2019.0628

桜美林大学 CBTのアセスメントで"熱いうちに鉄を打つ"動機付け

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3行でわかるこの記事のポイント

●1年生対象のフォローアップガイダンスを4月10日までに完了
●強みと弱みを認識したうえで取り組むべき課題を考えさせる
●中退ハイリスク学生への対応も視野

桜美林大学は2019年度、学生の汎用的能力を多面的に測定するアセスメントテスト・GPS‐Academicを導入し、1、2年生約4700人全員を対象に実施した。実施から1週間前後で学生に対するフォローアップガイダンスを完了。大学生活に対する意欲や期待が高まっているうちに自分の強みと弱み、4年間で取り組むべき課題を認識してもらった。学生自身による活用を起点に、入り口から出口までのトータルな改革にアセスメントを生かそうという取り組みを紹介する。


●7年間実施した紙ベースのアセスメントからCBTに移行

 GPS‐Academicはベネッセi-キャリアが提供するアセスメントテスト。桜美林大学は2012年度から2018年度までの7年間、同じくベネッセi-キャリアが紙ベースで提供する大学生基礎力レポートを1、2年次に実施していた。CBTのGPSに切り替えた今年度、1年生には入学後のオリエンテーションの1コマでテストの概略と受検の意義を説明。1週間程度の期限を設けて各自、大学か自宅のパソコンを使って受検するよう指示した。期限を過ぎても受検しない学生にはメールで受検を促した。
 学生は受検直後に結果を確認でき、結果の見方や活用の仕方を説明する学群ごとのフォローアップガイダンスも4月10日までに終了。学生は入学の10日後には自分の強みと弱みを把握し、成長のために取り組むべき課題を認識することができたわけだ。2年生もほぼ同じ時期に同様のスピードで進めた。
 アセスメントを担当するIR・アーカイブスセンターの鳥居聖部長は「従来の紙ベースでの実施に比べると結果のフィードバックまでの期間が飛躍的に短縮され、学生による結果の実質的な活用が期待できるようになった」と話す。

●大学での学びを通して育成される思考力を評価する点に共感

 2018年度までは、1年次はオリエンテーションの1コマとしてアセスメントを一斉に実施していた。そのため受検率こそ約99%と高かったが、学生に結果が返却されるのは3週間後。大型連休の前に開いていたフォローアップガイダンスへの参加者は少なく、3年前まで70人規模の小教室で間に合ったという。その後の2年間は数こそ増えたものの学生への響き方は今ひとつで、フォローアップガイダンスはなかなか活性化しなかった。「参加者が増えたのは恐らく、言われたことはやるという真面目な学生が増えたためで、積極的に来ているわけではない。受検からそれだけ時間がたつと関心が薄れてしまうのも致し方ない」と鳥居部長。
 一方、大学側では学長や学群長にアセスメントの結果が報告されたが、教職員の間でデータの積極的な活用はされなかった。
 こうした状況を打開しようと、鳥居部長が主導してCBTへの切り替えがなされた。「鉄は熱いうちに打てと言うように、入学後の新鮮な気持ちが持続しているうちでないと学びへの動機付けは難しい」。
 複数のアセスメントを比較検討した結果、職業適性検査的な内容ではなく、大学での学びを通して育成される思考力等、社会で求められる汎用的能力を多面的に測定するという特長に共感してGPSを選んだ。批判的思考力、創造的思考力、協働的思考力という3つの能力と問題解決に向かう姿勢・態度との掛け合わせ、主観的評価と客観的評価との掛け合わせによって学生を多面的に捉えられる点もポイントになったという。GPSと基礎力レポートは共通する設問が多いため、経年比較に過去7年分のデータも生かすことができる。
 一斉実施ではなくなったために受検率はやや低下したものの、全国平均に比べると依然、極めて高い。1年生のフォローアップガイダンスには前年の3倍以上の約1800人が参加。学生生活で力を入れるべき課題を考えるワークにも積極的に取り組む姿が目立ったという。 

●教員によるアセスメントデータ活用に向けたSDの実施が決定

 学生の活用に期待を抱く鳥居部長が次のステップとして考えているのが、教員による活用だ。「アセスメントから様々な情報が得られるとは言え、捉えられるのはあくまでも学生の一側面。生身の学生と日々、接している教員がそれぞれの学生理解と合わせてデータを見ることによって指導や支援の質を上げることができる」。使ってもらうにはアセスメントに対して納得感を持つことが大事だと考え、学群長らを対象に詳細な分析結果に基づく報告会を開くという。2020年度のSDにGPSの説明を組み込むことも決まっている。
 学生支援において特に期待されているのが、中退ハイリスク学生の抽出とケアだ。「退学届を出す時になって問題を抱えていたことを知っても手遅れで、不本意入学であることを入学直後から我々がしっかり把握しておく必要がある。例えば、アセスメントでわかった強みを自覚させ、そこをさらに伸ばそうと働きかける教員とのコミュニケーションを通してこの大学で学ぶ意義を見出してもらう。縁あって桜美林大学に入学した以上、できる限り有意義な学生生活を送り、この大学から社会へと巣立ってほしい」。

●アセスメントをキャリア支援にも活用

 鳥居部長には、アセスメントのデータを大学の入り口から出口までのトータルな改革に生かしたいという構想がある。
 入り口の改革としては、今年度から着手した入学直後の学生の動機づけに加え、入試方式ごとの学生の特性分析を通じた選抜方法の検証を考えている。
 中身の改革は、中退予防や経年比較に基づくカリキュラムの検証・見直し。2019年度は4年生にもGPSを実施し、4年間の学修成果に基づく教学改善につなげたい考えだ。
 グローバル・コミュニケーション学群は全員留学を掲げているが、リベラルアーツ学群、ビジネスマネジメント学群等では留学が卒業要件ではないため、留学しない学生もいるという。今回のアセスメントで、留学を希望しない1年生の中には海外からの帰国生や高校で長期留学を経験済みの者が一定数いることがわかった。今後、別のプログラムの提供によって成長支援をすることも考えられそうだ。
 そして、アセスメントをキャリア支援にも活用する。学生がGPS- Academicの結果をベネッセi-キャリアのオファー型就職支援サービス・dodaキャンパスに任意で登録し、就職活動時に活用するというものだ。dodaキャンパスには1年次からの経験をポートフォリオとして記入でき、学生自身がこれを企業に公開することでオファーを受け取れるようになる。桜美林大学では、学生の在学中の学修成果を企業に適切に評価してもらえるよう、ポートフォリオとアセスメントを組み合わせてアピールできる支援策を講じている。「自分にとってメリットがあると考える学生にはこの仕組みを積極的に活用し、可能性を広げてほしい」。
 鳥居部長は「大学の教職員の仕事はエビデンスがなくてもやれないことはないが、今後はそれでは立ち行かなくなる。われわれにとって最も重視すべき学生のデータに向き合うことを出発点にして、データに基づいてPDCAを回す方向へと教職員の意識を変えていきたい」と話す。
 GPSの実施は今後、教務を担当するフロントラインの部門に移し、IR・アーカイブスセンターは結果の分析を担うなど、体制を整えていきたという。経年比較による分析の精度向上のためにも次年度からは受検率を上げられるよう、学内のPC教室での実施など、具体策を検討する。

*GPS‐Academicの詳しい紹介はこちら
*dodaキャンパスの詳しい紹介はこちら


*他大学におけるGPS‐Academicの活用事例はこちら
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