2018.1127

理工系学生にも不可欠な思考力をアセスメントツールで評価ー工学院大学

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3行でわかるこの記事のポイント

●授業で育成する思考力と表現力を評価するため、GPAに替わる指標を模索
●受検結果に基づき入学予定者を4分類、タイプ別に指導方針を検討
●入学前後に自分の強みを把握させ、伸ばす方法を考えさせる

大学にとって学修成果の可視化が重要課題となっている。そこで活用するデータの取得手段としては学生の生の声を聞く学生調査に加え、汎用的能力等を客観的に測定するアセスメントも有効だ。ベネッセi-キャリアが提供するアセスメント「GPS-Academic」を活用している大学の事例を通して、アセスメント選択のポイントや活用方法を紹介する。今回は受検結果を指導法につなげようとしている工学院大学を取り上げる。


●低学年から思考力と表現力の土台づくり

 工学院大学は新宿・八王子の2 キャンパスに4 学部15 学科を設置している。実践型人材の育成を掲げ、アクティブ・ラーニング形式の実習・演習を積極的に取り入れている。現場の第一線で活躍する実務家教員から密度の高い指導を受けられる点も特徴の一つだ。
 AI が活躍する次世代の社会では、人間が担う役割、職業が大きく変わると言われている。今後、学生たちが出ていく社会ではどのような人材が求められるのか。これは、理工系大学にとって特に重要な共通テーマと言える。工学院大学では、高度IT 化・グローバル化の時代を「生き抜く力」として、理工系の専門知識を実社会とつなげる「思考力」、それを発信する「表現力」の育成に取り組んでいる。
 「近年、本学を卒業した多くの学生たちはエンジニアとして企業に就職し、海外勤務を経験している。グローバル社会では異文化を理解して知識や技術を応用する『思考力』、自分の考えを伝えるための『表現力』が不可欠だ」。教育開発センター所長の吉田司雄教授はそう話す。「思考力や表現力の育成をいきなり英語でやろうとしても難しいのは当たり前で、まずは日本語で『私はこう考える、なぜならば...』という論理的思考力を訓練しておく必要がある。文系の学生に必要だと思われがちな思考力や表現力は、実は理工系の学生にこそ必要だ」。 
 こうした背景の下、工学院大学では、1 年次から論理的思考力を鍛える学部共通科目「ロジカルライティング」を開講。それを2 年次以降の「キャリアデザイン科目」と連携させ、早期から思考力と表現力の土台づくりに取り組んでいる。
 このような科目群で身につけた力を評価するため、従来のGPA に替わる指標を探していたところ、「思考力」の評価基準を持つGPS に関心を持ったという。「GPS によって私たちのプログラムを完結させられると考えた。納品物として、学生の次の行動につながる評価軸が提供されることも選択のポイントとなった」(吉田教授)。

●推薦・AO入試による入学予定者が自宅のパソコンでGPSを受検

 2017年12月と2018年1月、入学前教育の一環として、推薦・AO入試による2018年度入学予定者を対象にGPSを実施。CBT(Computer-Based Testing)方式を利用して自宅のパソコンで受検してもらった。
 この段階での実施には理由があった。GPS を使えば、学業成績にあたるGPA だけでは見えてこない各学生の強みを入学前から把握し、本人に意識させることができる。導入初年度は、GPSの受検結果を用いて「思考力」と「パーソナリティ」を軸とした各学生の傾向を分析。タイプを4 分類し、タイプに応じた指導方針を考えた。

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 ②は思考力が低くパーソナリティが高い学生だ。活発ではあるがじっくり考えてから動くのは苦手というタイプなので、アクティブ・ラーニング型授業等を通じた思考と行動を組み合わせるトレーニングが有効になる。
 ④は逆に思考力が高くてパーソナリティが低い、すなわち頭ではわかっているが行動に移すのが得意ではない学生。①や②のタイプの活発な学生と組ませ、活躍できる場面を作り出していくことが重要だという。
 思考力、パーソナリティ共に低い③のタイプは、アクティブ・ラーニング型授業に加え課外活動への参加を促し、大学で興味を持って取り組めることを早めに見つけさせるという指導方針を考えている。
 吉田教授は「推薦・AO入試による入学者の中には、教科学習が苦手な者も確かにいる。しかし一方で、行動力や思考力が優れている学生も多く、そうした特長を見落としてしまうのは考えものだ。各学生が持つ強みと弱みを把握して入学前や入学後の教育プログラムに反映していきたい」と話す。

●将来的には目標設定のコンパスとしての役割も期待

 工学院大学では今後GPSの受検データを用いて、各学生のポテンシャルを生かすために何が必要なのかを早期に提示し、伸ばしていくためのプログラムの構築をめざす。次年度入学予定の高校3年生に12月、自宅のパソコンで GPSを受検してもらい、その結果や属性を基に2月以降の入学前教育の課題を変えることも検討している。「課題図書などを変えることによって自分の強みを自覚し、それを伸ばす動機づけをしていきたい」と吉田教授。
 吉田教授は近年、新入生から「将来の夢が見つけられない」という声を聞くことが増えたという。強い意思がないまま入学し、与えられた課題を何となくこなしている学生はこの傾向が強いようだ。「学習への動機を失い中退してしまうという残念な結果を避けるためにも、入学前に自分の強みを把握させ、自信をつけさせるための取り組みが必要だ」。
 1年次の「ロジカルライティング」や2年次の「キャリアデザイン科目」では、大半の学生は与えられた課題で型通りのことはできるが、自分の考えや将来の夢がないとそこからもう一歩踏み出すのは難しいという。「そこで足りないのは、自分の頭で『考える力』。将来を見据えるにはまず自分の強みを把握し、それを伸ばす方法を自分で考えることが第一歩」というのが吉田教授の考えだ。「それをやらせるのは、やはり入学前後が絶好のタイミング。GPSの『創造的思考力』『協働的思考力』といった指標には、将来の目標設定のコンパスとしての役割も担ってもらえるのではないかと期待している」。

*GPS- Academicの詳しい説明はこちら


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