2019.1203

法学部+法科大学院5年一貫の法曹養成で文科省が連携の申請受け付け

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3行でわかるこの記事のポイント

●司法試験制度の改正とセットで、法曹になるまでの最短期間が2年短縮
●初年度は少なくとも29大学の法学部が法曹コース設置を検討
●「法曹コース出身者の司法試験合格率の目標値は60%」とする法科大学院も

法学部と法科大学院の連携を軸とする2020年度からの新たな法曹養成制度について、文部科学省による連携協定の認定申請受け付けがスタートしている。法学部に「法曹コース」を設け、学部3年間+法科大学院2年間の5年一貫教育によって司法試験合格率を上げ、法科大学院進学者を増やすことがねらい。初年度、少なくとも29大学が法曹コースの開設を検討している。法曹志望者が減少し、予備試験経由の司法試験合格者が年々増加して法科大学院制度の根幹が揺らぐ中、現状の打開につながるか注目される。
*文科省の公表資料はこちら
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●2023年度から法科大学院在学中の司法試験受験が可能に

 法学部と法科大学院の連携に関する新制度は、法学部の早期卒業を前提に法曹になるまでの時間的・経済的負担を軽減し、法科大学院進学のインセンティブを高めようというもの。
 法学部に法曹コースを設置、自学や他大学の法科大学院との連携による段階的・体系的教育課程で法科大学院未修者コースの1年次の内容を学部3年間で学ばせ、既修者コース(2年制)への円滑な接続を図る。法科大学院は法曹コース修了者には筆記試験を課さず、学部の成績と面接を中心とする特別選抜で受け入れることも可能。法学部にとっては法曹志望の優秀な受験生の確保、法科大学院にとっては入学者確保の安定化が期待されている。
 背景には、法曹志望者の減少に加え、法科大学院修了者の司法試験合格率低迷と志願者減少、相次ぐ募集停止という厳しい現状がある。法科大学院を経由せず予備試験から司法試験合格をめざす者が増える現状に、関係者の間で危機感が高まっている。
 2023年度からは法科大学院在学中でも、修了予定と認定されれば司法試験を受験できるようになる。これによって、学部入学から司法修習を経て法曹になるまでの最短期間が現在の8年から6年に短縮される。

●ほとんどの大学が2年次での法曹コース選択を予定

 法科大学院を設置している大学と以前設置していた計74校のうち法学系課程の学部を持つ72校を対象に文科省が実施した調査によると、9月時点で47校が法曹コースの設置を検討。そのうち少なくとも29校は2020年度の設置をめざしており、法曹コース選択時期は26校が2年次、2校が1年次とする方向で検討している。

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 連携予定の法学部と法科大学院は、法曹コースの教育課程編成や法科大学院の選抜方法に関する協定を結び、文科大臣の認定を受ける。すでに11月申請分の受け付けが終わり、2019年度は12月と1月にも受け付ける。
 ある法科大学院の担当者は文科省への事前相談をふまえ、「法曹コース出身の学生・修了者の司法試験合格率の目標値は60%程度に設定すべきと認識している」と説明。飛び入学や早期卒業を経た既修者コース修了者の1年目の合格率56.5%(2005~2017年度の平均)を上回るレベルという想定だ。2019年度、予備試験経由の合格率81.8%という数字も念頭にある。

●明治学院大学は進学実績を重ねてきた早稲田大学法科大学院と連携

 制度初年度の2020年度、法学部法律学科に法曹コースの設置を目ざす明治学院大学はこのほど、早稲田大学法科大学院との法曹養成連携協定締結を正式に発表、早稲田大学側から文科省への申請準備を進めている。
 明治学院大学は法律学科1学年の定員200人のうち30人程度を法曹コースとし、2年次進級時に振り分けを行う予定だ。厳格な成績評価の下で半数が修了し、その中から数人を特別選抜で早稲田大学法科大学院に送ることをめざす。修了者全員の進学を実現すべく慶應義塾大学、中央大学、明治大学、千葉大学、首都大学東京の各法科大学院とも連携の調整を進めている。
 同大学は2013年度に法科大学院の学生募集を停止。早稲田大学法科大学院にはこれまでも早期卒業生を含めほぼ毎年、進学者がいるという。今尾真法学部長は「法曹コースの制度化によってこれまでの事実上の進学ルートが、より明確でわかりやすいものになる」と説明。法曹コースでは六法+行政法などの講義・演習科目を事実上必修化して修了要件を厳しくしたうえで、成績上位者が早稲田大学法科大学院の特別選抜を受験することを想定している。
 早稲田大学法科大学院は新潟大学、熊本大学、立教大学、西南学院大学等の各法学部とも連携を予定している。

●創価大学は既存の学内連携プログラムを法曹コースに

 一方、各法科大学院は自学の法学部との接続強化も進めている。創価大学は法学部の優秀な学生を選抜して法科大学院に送る「グローバル・ロイヤーズ・プログラム(GLP)」(2014年度開設)を2020年度から法曹コースとして開設する。早期卒業を前提にカリキュラムを改訂するが、4年間で卒業する従来型も残す方向だ。担当者は「早期卒業の要件をかなり厳しくしているため現在でも適用者は少なく、法曹コースでそれがどの程度の人数規模になるかまだ読めない。実際には4年間での卒業が多くなる可能性もある」と話す。
 法科大学院制度の実質化については、予備試験という「迂回ルート」を廃止しない限り、本質的な解決にはならないという声が大学関係者の間で根強い。文科省は「まずは、法科大学院でしっかり学べば法曹への道が開けるという予見可能性を高められるよう、改革を進めたい」と話す。
 ある法科大学院の職員は「早期卒業で進学できるほど優秀な学生なら最初から予備試験をめざすのでは、という懸念もぬぐえない。とは言っても、制度ができたからにはその中で司法試験合格率を上げる努力をするしかない」と話している。