2019.1126

教学マネジメント指針、完成へ―学修成果の可視化と情報公表が柱

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3行でわかるこの記事のポイント

●大学の実情に応じた主体的実践を尊重し、拘束力は持たせない
●科目成績に加え学生の成長実感等、さまざまな情報で多元的にDP達成度を可視化
●学生がエビデンスにもとづき自ら学修成果を説明することも想定

文部科学省の有識者会議による教学マネジメントの指針作りが大詰めを迎えている。大学の最重要課題となっている学修成果の可視化と情報公表を中心に、必要とされる取り組みや留意点をわかりやすく示すものだ。法的拘束力はないが、教育改善のPDCAサイクル確立による教育の質保証を求められているすべての大学にとって、チェックしておくことが欠かせない指針と言える。

*教学マネジメント指針(案)はこちら
*指針案を含む第11回教学マネジメン特別委員会の資料はこちら


●文科省が事例集の作成も予定

 教学マネジメント指針の内容について検討している中央教育審議会大学分科会の教学マネジメント特別委員会(座長・日比谷潤子国際基督教大学学長)は2018年12月から2019年11月までに11回開かれ、12月の会合が最後になる予定。指針を通して、学修者本位の視点から「ディプロマ・ポリシー(DP)」「カリキュラム・ポリシー(CP)」「アドミッション・ポリシー(AP)」に基づいて、教育の内容と手法を継続的に見直すPDCAサイクルの確立を支援する。学外からの評価に基づき教育改善を適切に進めるための取り組みとして情報公表を重視、公表する意義がある情報についても整理している。
 11月下旬現在、特別委は、文科省が作成した指針のたたき台をもとに議論する最終段階に入っている。大学分科会での承認を経て年明けに指針が公表される見通しで、文科省は4月以降、指針をベースにした事例集も大学に提供したい考えだ。
 教学マネジメントは各大学の主体的な判断の下、それぞれの実情に合わせて創意工夫しながら取り組むべきだというのが特別委の基本的な考え方。それぞれの手法で教育改善に取り組んで成果をあげている大学を一律の枠にはめるべきではないということが繰り返し確認され、指針の内容を大学に義務づけることはせず、そのまま従うマニュアルとしての位置付けもしない。これから教育改善に着手する大学、取り組んでいるが十分な成果に結びついていない大学、手法をブラッシュアップしたい大学などが参照し、必要な部分を自学の状況に合わせてカスタマイズして取り入れるという活用を想定している。
 教学情報の公表義務化等については、大学設置基準や認証評価制度の見直しをテーマとして近くスタートする質保証部会で議論される予定だ。
 現時点での指針案から、大学にとって特に関心が高い学修成果の可視化と情報公表に関する部分の概要を見ていく。細かい修正は残されているが内容はほぼ固まっており、現時点でも各大学が取り組みの参考にすることが可能だ。

●可視化の限界、困難さについての言及も

 指針案では、大学側から見た教育の成果を「教育成果」、学生にとっての学びの成果を「学修成果」と使い分け、文脈によってはこれらを並記している。
 学修成果・教育成果の可視化とは、DPに定めた学修目標の達成状況を明らかにすることだという基本的な考え方について繰り返し言及。その主な目的は①学生が身につけた資質・能力を自覚し、エビデンスを示しながら他者に説明できるようにすること、②大学がDPそのものの見直しを含む教育改善につなげること、としている。また、大学教育が社会からの信頼と支援を得て、その評価を通じて教育の質を向上させるうえで教育成果の情報を公表することの重要性も強調。これらを実現するために、授業をはじめとする学生のさまざまな活動の成果が、DPで定めた資質・能力の獲得にどのように寄与しているかを明らかにするというわけだ。
 指針案で注目されるのは、全ての学修成果・教育成果を可視化するのは不可能であること、可視化するための情報として標準化されたものはなく、その仕組みの構築には時間がかかることなど、可視化の限界や難しさに触れている点だ。それぞれの現場で試行錯誤しながら実際に可視化に取り組んでいる委員、多くの大学の実践を見てきた委員らによるこうした見解には、大学が可視化の「正解」を求めて迷路にはまるのを防ぐ意図がうかがえる。各大学が限界と難しさを理解したうえで、自学にとって必要な情報を主体的に設定・開発するよう助言している。

