2019.0611

文科省による学生調査の試行案―対象は3年次、学部単位で結果を公表

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3行でわかるこの記事のポイント

●一部の大学を対象に11月から12月にかけて実施
●教育力を可視化して大学改革を促し、大学選びに役立つ情報提供も
●さまざまな授業方式について「経験したか」「有用だったか」と質問

文部科学省は2019年度に予定している学生調査の試行実施に関する案を公表した。一部の大学を抽出して3年生全員を対象に調査、学びの主体である学生の目線から大学での学びの実態を明らかにして公表する。試行調査の結果をふまえ、今後、全大学の学生を対象に本格的な調査を行う予定だ。調査結果を教育の質向上につなげ、「学生にこそ大学を変える力がある」というメッセージを発信したい考え。公表によって受験生の大学選びを支援するねらいもある。国による初の大規模な学生調査が、「何を教えたか」よりも「学生自身がどれだけ成長したと実感しているか」を重視する学生本位の教育への転換を大学に迫ることになる。

*文科省の公表資料はこちら


●6月中旬、全大学に試行調査への参加可否を確認

 学生の目線を通して学びの実態を把握し、公表する目的について文科省は、①社会に対して大学の教育力を可視化する、②大学がベンチマークを行い教育改善につなげる、③高校生や保護者に進路選択のための情報を提供する、④学生に自分の学びを振り返り意欲を高めてもらう、⑤国の政策立案のためのデータを得る―などと説明している。担当者は「学生こそが教育の主役であり、大学をより良い方向に変える力があるという我々のメッセージを送りたい」と話す。
 試行調査は文科省と、大学の学習状況調査を実施している国立教育政策研究所との共同で2019年11月から12月をめどに実施される。6月中旬、全大学に参加の可否を問う事前調査を実施して対象校を決める。今後、処理システムのデータ容量を見積もったうえでおおよその調査対象人数を割り出し、校数を設定する。参加の意向を示す大学が予定校数を上回る場合は設置区分やエリア、規模等のバランスを考慮して絞り込む。
 参加大学は、①文科省が作成するチラシの配付等による学生への協力の呼びかけ、②回答者が少ない場合は回答を促す呼びかけ、③大学のウェブサイト等での学生に対する調査結果の報告と、改善についての説明などの発信-といった協力が想定される。

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●学習、サークル、アルバイト等に費やす時間についても質問

 試行調査はインターネット上で、大学での学習経験や身につけた力について問う。大学ごとに回答画面のURLを変え、大学名は選択不要にする方向で検討されている。大問5つを目安に10分程度で回答できる内容になる見通しだ。
 今回の実施案では具体的な調査項目も示された。
 知識や能力の修得に関する質問では「論理的に文章を書く力」「統計数理の知識・技能」「多様な人々と協働する力」等、それぞれの力を身につけるうえで大学教育が「役立っていない」「あまり役に立っていない」「少し役に立っている」「とても役に立っている」等のどれに該当するか尋ねる。傾向をつかみにくくする「どちらとも言えない」は入れない四者択一が考えられている。
 大学での経験に関する大問は「研究室やゼミでの少人数教育」「インターンシップ(5日以上のもの)」等の各項目について、経験したか否か、有用だったか否かを同時に確認する尋ね方になっている。
 ほかに、1週間で授業、予習・復習等、授業以外の学習、部活動/サークル、アルバイト等にそれぞれ何時間費やしているか尋ねる質問もある。
 文科省と国立教育政策研究所のホームページで結果を公表する予定で、各大学の学部単位で調査項目ごとの回答割合や平均値を示す。回答者数30人以上かつ回答率10%以上を公表対象とする方向で検討されている。調査結果は大学を通じて学生にもフィードバックされる。

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●各大学が実施する調査で代替可能にすることも検討

 今後、本格実施の対象学年や時期、調査項目等は試行調査の結果をふまえて検討される。
 調査は3年に1回の実施とする案があり、間の期間で短大生の調査を行うことも検討されている。文科省の担当者は「大学による改善を前提とした調査なので、改善結果を見定めてPDCAを回していくうえで、必ずしも毎年実施するのがいいとも言えない」と説明する。
 すでに多くの大学で学生調査が実施されているため、学生の「調査疲れ」や大学の負担には配慮が求められる。国による調査の実施時期については、各大学の調査の多くが10~12月であることもふまえて決める方向だ。 
 大学が自学の調査に国の調査項目を組み込んで実施し、当該項目のデータを提出することによって国の調査への参加とみなすことも検討するという。また、コンソーシアムなど複数の大学が共通の要件の下で実施するものなど、一定の要件を満たす学生調査についてはそちらでの代替を認めることも検討される。

●将来的には認証評価のエビデンスデータとして活用される可能性も

 2018年11月の「2040 年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」では、学生調査を実施し、「比較できるよう一覧化して公表すべき」と提言された。試行調査の公表は一覧形式ではないが、「本格実施では、大学間で比較して見たいというニーズに応えることもあらためて検討する必要があるだろう」と担当者は話す。
 将来的には、調査結果を大学ポートレートに取り込むことも検討。認証評価におけるエビデンスデータとしての活用も考えられるという
 大学は、本格実施における協力を拒むことができるのか? 「学生は自分の大学を良くするために自分たちの声を届けたいはずだと我々は考えている。対象はあくまでも学生。全大学の学生を対象とする以上、協力いただけない大学については、その大学の学生の声は結果に現れないことを社会に公表することになる」(担当者)。
 文科省がこの実施案を示した中央教育審議会の教学マネジメント特別委員会では、委員から「偏差値以外の大学選びの指標として期待できるので、積極的に推進してほしい」と歓迎する声が目立った。一方、調査対象の学年については「結果を受験生に参考にしてもらうなら、感覚が最も近い1年生を対象とすべき」「大学教育を振り返るという意味では4年次の実施が適切ではないか」などの意見も出た。


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