2018.1016

「申請17件中、認可は1校」の専門職大学-何が問題視されたのか?

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3行でわかるこの記事のポイント

●大学設置分科会長が「大学教育としての内容・体系性が不十分」とコメント
●多くの申請案件で実習や実務家教員など、制度の要の部分に問題点
●文科省は「従来の大学の実務家教員について調べ、水準の把握を」と助言

2019年度に制度がスタートする専門職大学・専門職短大の設置審査では、高知リハビリテーション専門職大学のみが認可され、1大学1短大が審査継続(保留)となった。大学設置・学校法人審議会の大学設置分科会長が今後の申請者に「大学を設置する社会的責任の重みを十分に自覚」するよう求める異例のコメントを発表。専門職大学の特色である実習や実務家教員に関する申請内容が問題視された。ハードルの高さがあらためて浮かび上がる中、今後、設置をめざす学校法人等はどんな点に留意すればいいのか。分科会長コメントを掘り下げるべく、文部科学省に話を聞いた。
*設置審の答申はこちら
*大学設置分科会長のコメントはこちら


●14校は申請を取り下げ、一部が2020年度以降の設置をめざし再申請へ

 専門職大学は、社会変化に迅速に対応してイノベーションを起こせる人材を育成するという目的の下、産業界との密接な連携はじめ教育体制やカリキュラム編成に高いハードルを設けている。初年度はいずれも専門学校を持つ学校法人から13大学3短大の新設が申請され、1学科(専門職学科)の新設申請もあった。保留の2校が認可されても、初年度は2大学1短大のみでのスタートとなる。残る14校は申請を取り下げ、一部は2020年度以降の新設をめざしてあらためて申請する方向だ。 「専門職大学等の審査結果について」と題する大学設置分科会長のコメントでは、「実習の内容、評価基準、実施体制が十分検討されていない」「優れた実務上の業績がない者が実務家の教授等として申請されている」など、設置基準が求める質やレベルを申請者が的確に認識していなかったとも推測できる問題点を挙げ、「大学教育としての内容・体系性が不十分」と指摘している。
 また、コメントでは「実習の必要単位数や実務家教員について設置基準に定める要件を明らかに欠いている」「申請に必要な書類が十分作成されていない」と、申請の基本的な部分にも疑問を投げかけている。「審査意見に対して適切に対応がなされないなどの状況も多くみられ、審査に支障を来すことも少なくなかった」という。
 そして、「多くの申請案件において、制度創設初年度であるものの、総じて準備不足で法人として大学設置に取り組む体制が不十分と感じられた」としている。今後の申請者に対し「大学を設置する社会的責任の重みを十分に自覚いただき」と、異例とも言える厳しい注文をつけた。

●「実習の水準確保を実施施設に丸投げ?」ととれるケースも

 大学設置分科会長のコメントで列挙された問題点を掘り下げると、具体的にどのような示唆が得られるのか。
 実務家教員については「優れた実務上の業績がない者が実務家の教授等として申請されている」と指摘されたが、文科省の担当者は「5年以上の実務経験さえあればいいと考えている申請者もいたのでは?」と見る。設置基準では、実務家教員は「おおむね5年以上の実務の経験」に加え、教授であれば「専攻分野について、特に優れた知識及び経験を有すると認められる者」などの要件が挙げられている。「設置基準ではこれ以上の具体的な説明や例は示していないが、従来の大学にも実務家教員が多くいる。そういった人たちにどのような実績があり、どのような活動をしているか調べて要件を理解してほしい」(担当者)。
 「実習の内容、評価基準、実施体制」については、認可申請の提出書類作成の手引きで、複数の施設に分かれて実習を行う場合でもそのすべてで一定の水準を確保するよう求めている。しかし、「水準確保に関する具体的記述がなく、実習先に丸投げしているように見えるケースもあった」という。実習成果の評価についても明確に記載されず、公平性の担保に疑念が生じる例もあったようだ。
 「教育課程連携協議会の構成員が不適切」という点については、設置基準で専門分野の業界団体関係者、地方公共団体などの地元関係者をそれぞれ加えるという規定があるが、これらを満たしていないケースがあったという。
 「施設・設備等の面」の問題については、共同研究室での申請を例に挙げ、「個室が必須というわけではないが、大部屋のような場所で本当にその研究をすることが可能なのか、成果物の保存も適正になされるか」との疑問を感じたという。

●申請者と文科省のコミュニケーション不足、時間不足も一因か

 2017年12月の文科省への取材では、当時の担当者が「通常、大学の設置審査では申請前に文科省に事務相談をするのが一般的だが、今回の専門職大学の申請では事務相談を経ずにいきなり申請してきたケースも多い」と話していた。多くが大学の設置経験がない専門学校主体の法人である中、こうしたコミュニケーション不足も今回の審査結果につながった可能性がある。
 大学設置分科会長のコメントでは、文科省に対しても「各申請者が専門職大学の制度趣旨を十分理解し、十分な準備の上で申請を行えるよう、専門職大学制度の周知・徹底を」と注文をつけた。文科省の担当者は「2017年9月に設置基準ができ、11月末に申請締め切りと、準備期間が短い中で進めざるを得なかった。この間に説明会も開いたが、どこまで趣旨を伝えきれたかという面はある」と話す。
 こうした反省をふまえ、制度3年目となる2021年度の設置申請については、あらためて説明会を開き理解を深めてもらう考えだ。
 10月末に締め切られる2020年度設置分については、さまざまな専門分野について申請に関する相談があるという。「大学の学位の重さを考えれば当然、厳しい基準で質を求めていくことになる。少しずつでも、いろんな分野の優れた専門職大学が増えていくよう期待したい」と担当者は話す。