●信頼される成績評価が可視化の前提

 指針案では、成績評価の信頼性確保は教育の質保証の根幹であり、学修成果・教育成果の可視化の前提になると指摘。信頼獲得のため、成績評価に関する全学的な基準、およびその基準と授業科目ごとの到達目標の達成水準との関係を明確にして公表することが大切だとしている。 
 実際の成績評価においては、科目ごとに「何を学び、身に付けることができるのか」という到達目標の下での達成水準を可能な限り客観的に示し、点数や評語に落とし込むことを提起。例として、到達目標を「~することができる」というCAN-DO形式にしている場合、達成水準は「最低限できるようになった」「到達目標を大きく超えてできるようになった」という具合に、達成レベルの違いが明瞭な評語にすることを示した。
 教学マネジメントのPDCAの中で、成績評価の分析結果は教学改善にどう結びつけることができるのか。指針案では「到達目標を大きく上回る学生が多い科目は到達目標の水準を上げて授業内容を高度化する」「到達目標に達しない学生が多い科目は到達目標を変えずに理解が深まるような授業内容にする」といった例示をしている。

●「公表意義がある情報」として学生の成長実感、中退率等を例示

 指針案では科目ごとの成績評価を示すだけでは学修成果の可視化としては不十分だとし、さまざまな情報を組み合わせて多元的にDPの達成状況を明らかにする必要性について説明。わかりやすい整理の仕方として、下図のように、資質・能力の修得状況を直接的に評価できる情報と資質・能力のエビデンスとして用いる情報のセットを、DPの各項目にひも付ける方法を例示している。

kyogaku.png

 この図で示している学修成果・教育成果に関するさまざまな情報は次のように分類される。
(1)大学の教育活動に伴う基本的な情報で、全大学で収集可能と考えられるものの例
授業科目における到達目標の達成状況、学位の取得状況、学生の成長実感・満足度、学修時間、進学率・就職率、修業年限期間内に卒業する学生の割合、留年率・中退率
(2)教学マネジメントのため各大学の判断の下での収集が想定される情報の例
卒業論文・卒業研究の水準、アセスメントテストの結果、語学力検定等の学外試験のスコア、資格取得や受賞・表彰歴等、卒業生に対する評価、卒業生からの評価
 これらはあくまで例示であり、各大学がこれらを参考にしながら必要な情報を主体的に判断すべきだとしている。これら学修成果・教育成果に関する情報は学内での活用に加え、「公表する意義がある情報」の例としても示されている。これらに加え、「学修成果・教育成果を保証する条件に関する情報」の公表対象例として「入学者選抜の状況」「教員一人あたりの学生数」「CAP制の状況」「GPAの活用状況」「ナンバリングの実施状況」なども挙げられている。
 学修成果・教育成果の可視化にあたっては、「教育改善のための意思決定ができるよう、収集した情報を適切に加工・分析したり、他の情報と統合したりする」ことが必要だとしている。また、学生本位の教育という観点から、蓄積した情報を学生にフィードバックし、資質・能力の修得状況や履修の方向性等について話し合うことを提案。学生が自分の学修のエビデンスとなるさまざまな情報を体系的に蓄積して他者に示せるよう、大学として学修ポートフォリオを運用し、学生の同意のもとでそこから企業等に情報を提供するという可視化の手法にも触れている。

●今後、現場の視点を反映して指針がブラッシュアップされる可能性も

 以上、現時点での「教学マネジメント指針」案の中から、学修成果・教育成果の可視化、情報公表に関する部分の概略を見てきた。拘束力のない指針ではあるが、学修者本位の視点に立った教学改善のPDCAの確立は、全ての大学に共通して求められている。これから着手する大学にとって指針が参考になるのはもちろん、すでに取り組みを進めている大学にとっても、教学マネジメントの方向性を再確認し、自学の手法の良さと課題を相対的に捉え直すうえでもこれを読み込む意義は大きいはずだ。
 今後、多くの大学に参照され、多様な実践に基づくフィードバックがなされれば、よりしっかりと現場に根差した指針へとブラッシュアップされていくことも期待できる。