定できることになり、それで学位の質を保証できるのか」「一見、立派なカリキュラムだが、中身はほとんど他大学の開設科目ということにもなりかねない」といった指摘も出た。
 これに対し文科省は「各大学の3つのポリシーに基づいて他大学の科目を活用することが前提だ。安易な制度利用を防ぐため、授業内容や成績評価に関する情報公表を義務付けている」と説明。連携開設科目の教員審査を緩めず、活用する側の大学の教員定数も減らさないことなどを強調した。 

●パブコメを経て申請受け付けをスタート

 文科省は大学等連携推進法人制度の案について9月中旬までパブリックコメントを募集している。それもふまえて制度の詳細を確定したうえで今年度の認定申請を受け付ける予定で、2021年度にも制度を利用した取り組みが出てきそうだ。
 201912月に「一般社団法人 大学アライアンスやまなし」を設立した国立の山梨大学と山梨県立大学は大学等連携推進法人の認定に向けて準備を進めている。文科省によると他にも、教職課程を持つ大学間での法人設立が検討されているという。